第9話 ヤンデレ包囲網と無限耐久の夜
私は天蓋付きの巨大なベッドの上で荒い呼吸を繰り返していた。全身の肌が桃色に染まり視界がチカチカと明滅している。
ソフィア様による第一ラウンド――(聖胤の儀)の導入が終わったのだ。
魔力的なパスを繋がれ、王族の高純度な魔力を体内に流し込まれるという行為は私の想像を遥かに超える負担とそれを上書きするほどの快楽を伴っていた。
「ふぅ⋯⋯。素晴らしい反応でしたよ、ミナ様。一度目の注入でここまで魔力が馴染むなんて、やはり貴女は天才的な器ですね」
ソフィア様が汗ばんだ額をハンカチで優しく拭いながらベッドサイドへと身を引いた。
――助かった。休憩だ。
私のゲーマーとしての勘がインターバルの到来を告げている。今のうちに体勢を整え、精神統一をして、この異常な状況から一刻も早く脱出する策を練らなければ。
(ぜぇぜぇ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ。⋯⋯よし、まだ大丈夫、私は堕ちてない⋯⋯思考をクリアにしろ。ログを見るんだ。敵のパターンを分析して⋯⋯)
だがそんな私の淡い希望は即座に打ち砕かれた。
ソフィア様が退いたスペースに待っていましたとばかりにハイエナたちが群がってきたからだ。
「失礼します、ミナ様。魔力回路の冷却と次弾装填のための最適化を行います」
「動かないで」
「暴れると危ないからな。私が安全を確保してやろう」
ヤンデレ三姉妹だ。
ルナは無表情のまま私の身体の上に手をかざした。彼女の瞳には複雑怪奇な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がっている。
ブォン⋯⋯と低い音がして私の身体が青白い光にスキャンされた。
「⋯⋯スキャン完了。骨盤底筋群の魔力受容体に遅延あり。性感帯のマッピングデータを更新。ソフィア殿下の魔力が最も効率よく子宮へ到達するよう、神経系バイパスを再構築」
ルナの指先が私の太腿の内側や脇腹、首筋といった敏感なポイントを、まるでタブレット端末を操作するかのように冷徹にタップしていく。
「ひゃぅっ!? な、なにするの!?」
「危ない。今、神経をイジってる。⋯⋯ここをこう繋げば感度が30%向上する」
タップされた箇所からピリピリとした電流のような感覚が走り、体内の感覚が強制的に書き換えられていくのが分かる。
(お前ら休ませろ! 仲間だっただろ! なんで王女の種付け作業を全力でサポートしてんの!? マッピングってなんだよ、私の体を人体模型みたいに扱うな! 感度向上とか余計なアプデすんじゃねぇ!)
私の抗議など意に介さず今度はヴァネッサが動いた。
彼女の手には光沢のある上質な白絹の紐が握られている。
「ミナ、これからさらに激しくなる。お前の華奢な体が快感のあまりベッドから転げ落ちて怪我をしないよう、私が守ってやるからな」
「は? 守る? いや、その紐はどう見ても――」
言い終わる前に私の右手首が白絹で縛り上げられ、ベッドの支柱に固定された。続いて左手、右足、左足と⋯⋯瞬く間に私は大の字でベッドに張り付けられた蛙のようになってしまった。
紐はクッション性が高く、肌に食い込まないように配慮されているが、その強度はドラゴンの爪でも引き千切れないほど頑丈だ。
「よし。これならどれだけ暴れても関節を痛めることはない。安心して乱れてくれ」
ヴァネッサが満足げに頷き、私の額にチュッとキスを落とす。
(安心して乱れてくれ、じゃないよ! 完全に拘束されてるだけだろ! 安全対策に見せかけた逃走防止策じゃねーか! クソッ、この過保護なヤンデレ騎士め、物理防御と思考回路が硬すぎるんだよ!)
ルナによる神経マッピング(感度ドーピング)とヴァネッサによる物理固定(逃走不可)。
休憩時間どころか、それは次なる地獄への「セットアップ」の時間でしかなかった。
☆
「お待たせしました。殿下、準備が整いました」
エレナの報告で優雅に紅茶を飲み終えたソフィア様が再びベッドに戻ってきた。
その顔には先ほど以上の余裕と底知れぬ征服欲が湛えられている。
「エレナ、ルナ、ヴァネッサ、ご苦労様。⋯⋯あら、素晴らしい。これなら私の魔力を余すことなく注ぎ込めそうです」
ソフィア様の視線が大の字に固定され、ルナの魔法によって感度倍増の魔法陣が肌に浮き出ている私を捉える。
――第2ラウンドのゴングが、無慈悲に鳴らされた。
「あぁ⋯⋯! ソフィア様⋯⋯もう、無理です⋯⋯っ! 許して⋯⋯!」
私は首を振って懇願したが、ソフィア様は慈愛に満ちた笑顔で私に覆い被さった。
「許すも何もこれは貴女へのご褒美ですよ? さぁ、次はもっと深く繋がりましょう」
ソフィア様の指がルナがマッピングした「最適化ルート」を正確になぞる。
「や、やめ――あがぁぁぁっ!!?♡」
声にならない絶叫が漏れた。
さっきとは桁が違う。指先が触れただけの場所が、まるでマグマを押し当てられたかのように熱く、脳髄が溶けるほどの快感が背骨を駆け抜ける。
神経が直接魔力にハッキングされているような異常感覚。
「ひぃっ、あぁっ! お、おかしくなるぅっ! なにこれ、なにこれぇぇっ!?」
「ふふっ、すごい。指先一つでこんなに反応して⋯⋯。ルナの調整は完璧ですね」
ソフィア様は実験を楽しむかのように私の身体のあちこちを愛撫し、そのたびに私は釣られた魚のように激しく跳ね回った。ヴァネッサの拘束がなければ、本当にベッドから転げ落ちていただろう。
そうして再び唇が重ねられ――第2波の「種」が注入される。
ドクンドクンと体内の魔力回路が悲鳴を上げ、子宮の奥底が熱く脈打つ――許容量の限界。
私の理性と肉体は、とっくにレッドゾーンを振り切っていた。
(あ、これヤバい。マジで落ちる。ブレーカーが落ちる⋯⋯!)
視界が白く染まり意識が遠のいていく――気絶。それはこの無限の地獄から逃れるための唯一の緊急回避手段だった。
意識を失えば快感も感じない。このまま闇に落ちてしまえば、どれだけ楽か――。
私は救いを求めて自ら意識を手放そうとした。
――その瞬間だった。
「ダメですよ、ミナ様♡」
すぐ耳元で聞き慣れた甘ったるい声が囁かれた。
同時に温かく、しかし強烈な光が全身を包み込んだ。
「聖女の祈り・極大回復!」
カッ! と視界が明滅すると次の瞬間、遠のきかけていた意識がガツン! と頭を殴られたように強制的に引き戻された。
泥のように重かった四肢に力が漲り、枯渇しかけていた体力が全快する。ショート寸前だった脳のシナプスが無理やり再接続される。
「は、ぐっ⋯⋯!? ぁえ⋯⋯?」
私はパッチリと目を開けてしまった。
目の前には満面の笑みを浮かべた聖女エレナの顔があった。
「意識を保ったまま、しっかり殿下の愛を受け止めてくださいね♡ 気絶して逃げようなんて不敬ですよ♡」
エレナの手には最高位の回復魔法の光が収束している。
彼女は私が気絶しそうになるタイミングを完全に見計らって回復魔法を叩き込んだのだ。
私の体力(HP)と精神力(MP)は、一瞬でMAXまで回復してしまった。
つまり「元気いっぱいの状態で再び極上の責め苦を受ける」という状態にリセットされたのだ。
(エレナお前ェェェェ!! 回復魔法を拷問の無限耐久に使うなァァァ!!)
私は心の中で絶叫した。
これはゲームで言えば倒されそうになった瞬間に敵が全回復魔法をかけてきて、永遠に殴られ続ける「無限ハメ」だ。リスキル(リスポーンキル)どころの騒ぎではない。
死にたい、でも死ねない! なぜならHPが常にMAXだから! 気絶という唯一の逃げ道すら塞がれている!
(なにこのクソゲー仕様!? バグだろ! 運営、BANしろよこのチーター聖女!! てかどこが聖女なんだよ!!!)
「あらミナ様。顔色が良くなりましたね。ではもう一発、中にぶち込みましょうか」
全回復した私を見てソフィア様が嬉しそうに目を細める。その手は私の下腹部を執拗に撫でていた。
「い、いやだ⋯⋯やめて! せめて気絶させて⋯⋯眠らせてぇぇぇ!」
「ふふっ、元気な声。まだまだ愛し足りないようですね」
第3ラウンド、第4ラウンド⋯⋯。
夜はまだ始まったばかりだった。
☆
一体、どれほどの時間が経過したのだろうか。
窓のない「白百合の離宮」では、朝が来たのか夜なのかすら分からない。
ただソフィア様による圧倒的な愛撫と魔力注入、そして三人の狂気的なアシストにより、私の「男としてのプライド」は粉々にすり潰され、砂粒のように風化しかけていた。
「んぁっ、あぁっ! ⋯⋯ひぐっ、んんっ♡」
口から漏れるのは、もはや言葉ですらない。
ただの音、快楽に打ちひしがれ降伏を示すだけの甘い鳴き声。
ソフィア様が動くたびに体内の奥底に植え付けられた「種」が熱を持ち、私の全身を支配する。
男だった頃の記憶――会社での仕事、ゲームの攻略情報、好きだったラーメンの味――それらが、霞のように遠ざかっていく。
代わりに脳を埋め尽くすのはソフィア様の匂い、魔力の味、そしてお腹の奥が満たされるという、おぞましくも甘美な充足感。
「いい子ですね、ミナ様。その蕩けた顔⋯⋯とても可愛いですよ」
ソフィア様が汗と涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を覗き込む。
「ああ⋯⋯ソフィア、さま⋯⋯っ♡」
無意識のうちに私は彼女を求めていた。
怖い。悔しい。腹が立つ。
なのに彼女に触れられないと寂しくてたまらない身体にされてしまった。
ルナの最適化が、エレナの回復が、ヴァネッサの拘束が、私を「ソフィア様専用の雌」へと作り変えてしまったのだ。
(も、だめ⋯⋯っ、ゆるし、て⋯⋯っ♡ あたま、おかしくなるぅ⋯⋯っ♡)
思考の海に沈んでいく。
もう、このまま全てを諦めて彼女のペットになってしまえば楽になれる。
赤ちゃんを産んで、可愛がられて、一生この鳥籠の中で暮らすのも、悪くないかもしれない⋯⋯。
(⋯⋯いや、だ⋯⋯)
消え入りそうな意識の片隅で最後の1%の理性が、小さな火花を散らした。
(誰が⋯⋯認めるか⋯⋯っ。私は⋯⋯ゲーマーだ⋯⋯。こんな、バグだらけの⋯⋯クソイベント⋯⋯絶対に、攻略してやる⋯⋯っ)
それはプライドというよりは、もはやただの意地。
根っからのゲスであり愉悦部員である私の最後の抵抗ライン。
(お”っ♡ ⋯⋯だれか⋯⋯っ、ログアウトボタン、どこ⋯⋯っ♡)
心の中では中指を立てているつもりだった。
けれど現実の私の身体はソフィア様の首に縋り付き、その豊満な胸に顔を埋めて涎を垂らしながら快楽を貪っているだけだった。
白濁した思考の中で私は確信する。
このままでは本当に「心」まで完全に雌堕ちする。
ゲームオーバーの足音は、もうすぐそこまで迫っていた。




