第8話 聖胤の儀 〜強制受胎プロセス、起動〜
気がつけば私は王都エルディアの中心、その地下深くへと移送されていた。
道中の記憶は曖昧だ。過剰な快感と絶望で脳が焼き切れ、半ば気絶するようにして魔王城から運び出されたのだろう。
目を覚ました時には既に厳重な警備が敷かれた王宮の最深部――「白百合の離宮」と呼ばれる隠しエリアへと運び込まれていた。
歴代の勇者たちが「保護」という名目で幽閉され、王家の世継ぎを孕まされてきたという、忌まわしき孕み姫ルーム。
そこは息を呑むほど豪華絢爛な空間だった。
床には足首まで沈み込むような最高級の絨毯が敷き詰められ、壁には美しい百合の花のレリーフが彫り込まれている。部屋の中央には大人十人が寝転がっても余りあるほどの巨大な天蓋付きベッドが鎮座し、シルクのシーツと大量のふかふかクッションが私を待ち受けていた。
しかしその狂気的なまでの豪華さとは裏腹に、この部屋には致命的なものが欠けていた。
――窓がない。
外の光を一切入れず逃げ道を物理的に遮断した完全なる密室。ここは紛れもなく、極上の装飾を施された「黄金の鳥籠」だった。
そして何より私を絶望させているのは、今まさに着せられているこの衣装である。
到着するなり再雇用されてすっかり王女の忠実な猟犬(お世話係)と化したヤンデレ三人組の手によって、私は隅々まで身体を磨き上げられ、薄桃色のフリフリなベビードールを強制的に着せられていた。
薄絹一枚の生地は肌の輪郭を露わに透かして防御力など皆無だが、それ以上に問題なのはその「形状」だった。
胸下で切り替えられた生地は、そこから下に向かってふんわりと広がるように縫製されている。つまり、腹回りの空間だけが妙にゆったりと作られているのだ。
(なにこの部屋!? 無駄に豪華だけど窓が一つもない! 完全に監禁特化型じゃないか! ていうかこの服、腹回りだけ妙にゆったりしてるの何!? まだ孕んでないから! 気の早いマタニティウェア着せるな!!)
私はベッドの中央に座らされたまま、心の中で全力のツッコミを入れた。
これから自分のお腹がぽっこりと膨らんでいくことを前提とした衣装デザイン。その事実が私の前世からの男としての尊厳をゴリゴリと削り取っていく。
「お似合いですよ、ミナ様。これなら、お腹に殿下の赤ちゃんが宿って大きくなっても、苦しくありませんからね」
「⋯⋯うん。ミナ、すごく可愛い。最高のお母さんになれる」
「ああ、早くこのお腹が殿下の愛で満たされるのを見たいものだ!」
ベッドの周囲に控えるエレナ、ルナ、ヴァネッサの三人が、うっとりとした表情で私のお腹を見つめている。その視線が恐ろしくて、私は無意識に両腕で自分のお腹を庇うように抱きしめた。
その時、重厚な扉が開く音が室内に響いた。
三人が弾かれたようにその場に跪き、頭を下げる。
「お待たせいたしました、私の可愛い勇者様」
現れたのは夜の帳を思わせる漆黒のネグリジェを身に纏ったソフィア王女殿下だった。
普段の清楚なドレス姿とは打って変わって妖艶で、どこか蠱惑的な香りを漂わせている。
銀糸のような長い髪が歩くたびに揺れ、その碧眼は完全に「今夜の食事」を見据える捕食者のそれだった。
ソフィア様は跪く三人を一瞥し「ご苦労様。下がって良いですよ」と優雅に告げた。三人は一礼すると音もなく部屋から退室していく。
重い扉が閉まり、カチャリと鍵がかけられる音がした。
密室に最強のラスボスと生贄の私。一対一。
ソフィア様はふわりとした足取りでベッドに上がり、私の方へと這い寄ってきた。
「さぁミナ様。王家の世継ぎを作る神聖な儀式を始めましょうね」
甘い囁きと共に彼女の白く細い腕が私の肩を抱き寄せ、そのままベッドのクッション群へと押し倒した。
圧倒的な格上のオーラ。逆らうことなど微塵も許さない、王族としての絶対的な威圧感が私の身体を縫い留める。
「ひっ⋯⋯!」
ソフィア様の魔力を帯びた指先がベビードールの胸元をツーッと滑り落ち、私の素肌を直接なぞった。
たったそれだけの接触で私の身体はまたしても落雷を受けたかのように、ビクンッ! と大きく跳ね上がった。
「ああっ⋯⋯!? は、あぁっ⋯⋯!」
(や、やっぱりこれおかしいよね!?)
触れられた箇所から強烈な熱と甘い痺れが波紋のように広がり、脳髄へと直接快感が叩き込まれる。
王家は代々、勇者の神核(魔力の器)を「王家の魔力」によって満たし子を成すために最適化してきていた。裏を返せば王族の魔力に触れただけで極上の快楽を感じてしまうという、呪いにも似た仕様が刻み込まれているのだ。
ヤンデレ三人組の愛撫とは次元が違う。魂の根源から「降伏」を強いられるような、抗いがたい快楽の暴力。
「いやっ、触るな! はなっ、離してください!」
私は必死に身をよじり、ソフィア様の胸元を両手で押し返そうとした。だがチートを貰い強化されているはずの勇者の力は、王族の魔力の前では羽毛のように軽く、まったく抵抗にならない。
「⋯⋯私、は! 私は⋯⋯男だ! 本当は、中身が男なんだぞ!」
極限の恐怖と屈辱の中、混乱する私はついに最大の秘密を口走ってしまった。
異世界転生――前世は日本人男性、TS転生した偽りの美少女。
これを言えばソフィア様も気味悪がって私を抱くのをやめるかもしれない。一縷の望みを託した、魂の叫びだった。声が甘く震え、語尾が裏返ってしまっていたのが情けないが。
しかし。
「あらあら、元気な勇者様」
ソフィア様はピクリとも動揺しなかった。
それどころか彼女の碧眼に浮かんだのは極上の玩具を見つけたサディストのような、背筋の凍るような愉悦の光だった。
「前世が男? ふふっ⋯⋯それは素晴らしい。誇り高き男の魂を持った勇者様が、私の魔力で雌として開発され身籠らされる⋯⋯。男の人を妊娠させるなんて背徳的で興奮しますね♡」
(ど、どうじて、ぞうなるのぉぉぉぉ!?)
斜め上すぎるリアクションに私の心がポキリと音を立てて折れかけた。
ダメだこの人! まともな倫理観が一切通用しない! むしろ燃料を投下してしまっただけじゃないか!
「でも、ミナ様? 心は男だと仰る割には⋯⋯体はこんなに正直ですよ?」
「ひゃあぁっ!?」
ソフィア様の指先がベビードールの裾をまくり上げ、私の太腿の内側――最も敏感な箇所をピンポイントで撫で上げた。
「あっ、んぅっ! やめ、そこ、は⋯⋯っ!」
「あらあら。まだ撫でただけなのに、こんなにビクビクと震えて。私に触れられて嬉しいのですね?」
(ふざ、けるなっ⋯⋯! ただの物理現象だ、こんなの! 私の魂は男なんだぞ! たえろ、我慢しろ!)
私は奥歯を噛み締め、必死に快感を逃そうとした。
だがソフィア様のテクニックは絶望的なまでに極上だった。王家秘伝の「儀式」として研鑽されてきたその愛撫は、私の身体のどこをどう触れば最も効率的に理性を溶かせるかを、完全に熟知していた。
指先が胸の頭頂部を優しく、しかし執拗に弾き、もう片方の手が下腹部の柔らかな肉を円を描くように揉みほぐす。
「はぁっ、あ、ああっ⋯⋯! んんっ!」
『ああっ!? なんでそこピンポイントで突いてくんだよこの王族ゥゥゥッ!! 知識と技術の暴力! 無理だよ、耐えられない!』
「とっても良い反応です。ルナたちの努力の賜物ですね。⋯⋯では、そろそろ『種』を注ぎましょうか」
ソフィア様が私の上に完全に馬乗りになる。
彼女の顔が近づき、美しい銀髪が私の視界を覆い尽くした。
「たくさん飲んで、私との可愛い赤ちゃんを作ってくださいね、ミナ様」
甘い囁きと共にソフィア様の柔らかい唇が私の唇を塞いだ。
「んむっ⋯⋯!?」
物理的な交わりではない。それは物理以上の魂を直接、侵犯されるような行為だった。
重なり合った唇からソフィア様の体内にある濃密な王家の魔力が、濁流のように私の体内へと注ぎ込まれてくる。
――『聖胤の儀』。魔力的なパスを繋ぎ、王族の魔力を『種』として勇者の『器』へと定着させる強制受胎プロセス。
ゴクン、ゴクンと喉の奥を熱い塊が通っていくような錯覚。
注ぎ込まれた魔力は私の体内を駆け巡り、下腹部――子宮のあたりへと集束し、そこで爆発的な熱と快感を生み出した。
「んぐっ! あ、あがぁっ!?」
細胞の一個一個が組み替えられ、強制的に「母体」へと作り変えられていくような感覚。
男としての理性が「拒絶しろ」と叫んでいるのに、勇者としての肉体は注ぎ込まれる王家の種を歓喜と共に迎え入れてしまっている。
絶対服従の快感――抗うことなど不可能な生存本能すら塗り潰す極上の悦楽。
「んぁっ、あぁっ! ああぁぁぁぁっ♡」
ついに限界を超え、私の身体は大きく弓なりに反り返った。
足の指先までがピンと張り詰め、頭の中が真っ白に弾け飛ぶ。強烈な絶頂の波が私という存在の核を容赦なく打ち砕いていく。
唇が離された後も私の口からはだらしない喘ぎ声が零れ落ち続けた。
「あぁっ、んんっ♡ はぁっ、はぁっ♡」
(く、クソッ⋯⋯こんな屈辱⋯⋯っ、絶対に許さ⋯⋯あっ、ああっ♡)
涙が止めどなく溢れ、頬を伝い落ちる。
心の中ではまだ私は男として、ゲーマーとして、この理不尽な世界にツッコミを入れ、足掻こうとしていた。
だが、その思考すらも腹の底から湧き上がってくる圧倒的な快感と甘い充足感に塗り潰されてしまう。
(や、やばい⋯⋯ツッコミ入れてる場合じゃ⋯⋯ひぐっ♡ あ、あぁっ♡ あったかい⋯⋯お腹のなか、熱くて⋯⋯気持ちいい⋯⋯っ♡)
思考が泥のように溶けて理性が快感の前に屈服していく恐怖。
私が私でなくなっていく。男としての魂が完全にメスとして母体としての本能に書き換えられていく。
「んふふ。良い子ですね、ミナ様」
ソフィア様は快感の余韻でガクガクと痙攣する私の頬を優しく撫で、流れ落ちる涙をその美しい舌先でペロリと舐め取った。
「私の子種を奥深くまで受け入れて、こんなに可愛らしく泣いて⋯⋯。たくさん私の魔力を飲んで、お腹を満たして、可愛い赤ちゃんを育ててくださいね」
まるで聖母のような、慈愛に満ちた微笑み。
ソフィア様の温かい腕に抱きしめられながら私は声にならない声で泣き続けた。
逃げ道はない。救いもない。
ここは白百合の離宮――私の尊厳が完全に崩壊し、ただソフィア様の子を産むための雌として堕ちていくための、永遠の黄金の鳥籠。




