第8章 羅剛神の在処6
「まさか、ミケシで隠してたの?」
僕のその言葉にイアンが小さく頷いた時、背後で草木が動いた。僕とイアンが同時に振りかえると、そこには怒りを露わにしたレインとその一行が包囲を固めようとしていた。ニールはその様子に目を輝かせている。
「ふふ。グッドタイミングですよレイン大佐。クラン少佐もマキノもいるじゃないですか。これで役者は揃ったってことですね」
ニールは笑顔を向けるなり胸元から取り出したものを素早く僕らの足元に投げた。目の前で小さく爆発したが特に何も起こらず、ただの目くらましだと分かった時にはニールが洞窟の中へと走り出していた。早く止めないと、この先には羅剛神が……。
「カミー!」
僕はイアンを背に乗せ、後方から追ってくる軍人達にかまわずニールを追った。レイン達もすぐにニールと僕らを追って走ってくるのが分かる。もう後戻りはできない。
洞窟の中は広く、天井は2メートル以上あるようだった。中は暗くて足場も悪く、所々頭上から雨漏りするように水滴が落ちてきていた。洞窟の両側には松明のようなものがありほの暗く足場を照らしている。
「カミー、この炎は普通じゃないよ。普通なら洞窟内の酸素が使われるから酸欠状態になるはずだもん。触らない方がいい」
松明の明かりは不規則に揺らめいて洞窟の先を照らしている。視界の先にニールの姿を捉えながら後を追う。ニールを止めた後無事に脱出できるかという不安をよそに、僕らはニールを追い続け、やがて大きく開けた場所に出た。
直径3メートル程の円形に開けたその場所の中央には、顔が3つ、腕が6本ある金属製の人型の像みたいなものが立っていた。厳重に鎖が巻きつき、その鎖は像を取り囲む6つの木の杭に繋がれている。洞窟内部を照らす幾つもの松明が像を怪しく照らしている。
「あれは人間が作った阿修羅像っていう仏像にそっくりだ。違うのは、3つの顔の内1つがお腹の所にあるってことだ」
羅剛神の顔はどれも頭から角が生え、牙が伸びている。正面は満面の笑みを浮かべ、向かって右側は牙をむき出して怒っている。そして腹にある顔は悲しげに泣いているようだった。どれも見ただけで毛が逆立つような感覚がした。たった1つの胴体から伸びるのは6本の腕。それぞれ重く錆びついたような剣を持っていた。
「それはまさか、羅剛神か」
洞窟内部に駆け込んだレインは中央に立つ像を見てすぐさま鯉口に手を置いた。
「刀から手を離せレイン」
ニールが手に持った剣で羅剛神に絡みつく鎖を撫でる。レインは唇を噛みしめながらゆっくりと手を降ろす。レインもまた羅剛神の封印が解かれれば大変なことになることがわかっているのだろう。
「この世界から戦はなくならない。どうして戦が無くならないか君達には分かる?」
羅剛神の腕を愛しそうに撫でながら、ニールは笑顔で問いかけた。
「一人一人平和を望んでいるのにこの世界から戦が無くなることは絶対にない。理由はね、この世界が戦うことでしか存在できないようにできているからだよ。この世界は毎日罪もない命から無理矢理生を奪い、犠牲にすることで成り立っている。僕らは命を奪わなければ成り立たないシステムの中に生まれたんだから、戦わずにいられないようにできてるんだよ。だからいつになっても戦はなくならないのさ。僕はずっとそれが嫌だった。毎日毎日戦って殺して殺されて……。もううんざりなんだよ。生き物は戦を嫌っているのに、どう足掻いても結局世界は戦に向けて動いていく。だから僕は思ったんだ。この世界から戦を無くす為にはこのシステム自体を壊さないと上手くいかないんだって。僕が軍に入ったのも、鬱陶しい上官に忠実に従ってきたのも全てこの為。羅剛神を何とか発見して復活させ、全部壊して戦の無い平和な世界を再構築するため。罪なんてものは人間が勝手に作りだした秩序を守るためのルールに過ぎない。周りが認めて初めて罪になるけどやり遂げれば英雄扱いだ。この世界の生き物全てを滅ぼしても僕がやり遂げれば僕は正しいんだ」
ニールはそう言って高笑いし始めた。ベリトルの持論は考え方見方によっては横暴を許すことになる。そのままだ。ニールの考え方はあまりにも身勝手だった。命を奪って、全てを滅ぼして、それでも自分が正しいと思うなんて。
「Ladies and Gentlemen!」
ニールはまるで世界全体を嘲笑するように笑い、両手を広げて僕らの方を向いた。今まで見た事が無いほど目を見開き、恐ろしい笑みを浮かべ、ニールは叫ぶように言う。
「これからお見せするのは僕の希望とこの世の破滅だ! 目ん玉ひんむいてその悲しい頭に刻みこめ! さぁて、羅剛神のお出ましだ!」




