第1話 明日死ぬ人だけが降りる駅
目を覚ますと
電車の中には
僕しかいなかった。
窓の外は真っ暗だった。
スマホを見る。
午前0時17分。
終電で眠ってしまったらしい。
慌てて立ち上がった瞬間
電車がゆっくりと減速した。
車内アナウンスが流れる。
「終点です」
僕は違和感を覚えた。
この路線の終点は
まだ先のはずだった。
ドアが開く。
ホームに降りると
冷たい空気が肌を刺した。
駅名標を見る。
「終着駅」
そんな駅名
聞いたことがない。
振り返る。
電車のドアが閉まった。
「待って!」
僕が駆け寄るより早く
電車は暗闇の中へ消えていった。
ホームに残されたのは
僕だけではなかった。
ベンチの近くに
五人の人間がいた。
スーツ姿の男。
制服を着た女子高生。
買い物袋を持った女性。
作業着姿の男性。
そして杖を持った老人。
誰も話さない。
全員が困惑した顔で
周囲を見回していた。
駅の時計は
0時18分を指している。
そのとき
ホームの電光掲示板が光った。
00:42
03:18
07:05
11:31
16:44
22:09
六つの時刻。
行き先は表示されていない。
「何だこれ」
スーツ姿の男が呟いた。
老人が突然
ポケットからスマホを取り出した。
「ニュースが……」
画面を見た老人の顔から
血の気が引いていく。
僕たちは
老人のスマホを覗き込んだ。
そこには
明日のニュース記事が
表示されていた。
『午前7時5分
市内の交差点で
高齢男性がトラックにはねられ死亡』
記事には
老人の名前が書かれていた。
誰も声を出せなかった。
「そんなはずない」
老人は震えていた。
「まだ明日にも
なってないじゃないか」
次の瞬間
買い物袋を持った女性が
小さな悲鳴を上げた。
彼女のスマホにも
ニュースが表示されていた。
『午前3時18分
住宅火災で女性死亡』
女性はスマホを落とした。
電光掲示板を見る。
03:18。
老人は
07:05。
全員が
同じことに気づいた。
六つの時刻は
ただの時刻ではない。
そのとき
ホームの奥から
足音が聞こえた。
カツ。
カツ。
カツ。
暗闇の中から
駅員が歩いてきた。
古い制服。
深くかぶった帽子。
顔は影になって
よく見えない。
駅員は僕たちの前で止まった。
「お待たせしました」
声だけは
妙に穏やかだった。
「ここはどこですか」
スーツ姿の男が聞いた。
駅員は
電光掲示板を見上げた。
「表示されているのは
皆様の死亡予定時刻です」
誰も動かなかった。
「明日
皆様は表示された時刻に
死亡する予定になっています」
女子高生が
震える声で聞いた。
「予定って……
変えられるんですか」
駅員は頷いた。
「一人だけ」
全員の視線が
駅員に集まる。
「この駅から帰れる方は
一人だけです」
沈黙。
その意味を理解するまで
数秒かかった。
一人だけ
死亡予定を取り消せる。
残りは
明日死ぬ。
その瞬間
電光掲示板が切り替わった。
『死亡予定者 5名』
僕は息を止めた。
ここにいるのは
六人。
僕を含めれば
確かに六人いる。
なのに
死亡予定者は五人。
「待ってください」
僕は駅員に言った。
「僕の時刻は
どれですか」
駅員は
ゆっくり僕を見た。
そして
初めて首を傾げた。
「あなたには
死亡予定がありません」
全員の視線が
僕に集まった。
「じゃあ
どうして僕はここに?」
駅員は
胸ポケットから
一枚の切符を取り出した。
僕に差し出す。
切符には
こう書かれていた。
『乗客ではない』
意味が分からなかった。
「どういうことですか」
駅員は
僕の顔をじっと見た。
「あなたは
この駅に連れてこられたのではありません」
ホームの照明が
一度だけ消えた。
暗闇。
そして
再び明かりがつく。
駅員は
僕のすぐ目の前に立っていた。
「あなたが
この駅を呼んだんです」




