第17章 飛べない意味
雪が降っていた。放っておくと背中に積もりそうで、時折体を振るわせて雪を払った。イアンはそんな僕が面白いようで、雪を払う度に笑った。辺りは徐々に白さを増し、地面がすっかり雪に覆われる頃、僕らの目の前に巨大な白い山が現れた。壁のように横に連なるその山々は見上げるほどに高く、行く手を阻んでいた。山々はどこも真っ白で、雪が降り積もっているのだと容易に推測できた。
「これが北の果ての直前にある山だよ」
イアンはたちはだかる山を見上げて言った。この山を越えれば僕らはやっと逃亡生活を終える。予言者の言葉が正しければ僕らは自由になれる。あともう一息だ。
「もう少しだね、イアン。麒麟に会えば僕らは堂々と一緒にいられるよ」
イアンはそうだねと笑ってくれたけれど、なんだか浮かない顔に見えたのはなぜだろう。それは僕がこの旅の終わりを寂しく思っているからなのかな。
雪山に登り始めると、雪はさらに激しく降り始めた。雪の粒は小さいけれど風が混じると肌に吹きつけて余計に寒く感じる。想像以上の寒さに身を震わせながら、僕はイアンと共に山のその先を目指した。麓では比較的なだらかだった傾斜が徐々に急になりはじめ、一歩一歩踏みしめるように、時に励まし合いながら歩いた。
「イアン、大丈夫?」
と振り返ると、上着を着こんだイアンは親指を立てて笑った。
体に吹きつける雪が冷たくて痛い。ここに長居しすぎたら凍えてしまう。早く山を越えてしまいたいと、前へどんどん進んでいくと、急にイアンが言った。
「あんまり焦ると後がもたなくなるよ」
「焦らずにいられないよ。ここで凍ってしまいたくないし、やっと僕らはこの逃亡生活におさらばできるんだよ? そしたらやっと堂々と一緒に歩いて色んな所を見に行けるんだ。今から楽しみで仕方ないんだよ」
僕が心を躍らせながらそう言うと、イアンは笑顔で頷きながら涙を流した。
「また嬉し涙? イアン、急に泣き虫になっちゃったよね」
イアンは腕で涙を拭いて笑顔でそうだね、と繰り返した。やっぱりイアンは浮かない顔をしているように思えて、何気なくイアンに尋ねてみた。
「もしかして、イアンこの旅が終わるのが嫌なの?」
「嫌だよ……」
どうして? と、訊こうとした僕が口を開く前に、イアンは付け加えた。
「だって、この旅はこの旅で楽しいでしょ?」
僕はすかさず頷く。
「もちろんだよ。でもさ、追いかけられるのはごめんだな」
レインみたいなのがずっと追いかけてきたら、おちおち寝てもいられない。寝ている間に馬刺しにでもされそうだ。
「それは嫌だね」
そうイアンが笑ったときだった。右側で何かが動いた。武装した兵士の前に立つ目つきの鋭い女はイアンの姉レインだ。刀を構えて僕らの方へと雪を撒き散らしながら駆けてくるのを見ると、僕はすかさずイアンを背中に乗せて足場の悪い雪山を一心に登った。




