第19章 死闘7
レインが1人で向かっていった。ぶつかった瞬間レインは簡単に飛ばされて地面に叩きつけられる。腕や足が切り裂かれても、体中の痛みに襲われてもレインは何度でも立ち上がった。自身の血にまみれようが、その瞳から炎が消えることはなく必死で食らいつく。何度刀を振るっても、疲労し速度も失った刀では切っ先すら当たらない。そんな姿を見て、
「た、いさ……大佐、もう、限界です。せめて、大佐だけでも、逃げてください……」
と、1人の部下が泣き出しそうな顔で絞り出すようにそう言った。それに続くように、ポツリポツリと部下がレインに言う。
「そうです……。もう、勝機はありません」
「大佐なら、まだ、助かります」
「生きて、ください……。レイン、大佐」
「自分達は、もう――」
「バカなことを言うな!」
部下の言葉を遮るように怒鳴ったレインの頬を涙が伝い落ちた。クランという友を除き、部下の前では決して涙を見せることがなかったレインが初めて涙を流したのだ。体中に傷を負い、ボロボロになりながら震える声を張り上げる。
「逃げろだと? 仲間を見捨てて、一人逃げて生きろだと?」
部下は全滅であった。皆血を流して地面に倒れている。死ぬのは時間の問題で、苦痛に耐えながら顔だけはレインの方を向いていた。
「お前達は、ただの部下なんかじゃない! 私の大切な家族だ! 私のわがままでさえ信じてついてきてくれた、大切な仲間だ! そんな仲間を、家族を、見捨てられるわけがないだろう!」
レインは服の袖で涙を拭い、愛の羅剛神を睨みつける。手に持った刀を握り直し、仲間の命を一心に背負って愛の羅剛神に臨む。
「私は誰一人、見捨てたりしない!」
仲間達が見守る中、レインは愛の羅剛神に向けて駆け出した。愛の羅剛神の猛攻を紙一重で防ぎきる。満身創痍とはいえ、鬼と呼ばれるほどの剣術はまだ死んではいなかった。タイミングを見計らって前へ進み、羅剛神の剣を弾き飛ばそうと手元を狙う。
一進一退の攻防が続く中、レインは一気に間合いを詰め、愛の羅剛神目がけて斬りあげた。刃がぶつかる寸前、レインは愛の羅剛神の手に見覚えのあるものを見つけた。麻紐に通された翡翠色の玉。
「お前、まさかニール――」
その瞬間レインは弾き飛ばされた。地面を転がり、すぐに羅剛神の追撃をかわす。
「ニール! お前か!」
そう声をかけても愛の羅剛神は一向に力を緩めることは無い。圧倒的な力の差は縮まるどころか、満身創痍のレインを前に広がるばかりだった。どれだけ斬り込んでも無意味でしかなく、それはもう一方的な暴力だった。手から刀がはじかれ、地面に倒れたレインは、頭ではわかってはいても立ち上がれず、迫ってくる愛の羅剛神を見た。剣を一本投げ捨てた愛の羅剛神に首を掴まれ、力なく持ち上げられていく。




