第17章 飛べない意味2
「僕のお姉さんなんでしょ? 僕の家族なんでしょ? ねぇ、止まって!」
どんなに声を張り上げようがイアンの声が聞こえるはずもなく、レインは突進してくる。雪の中、歩くのもやっとであるのに、必死で距離を詰めようと迫ってくる。
「レインさん、お願い!」
文字を教え、育ててくれた最後の家族にイアンは必死で声をぶつけていたが、何度叫ぼうとその声は虚しく消えていくだけだった。
「なんで届かないんだよ! こんなに叫んでいるのに。届いてよ! 一言でもいいから!」
僕の背でそう叫ぶイアンは、声が届きさえすれば何かが変わったのではないかと歯がゆく感じているのだろう。雪山の中では、大して隠れられる場所もなく見晴らしがいい。それに、積もる雪に足がとられてうまく前へ進めないのだ。レインは突然僕らに向けて刀を投げ、反射的に前肢をあげてしまった。直後、イアンが驚いた声を上げて背中から落ちた。
「イアン!」
柔らかい雪で覆われていたことでイアンは特に怪我がないようだが、僕らがレイン達に気を取られている間に逆方向から僕らに迫っていたクランは、もう目の前まで来ていた。他の兵士の刀を手にして、レインもまた僕らに向けて刀を振り上げた。
「やめて!」
その言葉すら実の姉に届かず、刀は容赦なく振り下ろされた。イアンが両の手の平をクランに向けると、水の膜ができて刃を受け止めた。クランは驚くこともなくイアンが広げた膜を切り裂こうと何度も刃をぶつけている。イアンの額からは一気に玉の汗が吹き出し、伝い落ちていった。クランは攻撃の手を一切緩めず、より手数を多くしている。レインも加わって何度弾かれても斬りかかっていく。イアンが力不足になるまで粘る気なんだ。ここを離れないとイアンが先に倒れてしまう。周囲を軍人達が包囲していくが隠れられるような所も見当たらず、雪も積もってきていて僕の足も遅くなってしまう。
雪が徐々に激しさを増す中で、ついにイアンが雪に尻餅をついた。すかさず刀を振り下ろそうとしたクランに、イアンはもう一度水の膜を張った。刃が膜に触れると同時にクランは吹き飛ばされた。そうこうしているうちに、天候は荒れ始め、粉雪は吹雪へと変貌を遂げた。視界が白一色になり何も見えなくなる。既にレインを始め、軍人達の姿は見えなくなっていた。辛うじて僕の足元にいるイアンの姿が見えたが、肩で息をして苦しそうだ。
「イアン、大丈夫?」
イアンの体に雪が吹きつけて白くなっていくのを見て、僕は鼻でつついた。イアンは頷いて体を震わせながらゆっくりと立ち上がる。
「早く、ここから、逃げなくちゃ……」




