第24章 のみこまれる者、逃げる者3
僕は出口目指して歩いた。なんだかそんなに喜びもないのだ。生きてるって言われても、まだ夢を見ているような感覚だ。麒麟に促されるまま出口へ歩くと、力なくその場に膝を折って伏しているカミーがいた。
「カミー?」
耳がピクッと動いて、カミーが僕の方を振り返った。その目は僕を見るなりいつもの倍ほど見開かれ、勢いよく立ち上がる。
「イ、イアン? イアンなの?」
なぜだろう。返事したいのに声が喉の奥で支えて出ない。目の前にいたのは、僕が一緒にいたかった大切な親友だったんだから。
「カ、カミー……」
僕とカミーは止まってた。どちらも動かない。いや、動けなかった。
「僕、帰ってこれたよ……」
声が震えて上手く話せない。もう死に別れて2度と会えないと思った。そんな君が立っている。僕は震える手で頬をつねってみた。痛い。痛くて嬉しい。僕が、生きている証。
「痛いよ、カミー」
上手く笑えない。痛い。胸が痛い。そんな僕の言葉をカミーは聞き逃さなかった。くしゃくしゃに歪んだカミーの顔を見る前に、僕の視界はぼやけていた。
「ばかイアン」
震えてほとんど聞こえないくらいに小さいその言葉をきっかけに、僕らは互いに駆け寄った。僕はカミーの首に飛びついて、たまらず顔を擦り寄せた。なんて温かいんだろう。カミーの温かさが触れた肌全体を伝って感じられて、涙が溢れて止まらなかった。僕は生きてるんだ。僕は帰ってこれたんだ。カミーの隣に戻ってこれたんだ。
「何やってんだよ」
カミーが泣きながら僕にそういった。
「もう会えないと思ったんだよ」
「うん」
「独りぼっちだと思ったんだよ」
「うん」
カミーが震えている。きっと僕よりずっと苦しかっただろう。この世界で独りぼっちなんだと思って寂しかったんだろう。そんなカミーに伝わって欲しくて、一緒にいる事を実感したくて、僕はカミーの首に回した手で、もっときつく抱き締めた。カミーは僕の顔に頬を擦りつけるようにして応えてくれた。ただ、傍にいられるということがどれほどかけがのないもので、どれほど大切なことのかが痛いほどわかる。何でもないようなことが本当は1番難しくて大切なんだって、そう思うんだ。
そうして、少し間を空けてからカミーは僕にだけ聞こえるような声で言った。
「おかえり、イアン」
僕はカミーの首もとに顔を埋めるようにして体に伝わる親友の体温を感じながら
「ただいま、カミー」
と、返した。




