表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/52

姿

 縛り上げられたフランソワが男爵のテントの中に連れてこられて、私と男爵が尋問する事になった。テントの周囲は男爵の警護が見張り、一般の兵士が近寄らないようにしている。


『アネット様のお姿が見たいとはどういう意味だ、フランソワ』


『文字通りの意味です』


『アネット様とは?』


『アネット・ド・アンジュ様です』


 何で?


『何を言っておられるのですか、フランソワさんとやら』


『アネット様のお姿を見てお名前をお聞きすれば、一定年齢以上のモンス出身者は必ずエリック様のお嬢様の事を思い出します』


 終わったよ。もう駄目だ。


『これはこれは。なるほど好奇心は猫を殺しますな、確かに』


 だから城門で確保されて以来仮面を被れとか言ってたわけね。アメリさんが特別じゃなくて、マリー様の顔を見たことがある人なら誰でも思いつくような事だった。あの出発の様子、マリー様のあの人気なら、モンスに住んでる人は機会があればマリー様のお姿を見ようとしたでしょうし。


 これって不味くない?帝国の商人の間でマリー様の替え玉、アネット・ロンの噂が流れてる。アンジュ公爵領の人間が聞いたら噂の主が本当は何者か直ぐ分かるって事じゃない。


『で、本当の所はどうなんです?アネット・ロンを名乗られるお方』


 今更否定してもどうしようもないよね。私はため息をついた。


『自分自身はずっと知らなかったんですよ。私の年齢ではそんな事は知らないんです。それに私はマリー様のお姿も知りませんでしたし』


『それで帝国とアンジュ公爵とは和睦出来たわけですな。マリー様ではなかったが、アンジュ公爵は確かにアンジュ公爵家の後継者をヨハン殿下の花嫁として送り出した。アンジュ公爵が帝国を欺いたのは事実ですが結婚さえしていれば許容できる範囲と言えます』


『つまり私が悪いと』


『そんな事は申しませんが』


『それでアネット様にはアンジュ公爵領にはお帰りにならないのですか?』


『フランソワさん。私にはアンジュ公爵領に帰るべき家は無いんですよ』


『そのような。アンジュ公爵家は元々あなたがお継ぎになるべきだったのです。ミシェル様より、国王陛下の姪でエリック様のお子様であるあなたこそがアンジュ公爵家の主人であるべきです。そうすればアンジュ公爵家と王家の確執も収まりますし』


『おい、フランソワ。ここは帝国領だぞ。そう言う話は帰国後にやれ』


『フランソワさん。少しお聞きしたい事があります』


『何なりと』


『セリーヌ様、私の母とされる方はどの様な方で、どの様にして亡くなられたかご存知ですか?』


『セリーヌ様は前国王陛下のお嬢様で、現国王陛下の妹君です。お越し入れから6年目に、お嬢様と共に夏の離宮へお移りになる途中で、賊の襲撃を受けられました』


『セリーヌ様のご遺体は馬車の中で発見されたとお聞きしておりますが、お嬢様は何処からも発見されませんでした。身代金を要求される事も無かったため、お亡くなりになったものと思われておりました』


『アネット様は一体これまで何処でどうされてたのですか?』


 公爵様、いえミシェル様の声が頭の中で蘇る。


「アネット、其方はこれまでどの様に生きてきたのだ?」


 あれは、私の素性を問うたわけでなかった。行方不明の間の事を聞いてたんだ。


 私はあの時と同じ事を答える。


『私は孤児として、傭兵の養父に育てられました。養父母の家には他に義理の妹と弟がいました。養父は流行り病で亡くなり、私は養母とは折り合いが悪く弟妹を養うのが精一杯だと言われ家を出て行く事に』


『養父は傭兵の戦闘術、養父は護身術と言ってましたが、を教えられてましたが、養母は家事など女性としての仕事は何も教えてくれませんでした。そこで私は傭兵になろうとモンスに行ったところで、公爵家にマリー様の替え玉として雇われたのです』


 男爵はフランソワさんの後ろに行くとロープを解いた。


『知ってしまった事は仕方がねえ。あんまり大っぴらに吹聴するなよ。取り合えず戻ってろ。おれはアネット様ともう少し話がある』


 フランソワさんは私の事を気にしてる様子だったけど、テントの出入り口から出て行った。


 男爵の話って何だろう?


『先ほどのナイフ投げはその養父とやらに教わったのですか、アネット様』


『ええ』


『ナイフ投げは戦場では意味がないです。兵士の中には遊びとして行うものはおりますが。遠距離なら弓や弩、最近では銃や大砲などを使います。接近すれば長槍、短槍、長剣、ショートソード、ナイフを使います』


『あなたの様な名手なら投擲用ナイフを狙った急所に当てられるかもしれませんが、普通は防具を付けた相手には効果はありません。携行出来る本数も限られてますし、その辺にある石を投げた方が簡単です』


『一方ナイフ投げは室内の近接戦闘では有効です。狭い部屋の中では弓や弩の類は使えませんし、簡単に投げられて相手に有効な攻撃を与えられるようなものが手元にあるとは限りません』


『男爵様は何を言いたいのですか?』


『つまりあなたの養父があなたに教えたのは傭兵としての戦闘術だけではなかったと言う事です。確かに兵士としての戦闘術も教えられたでしょうけど、それ以外のものも含まれてます』


『私の考えでは、あなたの養父は単なる傭兵ではなかった。傭兵もやったかもしれませんが、それ以外に……』


『暗殺者でもあったと思われます』


『なっ、何をおっしゃいます』


『よく考えて下さい。その男はいったい何処であなたを拾ったんですか?襲撃現場以外にはあり得ないでしょう。襲撃現場にいて、室内での近接戦闘に長けた、公爵家の警護以外の人間。これが襲撃犯でなくて何なんです?』


 そんな事って。義父おやじさんが私の本当のお母さんを殺した犯人だっていうの?


好奇心は猫を殺す:英語のことわざなので本当は変なのですが、ご容赦下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ