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第20章 問いの答え3

僕の視界の隅でまた何かが動いた。ぎょっとして動いたものを見ると、羅剛神がいたはずの場所に、人間が横たわっていた。手に翡翠色の玉のついたブレスレットをした、僕らを散々引っ掻き回したあの男。


「まさか、ニール?」


ニールは頭を押さえながら身を起こす。自分の手を見て驚き、すぐに周りを落ち着きなく見回した。


「どうして、俺は、ここに? 死んだはずなのに」


すぐに胴体を見て傷を探すが、僕が見てもその体にはたった1つの切り傷すらなかった。


「最後の羅剛神はニール、お前自身だよ。お前は羅剛神に取り込まれて仮死状態にあり、無意識というものだけが羅剛神の中で働いたのだ。大丈夫。イアンが救ったことで羅剛神に取り込まれていたお前も助かった」


ニールは麒麟に言われても特に何も言わず、忙しなくレイン達の方を見ている。それは誰か探しているようにも見えた。


「マキノさんは?」


そう言って立ちあがって探し始める。まるでそれは親を見失った子供のようにも見えた。僕を足止めしていたあの男の人。そういえばここにはいない。


「マキノさん! マキノさん!」


声を上げるニールの姿にクランが言った。


「マキノは死んだよ」


ニールは固まった。僕も驚いて絶句する。死んだ? あの人が?


「え?」


「お前の剣はマキノの内臓を貫いて、マキノはそのまま死んだ」


「そ、そんな!」


悲鳴のような声を上げて、ニールは数歩下がった。怯えたような顔は事実を受け入れるのを拒んでいるようだった。


「俺のせいだ。俺が、俺が殺した」


自分自身に怯えるように下がっていったニールは、やがて近くに落ちていた刀を拾い上げると、その刀で自分の首に狙いを定め、思い切り刺しにかかる。咄嗟に目を閉じるが、叫び声も悲鳴もない。一体何が起きているのか気になって目をうっすら開けてみると、クランがニールの刀を止めていた。無言でニールの手から刀を奪い取ったかと思うと、拳を握りしめて思い切りニールを殴った。


「バカ野郎!」


ニールは涙を浮かべて不満そうに言った。


「死なせてくれよ……。俺がマキノさんを殺したんだ。俺の事、仲間だって言ってくれた。俺の事、弟みたいだって、言ってくれたのに、俺は殺してしまった……」


「だから死ぬのか?」


ニールの胸倉を掴んでクランが怒鳴った。


「マキノを殺しておいて、お前は死ぬっていう簡単な道を取るって言うのか!」


クランに言われて、ニールも怒鳴るように言った。


「俺はマキノさんを殺したんだ! 俺も死ぬのが道理ってもんだろ! 死なせてくれよ! 俺は、あんなに俺の事を大切に想ってくれたマキノさんを殺してしまったんだ。……大好きだった。本当はただ誰かに受け止めて欲しかった」


押し込めていた本当の気持ちが溢れ出て、ニールは顔を伏せると震える声で続けた。


「ずっと独りで苦しかった。生まれてから、誰からも必要とされてなかった。イアンみたいに仲間が欲しかった。ずっと羨ましかった。何回傷つけても支え合ってまた立ちあがってきて、鬱陶しくて、妬ましくて……」


イアンと僕を傷つけて笑っていたのは、僕とイアンへの嫉妬心からだったんだ。ニールの精一杯の苦しみの表現だったんだ。


「俺はただ愛が欲しかった。俺の事を受け止めてくれる誰かが欲しかった。それに気がついたんだ。マキノさんに言われてやっと自分のバカさに気がついた。それなのに……」


ニールは唇を噛みしめ、少し間を置いてから力なく言った。


「マキノさんのいないこの世界で、俺はまた独りぼっちだ……」

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