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終電で知らない駅に降りた。ホームにいた全員が「明日死ぬ人」だった。  作者: 不可思議ラボ


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7/7

第7話 終電が出たあと、僕だけが駅に残った

時計は、22時08分を

指していた。

あと一分。

ホームにはもう

三人しかいなかった。

僕と少年。

そして駅員だった。

電光掲示板には

二つの文字だけが

残っている。

死亡予定者 0名

侵入者 1名

五人の死は

すでに取り消された。

正確には

この駅が何度も繰り返した

「昨日」の中から

彼らが死なない未来を

僕が選び直した。

それが

再試行の正体だった。

この駅は時間を

戻していたんじゃない。

死ぬ直前の未来を

何度も作り直していた。

そして毎回

最後に残る矛盾があった。

少年だ。

一年前に死んだ人間を

僕がこの場所へ

連れてきてしまった。

だから何度やり直しても

世界の計算が合わない。

「まだ間に合う」

駅員が言った。

「侵入者を元の死亡時刻へ

戻してください」

少年が僕を見る。

「それって」

声が震えていた。

「俺がまた死ぬって

ことだよな」

僕は答えなかった。

答えられなかった。

時計が進む。

22時08分31秒。

少年は小さく笑った。

「いいよ」

「え?」

「もういい」

少年は線路の向こうを

見つめた。

「俺は一年前に

死んだんだろ」

「だったら

戻るだけじゃん」

違う。

そんな簡単な話じゃない。

僕は一年間

あの日から逃げ続けた。

あと数秒早ければ。

もっと早く気づけば。

あのとき僕が

手を伸ばしていれば。

何千回も考えた。

だからあの切符を

受け取った。

一人だけ

死を取り消せる駅。

そんなものが

本当にあるなら

何だってすると

思っていた。

そして僕は

駅を呼んだ。

少年を助けるために。

だが今なら分かる。

この駅が僕に

与えたものは

奇跡じゃなかった。

選択だった。

誰かの死を消せば

その矛盾を

誰かが引き受ける。

ただそれだけだった。

22時08分44秒。

僕はポケットから

古い切符を出した。

裏には僕自身の字で

こう書かれている。

六人目を絶対に選ぶな。

ようやく意味が分かった。

あれを書いたのは

昨日の僕じゃない。

最初の僕だった。

何度も繰り返す前の

僕自身だった。

最初の再試行で

僕は少年を選んだ。

少年を元の死へ戻した。

駅は正常に戻った。

僕は生きて帰った。

だが翌朝

少年の事故の記事を見て

すべてを思い出した。

僕は耐えられなかった。

そしてもう一度

駅を呼んだ。

次も同じだった。

少年を選び

生きて帰り

後悔して

また駅を呼んだ。

その繰り返しだった。

だから僕は

未来の自分へ残した。

六人目を選ぶな。

今度こそ

違う選択をするために。

22時08分53秒。

僕は切符を

駅員へ差し出した。

「二つ目を選びます」

駅員は動かなかった。

「確認します」

「駅を呼び出した者が

侵入者の死亡を

引き継ぎます」

「はい」

少年が僕の腕を掴んだ。

「待って」

「そんなの頼んでない」

僕は初めて

少年の顔を

まっすぐ見た。

一年前

助けられなかった顔。

何度も夢に出てきた顔。

でも今

目の前にいる彼は

記憶の中の少年じゃない。

一年分を失いながらも

ここで考え

怖がり

僕を止めようとしている。

生きている人間だった。

「これは君のためだけに

するんじゃない」

僕は言った。

「僕が終わらせたいんだ」

22時08分58秒。

電光掲示板が

切り替わった。

侵入者 0名

死亡予定者 1名

その下に

僕の名前が表示された。

死亡時刻

22時09分。

少年が叫んだ。

その瞬間

時計の秒針が

12を指した。

けれど

何も起きなかった。

僕は立っている。

少年もいる。

駅も消えていない。

「どういうことだ」

駅員を見た。

だが駅員は

初めて笑っていた。

「訂正が完了しました」

電光掲示板が

もう一度変わる。

死亡予定者 0名

運行終了

僕は息を止めた。

「僕は死なないのか」

駅員は首を振った。

「あなたが引き継いだのは

死ではありません」

「では何を」

「死亡したという事実です」

意味が分からなかった。

遠くから

列車の音がした。

ホームへ

白い電車が入ってくる。

行き先表示には

一文字だけあった。

現世。

扉が開いた。

駅員は少年を見る。

「お乗りください」

少年が僕を見る。

「この人は?」

駅員は答えなかった。

僕は理解した。

僕が引き継いだのは

少年が死んだという

世界の記録そのものだ。

これから世界では

一年前に死んだのは

少年ではなく

僕だったことになる。

少年は帰れる。

だが僕には

帰る世界がない。

僕の家も

仕事も

名前も

僕を知る人の記憶も。

全部

最初から存在しなかった

ことになる。

「行け」

僕は少年の背中を押した。

「でも」

「終電だぞ」

少年は泣きながら

電車へ乗った。

扉が閉まる直前

彼が叫んだ。

「名前!」

「え?」

「名前教えてよ!」

僕は答えようとした。

けれど

自分の名前が

思い出せなかった。

もう消えていた。

扉が閉まった。

列車が走り出す。

少年の姿が

暗闇へ消えていった。

ホームには

僕と駅員だけが残った。

「これで終わりですか」

僕が聞く。

駅員は帽子を取り

深く頭を下げた。

「はい」

「あなたがこの駅を

呼ぶことは

もうありません」

照明が一つずつ

消えていく。

改札が消えた。

時計が消えた。

線路も消えた。

最後に

駅員が消えた。

僕だけが

暗闇に残った。

それから

どれくらい経ったのか

分からない。

突然

遠くで音がした。

電車のブレーキ音。

目を開ける。

見知らぬ駅だった。

朝の光が

ホームへ差している。

人が大勢歩いている。

僕の横を

高校生くらいの少年が

走っていった。

一瞬だけ

目が合った。

あの少年だった。

けれど彼は

僕を知らない。

当然だ。

この世界では

僕は一年前に

死んでいるのだから。

少年は友達に呼ばれ

笑いながら走っていく。

僕はそれを見送った。

ポケットの中で

何かが鳴った。

古い切符だった。

文字が浮かんでいる。

運行終了

再試行回数 7回

救済人数 6名

その下に

最後の一文が現れた。

「あなたも

救済対象に含まれます」

僕が顔を上げると

ホームの向こうに

一両だけの電車が

止まっていた。

行き先は書かれていない。

扉だけが

静かに開いている。

僕は少し迷ってから

その電車へ乗った。

扉が閉まる。

もう

やり直す必要はない。

電車が動き出す。

窓の外で

朝の街が遠ざかる。

僕がどこへ行くのかは

分からない。

それでも

一つだけ分かっていた。

明日死ぬ人だけが

降りるあの駅に

もう二度と

終電は止まらない。

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