↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/104

第2章 追手の影2

 童顔で身長もレインと同じくらいであるせいか、クランよりもずっと幼く見えるものの、腰に挿している剣は本物である。レイン達とは違い、左右の腰に1本ずつ挿していた。笑顔の青年に対し、レインはどうでもよさそうに問う。


「なんだニール。私に用か?」


レインの事など全く気にせず、ニールは右腕につけたブレスレットを見せつけた。麻紐に翡翠色の小さな玉が通してあるだけの簡単なものだが、本人は嬉しそうに話している。


「これ見てください。綺麗でしょ? ラシャルブレイヴ大将からのプレゼントなんですよ」


チラリとブレスレットに目をやってから、レインは今にもため息が出そうな口調で返した。


「そうか。綺麗だな」


「まさか、レイン大佐に綺麗とか分かると思いませんでしたけど」


ニールは尚も笑顔で、平然とレインに言った。レインもまた特に顔色を変える様子はない。


「まぁ、一応私にも人並みの感性は備わっているからな」


「ふーん。僕にはあなたが人並みの考え方を持っているとは思えませんけどね。どちらかと言うと、鬼の方が性に合ってるんじゃないですか?」


ニールは笑顔のままレインの様子を窺う。明らかな挑発に自然と空気が緊張し、無言のまま二人の視線がぶつかり合うこと数秒、急に明るい声が乱入してきた。


「何見つめ合ってんの?」


やりきったとでも言いたげな表情で会話に入ってきたのはマキノだ。額にはじんわりと汗が浮き出て、微かに息も上がっている。マキノは明らかにピリピリとした空気など関係ないと言った様子でニールの肩に腕をまわした。


「お? ニールじゃん。あ、何これかっこいいな! 誰からもらったんだよ。お前ってやつは、隅におけねーな。この、このぉ」


と、沈黙の中で一人にやにやしながらニールを肘で小突いている。ニールは笑顔こそ保っているが、明らかに殺気を帯びた。


「あはは。どうでもいいマキノが来た」


「えぇ。つれないこと言うなよニール。俺達親友だろ」


「あなたが親友なら僕は失踪しますよ」


「地の底まで探しに行くから任せとけ! 俺達の絆はダイヤモンド並みだからな!」


「いい加減気づいてくださいよ。それ思ってるのマキノだけですから」


熱く友情を語るマキノを笑顔で適当にあしらって、ニールはレインを見た。


「ではレイン大佐。僕はこれで」


レインともう一度視線をぶつけている間も、マキノは一人ニールに話しかけている。


「え? ニール、もう行くの? ちょっとニール!」


「鬱陶しいんでついてこないでください。あ、そうそう、レイン大佐が用事あるって言ってましたよ。ですよね?」


ニールがにっこりとレインに微笑むと、マキノは目を輝かせながら振り返った。


「まじで! 俺に用事ってなんだよレイン!」


完全に興味がレインに向いた所で、ニールは早足でその場を去った。レインは額に手を当ててうんざりしながら深いため息をついた。


「あんな奴をラシャルブレイヴが押しつけなければ、今頃順風満帆だったものを」


と、恨めしそうに言うレインをクランがなだめた。


「まぁまぁ、あんな奴が言う事は放っておけよ。あとマキノ、お前いくら俺達三人が同い年だとしても部下の前では敬語使えよ。示しがつかないだろ」


「いいじゃんいいじゃんそういう細かい事はさ! 俺達友達だろ? 昔だって今だって、いつだって3人一緒にのし上がって来ただろ!」


「俺は少佐でお前は少尉だけどな」


「おんなじ「少」入ってんじゃん! やっぱ俺達ってすげーよ」


「少尉と少佐を一緒にするなよ」


クランを無視し、マキノは嬉しそうに親指で自分を指すが、あまりの温度差にレインは呆れ顔になる。


「特に呼ぶ予定もなかったんだが」


それを聞くなりマキノは若干身を乗り出した。


「まじで? 予定もないのに俺を呼ぶって……。レインは寂しがり屋だな!」


「あのな、そういう事じゃないぞ。お前はニールが好きなんだろうがあいつは――」


「待って待って! 好きって言っても俺はニールをそういう目で見てないからくっつけようとかいうのはやめてくれよ。俺は好きな人ができたら自力で頑張るタイプだから」


マキノは両手をレインに向けて照れたように言うが、レインは額に手を当てた。


「マキノ、そういうことを言ってるんじゃない。よく訊け。あいつは私達の味方じゃない。むしろ私達の敵と言ってもいい。私達がすること全てがラシャルブレイヴに筒抜けになってしまう事は、つまり私達の目的が達成しづらいということだ。分かるな?」


「分かった。つまり、ニールはすごい奴だってことだろ?」


「違うぞマキノ。この会話のどこにニールを褒める要素があるんだ? 私はニールが敵だと言ったんだ。そこまではいいか?」


「分かりません」


「よし、もういい」


レインがうんざりして諦めてから、少し間を開けてクランが尋ねた。


「に、してもなんでそんなにニールが好きなんだよ」


その質問に、マキノはちょっと嬉しそうに頭を掻きながら答えた。


「いやぁ、あいつ小さい頃の俺にそっくりだから、なんか弟みたいでかわいいんだよね」


「私には憎たらしい以外の何物でもないぞ。とにかく、お前はニールに張りついてろ。何か動きがあればすぐに私に報告。いいな」


「了解! 全部俺に任せとけ!」


そう言って弾けるような笑顔で敬礼してから、マキノはニールに向かって全速力で駆け出した。ブレスレットを自慢するニールの背中に飛び付くと、すぐさまレインに手を振る。


「レイン! ニールがブレスレット自慢してる!」


「マキノ、私はそういうことを言ったんじゃないぞ……」


レインが深いため息をついたのを見て、クランも苦笑した。


「なんであんなにバカなんだ?」


「あれだから、力はあるのにいつまでたっても昇級できないんだよ、あいつは」


マキノがニールに鬱陶しがられているのを見ながらレインは言った。


「ニールの事はマキノに一任する。私達はニールにばれないように作戦を実行しよう」


その言葉に、クランは目を伏せた。


「どうしても、殺すのか?」


「そうだ」


レインは即答してから両手を広げ、視線を落とす。


「私はイアンに文字の読み書きを教えてた。軍人として下っ端だった頃からずっと……。最近はほとんど会えなくなってしまったが、思い出さない日なんてないぐらいイアンを大切に思っている。だからこそ私が殺すんだ」


レインの姿を横目で見て、クランは眉間にしわを寄せた。


「やり遂げられると思うのか?」


そう訊かれたレインは決心したように立ち上がり、クランを見る。その瞳は強い意思とは裏腹に、深い悲しみに満ちていた。


「できるよ。私が父さんをやった時みたいに簡単なことだ……。さぁ、もう行こう」


返答を聞いて、目線を伏せながらクランも立ちあがり、少し間を開けてから笑顔の部下に声を掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。