第1回 「カッパ・イート・マン、華麗なる初陣!!」
日本の南東部小さな町、午前11時32分、栄高校。
女子高生・村上ハナは歴史の授業中、居眠りをしていた。
周りに座る生徒たちはおろか、教卓に立つ教師さえも彼女の怠慢さを注意しない。見て見ぬふりをしているというよりは、その光景が日常となり溶け込んでいるようだった。
同時刻、栄高校付近に位置する高塔山。その山頂で観光客の老夫婦が、祠から怪しげな光が放たれていることを発見。
直後、“それ”は大量発生した———。
「……っています。全校生徒の皆さんは、各教室の先生に従って避難を始めてください」
皆が騒ぎ立てる中、眠い目をこすりながら姿勢を起こすハナ。校内アナウンスがかすかに聞こえてくる。
「繰り返します。これは訓練ではありません。全校生徒の皆さんは、各教室の先生に従って避難を始めてください」
「…え?」
ハナが目の前で起きた惨状をだんだんと把握した頃には、もう既に自分が教室を出る前の最後の1人になっていた。
慌てて教室を出ようとするハナ。しかし、散らばった机が体を挟み自由に身動きが取れない。
「まっ…待ってみんな!!」
なんとかして抜け出したが、そこにはもう他の生徒たちの姿はなかった。
「そ、そんな…」
脱出のルートは眠っていた彼女の頭に入っていなかった。
どこへ向かえばいいかわからず右往左往していると、少し離れた位置から爆発のような音が聞こえてきた。
ゆっくりと音の方を向くと、そこには異形の存在が立っていた。
全長は2メートルほど。肌は病人のように白く、腰の下まである腕は細く伸びきっている。
薄い唇でニマッと薄ら笑っており、中には小さい歯がぎっしりと詰まっている。眼球のようなものは無い。
頭に生えてある髪と思しき黒い毛が人間のものと一番近く、それがより不気味さを際立たせていた。
青ざめるハナ。体は硬直し、助けを求めようとしても声帯の動かし方すらも忘れてしまっていたようだった。
終わった———直感。人間の本能でそう感じた。今の人類ではいかなる手段を使っても絶対に勝てない生命体だと。
ようやく体の硬直が解け膝から崩れ落ちそうになったその瞬間、後ろから老いた声が聞こえた。
「さあ!こっちじゃ、のろ助!早く来んか!」
白衣を着た、背の低いハゲ頭の研究者らしき男がいつの間にかそこに立っていた。
男に続いて、特殊なマスクを付けた人物が入ってくる。首から下は一般的なパーカーに一般的なジーンズパンツ。ごく普通の服装が、頭に被ったマスクの異質さを強調している。
「うるせェな■■ジジイ…」
ハナは彼の発した言葉がよくは聞き取れなかったが、何やら口調が荒いことはわかる。
そんな余計なことを考えながら、自分の中に安堵が生まれていると気づいたハナは必死に一言目を放つ。
「あ、あの!すいません!!もしかして!助けてもらえますか!?」
初対面の相手に一番初めに言うセリフにしては不適切である。誰しもが身の危険にあるこの状況下で、自分を助けるという責任を押し付けているのだから。しかし、そんなことを考える余裕までは今の彼女になかった。
誰でもいい。今目の前にいる彼が救世主であってほしい。そんな藁にもすがる気持ちから振り絞った言葉であった。
だが、次に研究者らしき男が発した言葉にハナは救われる。
「おお!ちょうどいい!あそこに困っている民間人がおるぞ!あれを助けるのじゃ!」
ハナの直感は外れていなかったのだ。
ハナは続けて質問する。
「あ!あの!このバケモノは!なんなんですか!!」
「こやつはカッパじゃ!」
「カッパ…!?」
「そうじゃ!そして、ここに立っているこいつが…!」
男は少し横にずれ、マスクの男に向かってバッと手を広げる。
「ワシが心血を注いで完成させた生物兵器!カッパ・イート・マンじゃ!!」
辺りが一瞬、静まり返る。
「……………………………………ださっ!!!」




