第24章 のみこまれる者、逃げる者2
ふと気がつくと、僕の目の前には洞窟の天井が広がっていた。物音ひとつなく、背中は固くて冷たい地面に触れていて、横たわっているのだとわかった。辺りを見回してみると、先程まで見ていた深い水の底のような場所も、迫る闇もそこにはなかった。あるのはゴツゴツとした岩肌ばかり。そこが、僕が力尽きたはずの場所だと気がつくのに数分は有した。ゆっくりと身を起こして自分の体を見てみる。なんともない。痛みも傷もなくて、何事もなかったかのように鼓動も落ち着いていた。心は澄んだ水面のように穏やかで頭の中ははっきりとしている。
「まさか、どういうことだ?」
突然驚いたような声が聞こえて、出口の方へ顔を向けた。そこには麒麟が立って目を見開いていた。
「一体、どういうことだ。こんなことがあるわけがないのに」
麒麟は戸惑いながら僕のそばまで来ると、僕の体を異なる角度から何度も眺めた。
「真っ暗な場所に突然カミーの声と青とも緑とも言えない綺麗な色の光が差し込んできたんだ。それで、僕の死を予言したおばあちゃんと会って、死んだ先のことは分からないから、とにかく光の方へいけって言われてきたんだ」
僕が先ほどのことを思い出しながら話す間、麒麟は目をぱちくりさせて聞いていた。
「まさか死の淵に行って戻ってきただと? 信じられない。それよりその光とは……」
麒麟はふと地面に転がっている何かを見つけて近づいた。
「これは、魔石ではないか!」
地面に転がっていたのは、片手で握れるほど小さい魔石だった。
「僕らは魔石の傍まで行ったけど、追われてたから持ってないよ」
魔石の傍を通ったのは僕らとペガサス達と軍人達。その中でここまで魔石を持ってこれるのは軍人達しかいない。その中で綺麗な石を持っていそうなのは僕の頭の中には1人だけ。
「もしかしたらレイン姉さんがこの魔石を持ってきたのかな?」
「この石は綺麗な心を持つ幻属の近くにあることで初めて力を発揮する。レインが使ったとは考えられん」
「でも僕は使えたよ?」
ペガサス達に追われた僕はベリトルを制止し、魔石に願った。結果僕らは助かったのだ。
「それはイアンが半分幻属だったからだ。レインはお守りとして持っていたんだろうね」
僕が魔石を見ていると、麒麟は思いついたように言った。
「カラミーユの声が聞こえたと言っていたね。もしかすると、カラミーユが発した言葉がたまたま願いとして認識されたのかもしれない」
「確かに、誰でもいいから僕にイアンを返してって言ってた」
カミーは無意識に魔石に願っていたのだ。
「そうだ。そうに違いない。イアン、お前は生きている」
実感が湧かない僕を麒麟は興奮気味に急かした。
「生きているのだ。早くカラミーユの元に行っておやり」




