噂
暗がりの森の浄化と神の庭から帰ってきてから数日
患者も少なく、あまり魔力を使わなかったから、また森に行こうかと思っているとアステリが入ってきた
何か用か、とフィトーさんが訊くと彼は私を見て
「……噂になってるぞ、聖女が現れたって」
「え?」
「「噂?」」
「この前、暗がりの森の浄化に行ってくれただろ?
その様子を遠目から見てた人が居て、そこから噂が広まってるらしい
さすがにミヤだとはバレていないんだが一部では神の使いだと言われているらしくてな
ティルクアーズ達が一緒に居たからだと思うが教会の奴らがソワソワしだしてる」
なぜ教会の人たちが、と思うとルルーディが説明してくれる
教会では結婚式などの儀式はもちろん祈祷などの儀式を行う場所でもある
魔力契約のこともあるから当然、神々を崇めている
そこに聖女が現れたかもしれないという話が流れたらソワソワする
聖女は神と対話ができると信じているから
「それでミヤのことを探している人も出てきてるらしくてな
この前の件で少しでも疑われたら、たぶん教会が動いて囲われるぞ
ミヤの願いが叶わなくなる」
私の願い、それは目立ちたくない
今の生活で充分だから変に注目されたくない、というもの
自分勝手だと思いつつも平穏に暮らせているから、それを壊されたくはない
「噂はまだ信じてない人たちが大半だが一応ラハニス達にも言っとけよ
ミヤが行動して起こったことまでの責任はとれねぇからな」
「そんなことはしないよ
ありがとう、教えてくれて」
「別に、心配なだけだから」
そう言って照れ臭そうに頭を掻いたアステリ
今は大丈夫かもしれないが、ちょっとしたことが原因でバレるかもしれない
森への浄化も、しばらく止めておこうかな…
やっと早めに解決しそうだったんだけど…
というか私自身の責任だな、これは
「…なるほどのぅ、人間は面倒じゃな」
ティルクアーズさんに知らせラハニスとグリーゾさんを呼んだ
医務室にセリーニさんとレモニーさんを含めた九人が集まる
「ごめんなさい、もっとよく考えれば良かった…」
「俺たちにしてみれば早く浄化してもらえて助かるから…大変なのはミヤ自身だよ」
「俺も、セリーニの言う通りだ
もう少し慎重になれば良かったんだ、申し訳ない」
自分たちのためにしてくれたことなのに、と不満そうに言うので頭を振る
「私がやりたかっただけですから謝らないでください
効率重視で動いてしまったのは私ですから」
するとアステリから始まりグリーゾさんとティルクアーズさんまで困ったように笑いながら、お人好しだな、甘い、と言った
「良いではないか、それでミヤは多くのものを救ってきたのじゃから
しかし聖女と知られて不都合があるとなると……隠すかのぅ?」
「うーん……でも暗がりの森の浄化は止めたくない、かな
ワガママ言って申し訳ないけど…」
「そんなことないですよ、ミヤさんは多くを救ってくれてるんですから」
レモニーさんはそう言ってくれるけど本当に申し訳ない
みんなにも迷惑かけちゃうから
「ならば妾が隠してやろうか」
そう言うとティルクアーズさんは医務室に具現化した
そして私の周りを囲むように水を操り薄い膜のように空中に留まらせる
すると、みんなが驚いた顔をしていた
どうやら私の姿が見えていないらしい
「水鏡魔法の応用だ
その場所から動けないし触れば分かってしまうがな
一時的に隠れるだけなら問題ないだろう
本当に隠れたくなったらセンテーフィに頼んだほうが良い」
ティルクアーズさんの説明を聞きながらレモニーさんが興奮した様子を見せ始める
「水鏡魔法の応用……!
さらにフィトーの姿で具現化してる時点で大変なのに……さすがティルクアーズ様!」
「そうだろうそうだろう」
腕を伸ばすと特に遮られることなく水の膜を突き抜けた
アステリとセリーニさんがまじまじと観察していて、ティルクアーズさんは胸を張っている
その様子をフィトーさんが嬉しそうに見守っていた
「すごいね、これなら浄化しに行っても誰も分からない」
「問題点としてはミヤがその場から動けないことだが…」
「俺たちの背に乗ってもらうから移動は問題ない
中心部まで運ぶこともできるし、いざとなればティルクアーズとラハニスがミヤの姿を隠せる
いざとなれば俺も闇魔法で隠すしな」
それなら問題ないか、と納得する
「森に同行するのは我らだけにしよう
下手に人数を増やせば噂が増長するからのぅ」
「ありがとうございます」
そう言うとティルクアーズさんが魔法を解除しながら目の前に来て目線を合わせてくる
「ミヤは、もっと主張しても良いんだぞ?
そなたのおかげで妾たちの生活が助かっているのだから
もっと欲を出してくれて構わん」
「出してますけど…目立ちたくないって…」
「そなたの望みはそれだけか?」
そうだと断言すると、みんなが呆れたように深いため息を吐いた
何か間違っていたのかと首を傾げたものの、特にお咎めもなく解散となった
「ミヤの望みを聞いてしまうと不思議と協力したくなるな
森の浄化は妾たちの望みでもある、これからも頼む」
「ありがとうございます、頑張ります」




