第17章 飛べない意味3
一体どこに逃げればいいんだ。目の前は真っ白で近くに何があるのかも見えず、隣にいるはずのイアンもほとんど見えなかったが、猛吹雪に必死で逆らいながらなんとか前に進んだ。吹雪が急激に体温を奪っていく。動けなくなってしまったら待っているのは死だ。イアンはなんとか前に進んでいたが、ついにその場に倒れた。
「イアン!」
倒れたイアンは顔面蒼白だった。力を使った反動で体力を消耗しているのだ。
「僕らはこれから自由になるのに道半ばで死ぬなんてダメだ! しっかりして!」
唇が紫に変わり、体が激しく震えている。早くしないと、と焦りばかりが募る。イアンは目を閉じてしまっている。このままじゃイアンが死んでしまう。
「まただ。ごめん。僕が飛べたらイアンはこんなに苦労しなくて済んだのに。こんなに弱らせてしまったのも僕のせいだ」
どうして僕はこんなに無力なんだ。いつも守ってもらうばかり。いつも僕はただイアンがなんとかしてくれるのを待っているだけ。僕はなんて足手まといなんだろう。そう思うと悔しくて涙が出そうだった。
「カミー」
吹雪のせいでうまく聞こえず、イアンの口元に耳を寄せる。
「そんなこと、ないよ。カミーが傍にいてくれるだけで、僕は幸せだよ……」
自分の事よりも僕を励ましてくれるイアン。優しすぎるんだよ。イアンは優しすぎる。この優しさに何度救われたことか! だから、今度は僕がイアンを助けるんだ。
「泣いてる場合じゃない。しっかりしろカラミーユ! 絶対助けるんだ。僕が、今度は僕が助けるんだ! 今イアンを助けられるのは僕だけなんだ!」
自分自身を鼓舞するように、僕は吹雪に負けないぐらい声を上げた。吹雪だろうがなんだろうが、僕は絶対にイアンを助けるんだ。
「イアン、絶対に助けるよ! だからもうちょっと頑張って!」
僕はイアンの服を噛んだ。僕の歯ではうまくイアンを運べないけど、なんでもいいからこの吹雪を脱出しなければならなかった。一歩ずつでもいい、必死で脚を動かす。どんなに寒くても、何度イアンがずり落ちても噛み直して前に進む。絶対に死なせない!こんな過酷な場所を冒険家アルフォードはどうやって突破しようとしたんだろう。そう考えていた僕の目の前に、僕の体以上もある巨大な人の顔が現れた。巨人に出会ってしまったのかと数秒硬直したが、すぐにそれは生物ではないと分かった。それは厳密に言うと人の顔ではなく、人の顔に見える岩だったのだ。大昔に人面岩でも作ったのだろうか。そう思っていた僕の頭にイアンの声が蘇ってきた。予言者のいた岩の中で冒険家アルフォードの手記を読んでいたイアンが言っていたあの言葉。
人の顔みたいな岩の傍には特にいい休憩ポイントがあるみたい。
人の顔みたいな、岩? 吹雪でほとんど見えない視界の中、我が目を疑った。その岩は目の前にあるではないか。それどころか、人面岩の後ろ側は崖だったようで、近づいて始めて反り立つ崖に気がついた。そっとイアンを足元に下ろし、すぐに人面岩の傍をくまなく探してみた。手記に書いてあった休憩場所がどこかにあるはずだと、微かな視界の中で懸命に探す。繋ぎ目も無い一枚岩をなめるように見ていると、巨大な亀裂を発見した。先が暗くてどうなっているかは分からないがもうここしかない。僕は何度も噛み直しながらなんとかイアンを運びこんだ。




