10話「うんざりする二人組」
ノアと一緒に散歩をする。だが、彼女の口数は少なかった。
彼女と庭を散歩することは何度かあった。その度に庭の植物の話をしてくれたり、私からの質問に答えてくれたりして、何かと話題は絶えなかった。
多分、先程のアニーの言葉でショックを受けているのかもしれない。見た目こそ微笑んでいるが、いつもの元気は見受けられない。
「アニーとは面識があったの?」
「はい、父とアニー様のお父様は仲が良くて……たまにお茶をしたりお話をする程度でした」
「そう……その時もあんな感じだったの?」
「あの頃はもう少し穏やかな気がしていたのですが……いえ! 今の言葉は聞かなかったことになさってください」
「勿論。誰にも言わないわ」
アニーの両親は彼女を甘やかしすぎた。それが今日の彼女を形成している。
多分、誰も注意するような人間がいなかったのかもしれない。なんだかんだ、好き放題しているようだし。
なんならアルビーと仲が良いようだから、それなりに自分は偉いとでも思っているのだろう。それは大きな間違いなのだけど。
「……ところで、アニー様はなんの御用だったのでしょう?」
「大した用事じゃないでしょうし、ノアもあんな酷い言葉を聞く必要ないからね」
「ありがとうございます。庇ってくださって嬉しかったです。しかし、アニー様からヴィクトリア様が悪く思われるのは辛いです」
「見苦しいところ見せてごめんなさい。でも、私は自分にとって大切な人からの評価以外、どうでも良いの。だから気にしないで」
そう、気にするだけ損だ。
気持ちを切り替えて、ノアの手首をぎゅっと掴んでみる。俯いていたノアはどこへやら、私の方を見つめている。
「ヴィクトリア様は、とてもお強いです」
「そういうわけじゃないの」
ヴィクトリアになってから、少し調子に乗りすぎただろうか。しかし、別に私も強いわけじゃない。
私は朝倉凛として生きている時から、あまり融通の効かない性格をしていた。頭が固いものだから、人から煙たがれることもあった。
そりゃあ凹むことも多いし、悔しい思いだってしてきた。ただ、あの時こうしておけばよかったというような後悔だけは少ない。
欲を言えば、弟の更生と母親への親孝行をしたかったけど。
「おい!」
「ヴィクトリア!」
「この声って……アニー、あなた帰ってなかったの? アルビーもなんの用事?」
うんざりした。そう、心底うんざりした。
ただノアと散歩をしていたいだけなのに、目の前にはアルビーとアニーの2人が立ち塞がってくる。
アルビーは腕を組みつつ、私の名前を呼んでいる。不敵な笑みを浮かべ、少し格好付けているように見える。しかし、一瞬ノアと視線が合ったのか、急いで視線を逸らしたのを見逃しはしなかった。
先程帰ったはずのアニーは、余裕そうな表情だ。しかしその表情とは裏腹に、アルビーの少し後ろに立っている。
「私の話、聞かなかったじゃない!」
「アニーのことを追い返したんだって?」
「親しい仲だとしても礼儀は必要だものね。折角来てくれたのに追い返す形になったのはやりすぎたかもしれないわ。ごめんなさい。」
「そ、そうよ! 折角来てあげたのに」
「ね? だからあなたにも言えることよ。礼儀は大切なんだから、いきなり人の家を訪ねてきて大声をあげたり、暴言を吐くのはどうなの?」
それは、と言葉を詰まらせたようなアニーに溜息を吐いた。それがいけなかったのかもしれない。
「私とヴィクトリアは別に親しいわけじゃないし……何言ってるわけ? 勘違いしないで」
アニーはこちらを睨みつけながら、さらに言葉をかけてきた。彼女は多分、自分に自信を持っている。プライドも高いのだ。
故に自分の非を認めることができなかったり、引くに引けないこともあるのだろう。
「それもそうね。ただ、親しくないなら尚更気をつけるべきよ」
「うっ、ちょっとアルビー!」
「は? 俺は着いてこいって言うから着いてきたんだよ。別に援護する気はないからな」
「意気地なし!」
何やら2人で言い合いを始めている。この2人の痴話喧嘩を見せるために、わざわざ2人でお出ましになったのだろうか。
だが、そういうバカップルみたいなことは人前でするべきじゃない。大体、時間は有限だ。この時間は勿体無い。
「2人の婚約報告でもしにきたの?」
「この女だけはないな。下品で面倒くさそうだ」
「うるさいわよ、私の方からお断りだわ。この失礼男!」
「……で?」
「今度19も歳の離れた男のところへ行くんですって?」
その話か。この2人、よくわからないが息ぴったりだな。
私が19も年上のおじさんとの結婚に消極的なのを理解しているな。この国でも、やっぱりそこまで年上と結婚するのは異常なことなんだな。そうでなければ、アニーが年齢をわざわざ公にする必要ないはずだし。
2人揃ってニヤニヤニマニマしてて、この性格最悪組がくっついたとしたら、私の勝利への道が危険な気がする。
「え……あの、ヴィクトリア様?」
ノアは目を見開いた後、何故という表情でこちらを見ている。
そりゃあ、驚きもするよね。
でも大丈夫。そんなの絶対に相手から嫌われるように差し向けてやるんだから。
「たかがメイド1人のために、歳上の男と縁談なんて……お前の利用価値はそれくらいしかないんだよ」
「ヴィクトリア様!? 私のためって、どう言うことですか!」
「お前等が、特にそのメイドが時期国王の俺にしたことを思えば、当然だろうな」
「汚いジジイのために生きるといいわ。可愛らしいお姫様の王子様は……ジジイ。笑っちゃうわ」
ノアのためということを、彼女の目の前で言う必要なはない。
ただ、それがノアに罪悪感を持たせたり心を傷つけるには十分であることはわかった。
無駄なゲラゲラと笑っているアルビーに腹が立った。
アニーにも腹が立つ。
「いい加減、聞き苦しいわ。口を閉じなさいよ」




