第17章 飛べない意味4
狭い亀裂に入り込むと、そこは自然にできた洞窟のようで中は広かった。暗くて奥に行きすぎるのは危険だがイアンを寝かせることができる平らな場所を見つけて引っ張った。
外では風が唸り、猛吹雪が続いていてとても出られそうにない。僕は弱りきった体で寒さに震えるイアンのために体を温めるものを探した。アルフォードが休んだとはいえ防寒具までは置いていない。偶然できた空間でしかないのだ。もし毛布が置いてあったら、今すぐイアンに着せるのに。そうしたらもっと温かいはずなのに。当たりを見回していると、ふと僕の翼が視界に入った。
はっとして、僕は意識を失ったイアンを両翼で包み込んだ。自分の翼を毛布の代わりにすれば、イアンを温められるのではないか。そんな予想が的中し、間もなく翼の中は空気が温められ、イアンを包み込んだ。これでイアンが凍死する事は無くなり、ほっと一息ついた。
役に立たないと思っていた翼が、こんな風に意味をもつ日が来るとは思っていなかった。もし僕が飛べていたら、空ですぐにギアに捕まっていただろうし、森の中を誰よりも早く駆け抜けてペガサス達を撒けなかっただろう。もし僕が飛べていたら走って逃げたその先でベリトルと出会っていなかっただろう。もし僕が飛べていたらそもそもイアンに出会わなかっただろう。僕は飛べなかったけれど、飛べなかったからこそ得てきた物がたくさんあった。逆に、もし僕がただの馬だったら目の前で弱っているイアンに何もしてあげられなかっただろう。
イアンに出会えたのもこの翼のおかげなんだ。ここまでこれたのはこんな僕だからだ。そう思うと、今までの苦しみも、全て報われる気がした。
「僕は、飛べないペガサスで良かった」
生まれて初めて僕はそう思った。




