第20章 問いの答え2
「一体何事か。体が、体が動かぬ」
何度も体を動かそうと試みる羅剛神に、麒麟は悲しげに近づいた。
「どれだけお前が愛を欲しても、お前に本当の愛を与えられる者はおるまい。せめて私が最初で最後の愛をあげよう」
麒麟は羅剛神の傍まで歩き、胸にそっと角を当てた。直後、羅剛神の指先は黒く変色し始め、砂になって地面に積もり始めた。砂時計をひっくり返した時のように細く地面に落ちて積もっていく。
「羅剛神よ、お前は少し早いが土に還してあげよう」
それは羅剛神が急速に朽ち果てていくことを意味していた。本来なら何千年、何万年という月日を経て土に還るはずの羅剛神の時間を麒麟が早めているのだ。
「もう本当の姿にお戻り」
羅剛神の足は崩れ、羅剛神は自身が作った砂の山に仰向けに倒れて動かなくなった。
「お、終わった……」
安堵のため息をついて辺りを見渡すが、レイン達は倒れ、地獄であることに変わりはない。「でも、皆死んでしまったんだろうか……」
僕達のせいで多くの人が犠牲になってしまったなら素直にこの状況を喜べない。
「カラミーユ、心配せずとも良い」
麒麟が僕の方を向くと、全てを包み込むような優しい雰囲気で僕に言った。どういうことかと尋ねかけた時、視界の隅で何かが動いた。
「う、うぅ……」
それは軍人達の声だった。彼らはほぼ同時に動き始め、体を起こしていく。レインとクランも含まれており、レインは起き上がるなり貫かれた胸を手で触れて目を見開いた。
「傷が、ない、だと……?」
それは他の軍人達も同じだった。皆体に受けた傷が治っているらしく、体を触って驚いている。
「私は、死んだはずじゃ……」
レインがはっとして麒麟を見ると、麒麟は首を横に振った。
「お前達は、イアンに救われたのだ」
そう軍人達に言うのを聞いて、僕はなぜか自分のことのように嬉しくなった。イアンに顔を向けると、イアンもどこかほっとした様子で小さく息をついていた。
「イアン、すごいよ! イアンがみんなを助けたんだ!」
僕が言うと、イアンは良かったと言って深く息を吐いた。
「声が、聞こえる……」
突然レインが信じられない顔で呟くように言った。それは小さな声ではあったが僕の耳にも届いた。イアンを見ながらゆっくりと立ち上がると、軍人達もまた目を見開いて驚いている。幻属の声は幻属にしか聞こえない。幻属とのハーフであるイアンは幻属の言葉を話すため人には聞こえないはず。
「イアンによって救われたからこそ、幻属の言葉が聞こえるようになったのだろう」
と、麒麟は微笑む。
「姉さん。……レイン、姉さん」
一歩一歩、信じられないという顔で近づくレインは、
「聞こえる。声が、聞こえる」
そう繰り返してから、強くイアンを抱き締めた。




