第25章 再出発2
その問いに、目線を合わせていく仲間一人一人が頷き、確固たる決意を秘めた熱いまなざしをレインに返す。その中にいたニールが一歩前に出て言う。
「俺はあなたの大切な仲間の命を奪ったのにあなたはこんな俺ですら受け止めてくれました。あなたはこの軍にいるには優しすぎます。あなたのような人は穏やかな場所で笑って生きていくべきだって今は思うんです。あなたを苦しめた俺が言うのはおかしいかもしれないけど、俺はあなたに幸せになってほしいです」
素直なニールの言葉に、部下全員が頷いてレインに笑顔を向けた。
「もういいんです。どうか、幸せになってください、大佐」
その言葉と仲間達の優しさに、レインはなんとか笑顔を保ちながら冗談めかして言う。
「なんてバカな部下だ。上官に辞めろと提案するなど聞いたことがない」
そう言いながらもレインの目に涙が溜まっていくのを仲間達は笑顔を向けて言った。
「お別れです、レイン大佐」
レインを囲む仲間達を見回し、レインの目から遂に涙が零れ落ちた。
「すまない。ありがとう……」
とレインは震える声で伝えた。
レインの除隊はレイン達の予想に反し、すんなり認められた。イアンがいないことでこれ以上軍にレインを縛りつけておく必要が無くなったためである。その日、レインは仲間一人一人と抱擁を交わし、別れを告げてから軍を後にした。
レインの頭上には青空が広がり、鳶が高く旋回していた。辺りは広大な畑が広がり、農夫が春の野菜を収穫している。季節はいつしか春を迎えていたのだ。一面に広がる畑にイアンらしき人影を見ては何度も見直したが、人違いでしかなかった。
「ようやく自由になったというのに、何をしたらいいのか分からないな」
「だと思った」
何気なく空を見上げて呟いたレインに後方から声がかけられ慌てて振り返る。
「クラン? なぜお前がここにいる?」
レインの目線の先にはクランが笑顔で立っており、レインは戸惑いを隠せずにいた。
「そりゃあ軍を辞めて何をすべきかわからずにいるであろう上官が心配になったからだよ」
クランはいたずらっぽく笑いながらレインの元に歩き、隣に立った。
「私のためにお前も軍を辞めたというのか?」
状況が理解できずにレインはすぐさま訊き返す。
「冗談だ。まぁ軍には愛想が尽きてたし、いい機会だと思って無理矢理辞めてきた。やりたいこともあったし、この際そっちの方面に行こうと思ってさ。もちろん皆賛成してくれたよ」
まるで厄介事から解放されたように、清々しい顔で伸びをしながらクランは言った。
「やりたいこと? そんなことがあったのか?」
レインに言われるなり、クランは進行方向にどっしりと構える山を指さした。
「あの山の中腹に集落があって、その先に学校が建ってるんだ。俺の生まれた場所。それから俺が学んだ場所だ。俺は治安が悪い故郷に安寧をもたらすための力をつけるために軍に入隊した。強くなったら故郷に帰って学校の先生になるのが夢で、先生方にはいつでも帰ってきてくれって言われてたんだ。あそこは本当に治安が悪いから、さっき2人でも大丈夫かって連絡入れたら慢性的な人手不足で大歓迎、だとさ」
レインは目をぱちくりさせながらクランを見た。
「とりあえず、どうするか決まるまで学校の先生してみないか?」




