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第15章 ごめんなさい7

俺が走り出そうとした時、急に金属が擦れ合うような音がした。俺の希望だったはずの音が、今は不気味で聞きたくない音に変わっていた。ゆっくりと振り返ると、そこには樹の陰から現れた羅剛神がいた。俺は何も言わずに様子を窺う。羅剛神は俺を見ずに歩いていくが、向かっているのはマキノさんがいる方角だった。


「待ってくれ。この先は、今はダメなんだ。頼む」


羅剛神はお構いなしにマキノさんがいる方へと歩いていく。今でさえ致命傷に近いのに、羅剛神に襲われれば確実に殺されてしまう。


「止まってくれ!」


俺がどれだけ叫んでも羅剛神は止まる気配がない。ゆっくりだが一歩ずつ確実に前に進んでいた。俺は地面から剣を引き抜くと、羅剛神の行く手を阻んだ。


「ここから先は行かせるわけにはいかない!」


止めてみせる。差し違えたとしても、マキノさんは守って見せる!


 剣を構える。俺の敵意を察したらしく羅剛神は立ち止まり、六本の腕をバラバラに動かして構える。体の震えは止まった。剣は構えた状態でピタリと止まり、今まで感じた事が無いほどに心は落ちついていた。羅剛神の圧倒的な威圧感に今にも気圧されそうではあったが、それ以上に揺るがない決意が心の中に宿っていた。


 絶対にここを通すわけにはいかないんだ。今分かったんだ。俺はマキノさんが大好きだったんだ。何を言っても傍にいてくれるマキノさんの存在にどこか安心していたんだ。あの人が言っていたことは俺の本音なんだ。マキノさん、俺はまだやり直すことができるかな。俺、今からもう1度やり直したい。謝って済む事じゃないけれど、俺は罪を償いたい。羅剛神を倒してあなたを助けにいく。絶対に死なせたりしない。


 俺は地面を蹴った。一気に間合いを詰めると、羅剛神はゆっくりと照準を合わせて始めた。錆びついたような体では動きが鈍い。腕を破壊すれば! 俺の剣が羅剛神に当たると思ったその時、俺の体に何かが当たった。それはあまりに早すぎて目が追いつかなかった。俺の方が先に動いたのに、羅剛神の剣が先に届いた?


 理解できないまますれ違って俺は体を見た。深く切り裂かれ、傷口からは血が溢れだしていた。力が抜けて、気がつくとその場に倒れた。体中を感じたことのない痛みが走り、一瞬でそれが致命傷だと理解した。羅剛神が歩いてくる音が近づいてきて、俺は何とか這って進んだ。まだ死にたくない。マキノさんにもう一度会いたい。それは自由になって以来初めて感じる生への執着だった。


「い、やだ……。マキノ、さん。俺は、俺は、やっと分かったのに……」


やっと仲間ができるのに。そうだ、俺は弱いんだ……。ただ、愛されたかった。必要とされたかった。平和な世界で仲間と一緒にただ笑っていたかったんだ。


直ぐ後ろに羅剛神がいるのが嫌でもわかる。ひどい痛みでもう動けそうにない。それでも俺はマキノがいる方向に必死で体を向けた。無念で、悔しくて、申し訳なくて、涙が溢れて視界がかすむ。


「マキノさん……ごめんなさ――」


俺の体を6本の剣が貫いた。

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