第29話 成果
ドラゴンを食おう。
ベクターとクリスの狙いは、お互いの寿命を合わせること。魔力で活性化された肉体は寿命が伸びるので、解呪と同時に魔力を失ったクリスは、魔力が強化されたままのベクターとは寿命が大きく違ってしまった。
8年間のヤングケアラー生活でボロボロになったベクターを一番近くで見てきたクリスは、自分が先に死んでベクターを長く独りぼっちにしてしまうことを嫌った。
そして、それは逆も然りで――
「このくらいか?」
「いや、少しだけクリスのほうが強いようじゃ」
「よし、もうひとくち食べるか」
火魔法を増幅した結界でドラゴンを包み、丸焼きにして。
まずは半分クリスが食べ、残った1.5頭分をちょうど半分ずつになるように調節しながら食べ進めていく。
「これでどうだ?」
「今度は少しベクターのほうが強い」
「じゃあ、今度は私がひとくち食べるわよ」
残り少なくなった肉を半分にして、魔力の少ないほうが食べる。
すると、どっちの魔力が強いか、その優劣が逆転する。
残った肉を半分にして、魔力の少ないほうが食べる。
すると、また魔力の優劣が逆転。
それを繰り返して、2人の魔力を限りなく等しい量に近づけていく。
スミスがそのための計測器まで作って、正確に揃えようとベクターたちは躍起になった。
「クリスのリハビリじゃなくて、囚われたお姫様を助けに行った騎士とかの設定に改変すれば……」
フォルテは肉と格闘する3人をそっちのけで作曲に没頭していた。
集中するにつれて、3人の声は意識の外へ――
「「できたぁーっ!」」
「わひゃぁ!? ちょっと、驚かせないでよ。あー、もう……! びっくりして書き損じたじゃないか」
「やっほーう!」
「揃った揃った!」
「すまんのぅ。やっと2人の魔力量が揃ったのじゃ」
ハイタッチして喜ぶベクターとクリス。
さっそく魔力を共振させて具合を確かめる。
「よしよし、いい感じ」
「スミス。ロングコートもう1回作ってよ」
素材になったドラゴンが別個体なので、クリスの魔力ではロングコートと共振せず、ベクターみたいに不定形に変形させる事はできなかった。
だが同一個体の素材なら手元にある。まさに今その肉を食べていたところなのだから。
「任せておけ。
このあと財宝を探すのも忘れるでないぞ」
「「はーい」」
ドラゴンの翼から、スミスはたちまちロングコートをこしらえた。
ついでにベクターのロングコートにも手を加え、今回ドワーフ山岳王国で困った点へ改良を――気圧耐性や無呼吸耐性を加える。ベクターなら結界でも対応可能だが、念のためだ。予備の手段を備えておく。冒険者になって最初に学んだことである。
◇
ベクターとクリスが目的を果たした。
次にドラゴンの巣を探し、財宝を手に入れる。スミスの目的だ。破損した工房を立て直す資金にするためである。
ドラゴン1頭分よりも25%多くなり、今までの2.5倍に増えた魔力で、ベクターが探知結界を放つ。射程距離も効果範囲もぐんと伸びて、巣はすぐに見つかった。
「おお……! これは見事な……!」
金属を見慣れたダークドワーフをして見事と言わしめる。
そこには黄金の山があった。民家の1軒や2軒なら丸ごと埋まるだろう。
「とても持ちきれんわい」
「俺が結界で運ぶよ」
「よし頼もう。
儂は工房の再建に必要な分だけ貰えればよい。あとは手間賃に取っておけ」
「いやいや、きれいに4当分するさ」
「そんなに貰っても、どう運べというんじゃ。
工房を再建したとて、置いておく場所もないわい」
「ボクも持ち運ぶのに困るほどの量は遠慮するよ」
「フォルテもか」
「私の分は、どうせベクターに持ってもらうことになるわよ」
「クリス……それはそうだけど。
じゃあ、結局俺が全部持ってればいいのか」
「魔法鞄でもあればいいんじゃがな」
「それだ。
全員分の魔法鞄を手に入れよう」
「全員分て……ダンジョンでごくたまにしか見つからん希少品じゃぞ」
「いいじゃん。他にやることもないし。
そういえば『真鍮の蝙蝠』の連中が『敗北者の楽園』とかいうデカいダンジョンがあるって言ってたな。遠いらしいが俺達なら問題ないだろ。行くか」
「私はどこへでもベクターについていくわ」
「新しい冒険譚だね。賛成だよ」
「……研究資金にもなるか。儂だけ手を引くのも損じゃな」
次の行き先が決まった。
◇
次に冒険者ギルドへ行く。
討伐完了の手続きだ。
「「いぇーい! 主役の登場だ!」」
ドアをくぐった途端に、ギルド内が湧いた。
誰も彼もが酒杯を手にして騒いでいる。
「ドラゴン討伐おめでとう!」
「街を守ってくれてありがとう!」
「ドラゴン2頭相手に被害なし! あんたら最高だ!」
「飲め飲め! おごりだ!」
「好きなだけ食え! せめてそのくらいしないと恩返しのしようもないぜ!」
浴びるほど賛辞が飛び交う。
下へも置かないという慣用句は「下座には座らせない」「常に上座に座らせる」という丁寧な歓迎ぶりを由来とする。
だが自分と家族の命、生活、財産。そして故郷と祖国。あらゆる意味で守られた彼らの「下へも置かない」は、いかにもドワーフらしく、特大のジョッキを持たされて、テーブルに置く暇もなく次から次へと注がれる。
「ベロンベロンになる前に伝えておきますが、ベクターさん達には王宮から呼び出しがかかっています。
明日の午後、王宮へ顔を出してください」
受付嬢が言う。
「よかったな、フォルテ」
「何が?」
「めったに無いぞ。王宮を取材できるチャンスなんて」
「ああ、たしかに。そうだね……歌の締めくくりに使えそうだよ」
受付嬢がこのタイミングで伝えたのは、ファインプレーだった。
その後ベクターたちは、絶え間なく注がれる酒ですっかり酔っ払い、ベロンベロンに出来上がって「完成」してしまったのだった。
◇
そして翌日、午後。
王宮へ向かうベクターたちの足取りは重かった。
完全に二日酔いである。正直、午後で助かった。これが朝だったら、まったく身動きもできなかっただろう。
「そなたらの活躍は我が国を救ったと断じるに十分である。
よって、ここにSランクの推薦状を授ける」
式典という名の格式張った複雑な手順を踏んで、王宮がベクターたちを呼んだのは、要するにその一言を伝えるためだけの事だった。
Sランク認定の情報は、冒険者ギルドの支部から支部へと伝えられた。それはベクターの故郷に近い支部へも。
「……まあ、正直、時間の問題でしたね」
人間の王国の片隅で、ロングホーン山を見上げて受付嬢がつぶやいた。
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