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私を裏切らない

 翌日、私は馬でアメリさんの実家に向かった。2リューの距離は速歩なら直ぐ着く。


 村人に聞いて少し離れた館に向かう。村の中心から少し離れた小さな丘の上にアメリさんの実家はあった。


 馬を降り、手綱を手に垣根で仕切られた敷地の周りを回って入口を探す。垣根に馬車が通れる位の間が空いていて、金属製の柵の扉があった。


 扉越しに庭の手入れをしてるらしい人の後ろ姿が見える。私はその人に向かって声をかけた。


「すいません。アメリ・ドヴォーさんのお宅はこちらで良かったでしょうか?」


 振り返ったその人の顔には見覚えがあった。


「アネット様」


 アメリさんの目には涙が浮かんでいた。


 馬を厩につないで、私は応接間に通された。アメリさんと向かい合って座る事はこれまで無かったけど、もはや侍女でないのだから当然。そもそもここはアメリさんの家だし。


「離宮に置き去りにして本当に悪かったと思います」


「いえ、良いのです。ランベルト様達には良くしてもらいました」


「でも帰国後に責任を問われて免職になったでしょう?」


「マリー様もアネット様もおられぬ公爵邸に私の仕事はありませんから」


「ナタリーを選んだのはアメリさんだそうですが?」


「ええ。あの子、ちゃんとアネット様にお仕えしてますか?」


「家の事は何でもやってもらってますし、私の不在の時は家主代理になってもらってます」


「それで今日はどのような御用でお越しいただいたのでしょう?」


「実はアメリさんに相談したい事があって。アメリさんにしか相談出来ないのです」


「私にですか?その前に少しお聞きしても?」


「何でしょう?」


「アネット様がここにおられるという事はアンジュ公爵家にお帰りになったという事でしょうか?」


「いいえ。私は調べたい事があってアンジュ公爵領にこっそり来ただけです。それが終わればケルンに帰るつもりです」


「このままケルンでご身分を隠して暮らされるという事でしょうか?」


「それが、そうも行かないみたいなんです。替え玉の一件が帝国の商人の間で噂になって、それを聞いたエリック様の時代の公爵家家宰を名乗られる方から手紙が来たのです。その上国王陛下の使いを名乗られる方がケルンの市庁舎に来ました。挙句の果てにヨハン様の使いの方が我が家に来て、ヨハン様が再度結婚を申し込みたいとか言ってると言われました」


「大変な状況になっているのですね。それでどうされる御積もりかお聞きしても?」


「ヨハン様の件はお断りしました」


「国王陛下からはどのようなお話があったのですか?」


「陛下の宮廷に行って、王族として暮らせと」


「行かれる御積もりなのですか」


「まさか。アンジュ公爵家と王家は親戚の間ながら対立してるでしょう?アンジュ公爵家の一員である私が行くはずが御座いませんよ。国王陛下は陰謀家だそうですから、宮廷に行けばどんな事に利用されるか分からないでしょう」


「そうですね。それでエミール・クロー様からはなんと?」


「ここだけの話にしてもらえますか?絶対に他言は無用ですよ。クロー様はミシェル様に代わって私が公爵家の主になれと言うのです。何でもエリック様が塔から落ちた時、ミシェル様と一緒だったと言う警護の者の証言が得られたとかで、もはやミシェル様には仕える事が出来ないとか」


 それを聞いたアメリさんの顔から表情が消えたように思えた。


「それでアネット様はどうされる御積もりなんですか?」


「私はセリーヌ様の死について調べるために公爵領に戻って来ました」


「エリック様のではなくセリーヌ様の死についてですか?」


「コンツ男爵がセリーヌ様を殺したのは私の養父だと言うのです。それで養父母の家に行って確認しました」


「どうでした」


「事実でした。養父が私に手紙を残していてはっきりそう書いてありました」


「やっぱり」


「アメリさんは分かってたのですか?」


「憶測はしてました。状況から考えて養父の方がアネット様を拾われたのは襲撃現場ですよね。で、お子さんがアネット様と同じ目にあったらと思ったら放っておけなかったとか。つまり、お子さんの事を思ったらアネット様を殺せなかったという事ではありませんか」


「それで、養父の手紙には、セリーヌ様と私を殺害するよう依頼したのがエリック様だと言うのです」


「つまり父が母と私の殺害を養父に依頼したというのです。そんな事ってあんまりです。何故父は母と私を殺そうとしたのでしょう?アメリさんは何か事情を知ってませんか?」


 アメリさんは暫く黙った後言った。


「私は事情を知ってはいません」


「アネット様、ご自分の顔の事をどう思われます?何故マリー様とそこまでそっくりだと思われますか?」


「それは血がつながってるから」


「アネット様がエリック様とセリーヌ様のお子様で、マリー様がミシェル様とイサベル様のお子なら、お二人は従姉妹という事になります。セリーヌ様とイサベル様も従姉妹だとお聞きしておりますが、それでも従姉妹でここまで似るものなのでしょうか?」


「どういう事でしょうか?」


「私にはこれ以上の事を言う事は出来ません。イサベル様にお聞きください」


「イサベル様ですか?」


「ミシェル様の奥様で、マリー様のお母様です」


「ミシェル様に奥様がおられるのは知っておりましたが、これまでお名前をお聞きした事は御座いませんでした。イサベル様は公爵邸におられるのですか?出発前の仮面舞踏会の時もおいでにならなかったと記憶しておりますが」


「イサベル様はマリー様が亡くなられてからずっとモンスから10リューほどの距離にある夏の離宮におこもりになっておられます。ですがアネット様ならお会いになれるかと」


「ご助言ありがとうございます。アメリさんには感謝をしてもしきれないです」


「私こそアネット様にご信頼いただいて有難いと思います。たとえ職を解かれようとも私はアネット様の忠実な臣下のつもりです」


 私は自分のほほが濡れていることに気が付いた。


 アメリさんだけは私を裏切らない。その事が私を支えていた。

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