第1章 宝剣ベリトル
新人賞一次選考通過作品です。
今まで書いてきた中で1番の自信作です。そして、たくさんの人に読んでいただきたい作品です!
長編ではありますが、読み終わった時「え?こんな話だったの?まじ時間の無駄」とは絶対に思わせない自信があります!
歩共あるまの長編ファンタジーの世界、はじまりはじまり~
後方から迫ってくるのは無数の馬が駆ける音。湿った土を飛び散らせながら一心不乱に距離を詰める、そんな音。足元が湿っているため、軽やかというよりはむしろ地響きに似ていた。遥か頭上に覆うように広がる枝葉の間から漏れる微かな日差しを何度もくぐりながら僕は逃げた。もちろん、追いつかれるかもしれないという不安は無い。どちらかと言うと、僕に追いつけるはずがないという自信だ。
「カミー、吊り橋がある。渡ろう」
僕の背中の上から声が降ってくる。目の前が突然開けたかと思うと、反対側の崖に向けて真っ直ぐに伸びる一本の吊り橋が姿を現した。後方を気にしながら僕が渡り始めると、木製の吊り橋は軋むような音を立てて激しく揺れ動いた。造った人もまさか人外が使うとは思っていなかっただろう。
「カミー、これ随分古いみたいだね」
「ここを早く渡ってしまうよ。あいつら飛べるんだし」
すると、吊り橋を支える縄の内、僕が通り過ぎた一本がブチっと嫌な音をたてた。
「あれ? イ、イアン、なんか変な音しなかった? こう、縄が切れた感じの」
と、恐る恐る言ってみると、イアンは輝くような笑顔で言った。
「カミー、後ろで縄切れたよ。崩れちゃうね。あはは」
すると、後方の吊り橋は次々支えを失って眼下の濁流に向かって落下し始めた。僕が通り過ぎていった後で順に縄が切れていくのが嫌でも分かった。
「あははじゃないでしょ! 落ちかけてるんですけど! このままだと昨日の大雨で増水した濁流に落下しちゃうんですけど!」
後方に迫っていたあいつらは両翼を使って跳び上がり、既に吊り橋を必要としていない。僕は両翼が縄に引っ掛からないよう力を入れて必死で畳みこんだ。真下では、まるで水が一つの獣のように唸りながら流れており、落下したらまず助からないだろう。
「カミー、早く早く! 落ちちゃうよ!」
「中途半端に急かすのやめて! 僕緊張したらスピード落ちるタイプだから!」
背中ではイアンが大笑いしていて今にも落ちるのではないかと思うが、正直それどころではない。他の縄が切れていったせいで吊り橋の重量を一気に負うことになった残りの縄は耐えきれずに次々に切れ、徐々に僕を追い越し始めていた。そのせいで僕の体は自然と斜めに傾いていく。
「ぎゃー! 落ちてきてる落ちてきてる!」
これ以上吊り橋が落ちてしまうと、蹄では滑ってそのまま落ちてしまう。僕の足が木に引っ掛かる鉤爪を持っていたらと思いながら無我夢中で駆けた。少しでも速度を落としたらお尻から濁流にドボンだ。さらに縄が切れていく速度が上がると、僕らの体もさらに傾いてきた。
「いやいやいやいやいや! ここまで来て落ちるとか絶対いやー!」
こんなところで濁流に飲まれて終わりとか考えたくないが、既に足は滑り始めている。かつてないほどに足を動かして何とか持ちこたえている状態だ。反対側はもう目の前。僕は何とか崖に足をかけ、落ちていく最後の吊り橋を蹴ると、何とか反対側に辿り着いた。
「し、死ぬかと思ったぁぁぁぁぁ」
泣きそうな僕とは裏腹に、イアンは余裕の表情で笑っている。
「さすがカミー。後は僕に任せて」
イアンの手にはいつの間にか吊り橋の木が一本握られており、マッチで火をつけた。その木は引火するなり一本の木からとは思えないほどの煙を出し始めた。まるで人間が使う発煙筒だ。煙はたちまちイアンを包み込み、大火事の中にいるかのように感じる。煙が風に乗って周囲に広がることで、後方のペガサス達はもう煙に隠れて見えない。
「食らえ、先人の知恵! 吊り橋煙幕!」
イアンが持っていた木はさらに煙を発生させ、目を凝らして後ろを見ても何も見えなくなっていた。視界を奪われたペガサス達が次々に立ち並ぶ木に激突している音が聞こえる。見なくなった時点で速度を落としているだろうから、骨折することは無いだろう。ちょっと痣ができて痛いぐらいだ。
「すごいねイアン。その木はなんなの?」
イアンは煙がより広がるように左右に振りながら、楽しそうに説明してくれた。
「昔は今と違ってかなりの技術を持ってたし、火を司る幻属もたくさんいて火事が頻繁に起きていたからね。こんな山奥にかかっている吊り橋はケムリ樹っていう、もえにくく煙を多く出す樹で造られてるんだよ。この煙は狼煙の意味もあって、この橋を通る村人が一刻も早く橋の異常を知るための物でもあるんだ。昔起こった大戦の時には戦線離脱時に煙幕として代用されたぐらいなんだよ」
さすがイアン。何年も本の虫だっただけある。
「さぁ今の内に距離を空けとこう」
イアンが水溜りに木を落としてそう言い、僕は頷いて森の中を駆け抜けた。




