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外伝 間諜ナタリーさん その二 選抜

『ナタリー、お前ケルンで働きたくないか?』


 ある日、食堂の後片付けをしていた時、駅長にそう声を掛けられた。


『ケルンでですか?』


『なんだかお忍びの偉い人のお世話係がいるそうだ。周辺から希望者をケルンに集めて選抜するんだと』


『もっと詳しい事は分からないのですか?』


『”お嬢様”のお世話係って書いてあるだけだ。お手当は月2グルデンだと。なんでもランベルト様が直接選ぶらしい』


『行きます。行かせてください』


『ケルンのクローネ亭という食堂兼宿屋に1週間後に集合だそうだ。選抜に落ちても旅費と手当が出るらしい』


『分かりました』


『もし合格したらお前の仕事はビアンカに継がせていいよな』


『あんな口の軽い子は給仕はともかく任務には向きません。ちゃんとした子を探してください』


『分かった』


 不在の間の宿の給仕の仕事はビアンカに任せる事にして、集合日の2日前にケルンに向け出発した。途中、宿駅で一泊して、予定通りケルンに到着。翌朝指示にあった食堂に向かう。


『ノイシュタットのナタリー・シュミットです』


『ノイシュタットのナタリー・シュミット……よし、入れ』


 入口で名前を告げて中に入ると、10人ほどの女性が既に到着していた。少し高くなったステージの上に男の人が上がった。


『これで全員揃ったな。聞いていると思うが、今日は”お嬢様”のお世話係の選抜を行う。まず君たちの技能を見たい。しっかりやってくれ』


 

 私達は3組に分かれて、順番に、料理、給仕とテーブルの片付け、2階の宿泊室の掃除をやらされた。一通り終わると全員が食堂に戻された。


『カタリーナ、リーザ、ナタリーはこちらに。残りの者はご苦労だった。係の者に手当を貰ってくれ』


 よかった、受かった。でも3人も?


『これからランベルト様がお前達の中から1名を選ばれる。こちらに』


 調理場の横にある扉を開けて、奥の通路を通ると突き当りにある扉の前に警備の人間が立っていた。


『合格者3名を連れて来ました』


 警備の者が部屋の中に告げると扉が開いた。


 中は豪華な部屋だった。こんな部屋があるなんて。奥に置かれた椅子に座っておられるのがランベルト様のようだ。


 ランベルト様の席の後ろに女性が立ってた。あれが“お嬢様”なんだろうか?


『合格したのはカタリーナ、リーザ、ナタリーの3名です、ランベルト様』


『3人ともご苦労。これから言う事は秘密だ。他言は無用。その上で君らの希望を聞きたい』


『私達の希望をお聞きいただけるのですか?』


 あの人は確かカタリーナ。


『希望しない者に無理強いしたくない。きちっとした仕事をしてもらうためにも』


『分かりました』


『それで、お世話してもらいたいお嬢さんと言うのはアネット・ロンさんだ』


 えっ。


『アネット・ロンさんと言うのはアンジュ公爵令嬢の替え玉でヨハン様を謀ったと言うあのアネット・ロンの事ですか』


『そうだ。良く知ってるな』


『辞退します。アネット・ロンは帝国を謀った、ただの傭兵崩れという事ではないですか』


『カタリーナは辞退するという事だな。分かった。ご苦労だったな。帰っていい。手当を貰うの忘れるなよ』


 カタリーナはドアから出て行った。ドアが閉まるとランベルト様は続けた。


『リーザはどうだ?』


『私は任務を選り好みはしません』


『ナタリーは?』


『私に是非やらせて下さい』


 ランベルト様の後ろに控えていた女性が少し前に出る。


『ランベルト様、私に少し質問させてもらえますか?』


『いいぞ』


 この人は……絶世の美女ではない。多分アネット・ロンさんじゃない。


『リーザさんはこの任務が何のためだと思いますか?』


『分かりません。任務について知らされない事を詮索すべきでないと心得ます』


『ナタリーさん、あなたは何故この仕事をやりたいと思うのですか?』


『アネット・ロンさんって凄いと思うのですよ。アネット・ロンさんの様な方に一度会ってみたいと思っていたのです』


 リーザが私を睨んでる気がする。


『何処が凄いと思うのですか?』


『庶民なのに帝室の方々と対等に渡り合ったって言うではありませんか。それに大金を使って召使いまで救ったって。そういう人の事を凄いとおもうのは不遜な考えかもしれませんが』


「ランベルト様、私はナタリーさんがアネット様のお世話係にふさわしいと思います」


「どうしてナタリーの方が良いと?」


「リーザさんは優秀な間諜かもしれませんが、必要なのは監視役ではなく小間使いとしてアネット様に仕える者です。監視役を付けたのを察知したらアネット様はまた逃亡しますよ。本気になったアネット様を一人で抑えられる女性なんていません。一方ナタリーさんにはアネット様を敬う気持ちがあると思います。きっとアネット様はナタリーさんの事を受け入れますよ」


 その女性は何か知らない言葉でランベルト様と話してる。多分王国語。


『リーザ、君が優秀な要員である事が分かったが、今回はナタリーが適任と判断した。今日は帰ってくれ。後日別の重大任務を頼むことになると思うから覚悟しておいてくれ』


『分かりました』


 リーザは扉から出て行った。


『さて、ナタリー。これから任務の詳細について説明してもらう。こちらの女性はアネット嬢の侍女のアメリさんだ』


アネット嬢の侍女のアメリさん??

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