第1章 宝剣ベリトル4
僕は何も言わなかった。
「でも、優しい人がいるっていうのも知ってるよ。小さい頃、僕に頻繁に会いに来てくれた女の人がいて、文字の読み書きを教えてくれたんだ。そのおかげで本が読めるようになったからね。レインさんは特に見返りを求めてなくて、好意で教えてくれたんだ。僕に優しく接してくれたのはままで出会った中でレインさんぐらいだよ。本当に優しくていい人だった。最近は忙しくなったのかほとんど会えなくなったけど」
そんなイアンの話を聞いたベリトルは続いて僕に尋ねた。
「どうしてカミーは独りだったのだ?」
ほらね。来た。僕の番だ。
何も言わない僕に代わって、イアンが説明してくれた。
「カミーは飛べないペガサスなんだ」
その言葉はきっとベリトルに衝撃を与えただろう。だって、ペガサスが飛べないなんておかしいじゃないか。そうだろう? この翼は何のためにあるんだって思うだろう?
「飛べない? ペガサスなのにか?」
ベリトルは僕を傷つけようとかではなく純粋に訊き返した。誰だってそう思う。だから僕はがっかりする。この翼があることで僕はいつだって落ちこぼれだ。
「ねぇ、ベリトル、飛べることってそんなに大切なことかな」
と、イアンが口を出す。
「飛べるか飛べないかなんて、些細なことだよ」
イアンは特に気にしていないようだったけど、僕は面と向かってイアンに訊くことはできなかった。君は僕をどう思っているんだろう。村を飛び出して、友達になった僕らだけど、イアンが僕の事をどう思っているのかはどうしても訊けなかった。真実を知ってしまったら今の関係には戻れない気がした。
「そうか。まるで大戦前の様だ」
大戦前の話は知らなかったから、僕らは興味津々でベリトルを見た。
「大戦前は、幻属と人間が互いに助け合っていた。一つの職業というのではない。たった一つの職業でも共に働いていたのだ。ドラゴンに乗って荷物を届け、エルフと一緒に病を治していた。あの頃を見ているようだ」
「ベリトルは大戦前の事を知ってるんだよね。なら、ちょっと寄り道してみない?」
イアンが広げた地図を覗きこむ。そこには一面台地が広がっていて、何かマークがあるがよく分からない。
「今僕らがいるのはここでしょ。で、僕らの目的地はここでしょ」
イアンは地図の一番下の辺りを指さして、そのまま真っすぐ上へと滑らせた。そう、そこが僕らの目的地。
「でも、ここから少し左にずれると大戦中に建てられた不思議な遺跡があるらしくて、壁画も残ってるみたい。前に読んだ本に地図も載ってて覚えてるよ」
「いいね。ここに自称、大戦前が分かる人、がいるわけだし行ってみようよ」
楽しい度になりそうだ。僕らが笑っていると、ベリトルが不思議そうな声を出した。
「二人はどこに行くつもりなのだ?」
ベリトルに訊かれて、イアンはいたずらっぽく笑った。
「北の果てだよ。冒険家アルフォードの本に書いてあったんだ。北の果てには騏法を作った、この世界で絶対の力を持つ麒麟がいるってね。そこに行って僕らが一緒にいられるように、麒法の例外にしてもらいに交渉しに行くんだ。戦争するよりよっぽど立派でしょ? 僕らはただ一緒にいたいだけなんだから」
そうだ。僕らは一緒にいたいだけ。誰かを傷つけることなんてしない。ただ二人友達でいたいだけなのだ。ベリトルは何も言わなかった。
「さぁ、行こう。麒麟に会う前に寄り道だ」




