レモニー
「お待たせしました、レモニーさん」
「いえ大丈夫ですよ、ミヤさん
ラハニス様もいらっしゃいませ」
「邪魔するぞ」
今日はレモニーさんに訊きたいことがあるからと魔法研究科の部屋にお邪魔させてもらった
本当は気軽に訊きたかったのだが彼女がラハニスにも会いたいと言っていたから二人でお邪魔させてもらったのだ
私もラハニスに訊きたいことがあったし丁度良い
部屋の中は魔法に関する本や資料が沢山あった
それに付随するのか書類で溢れかえってもいる
「すみません、散らかってて」
そう言いながらレモニーさんは綺麗にされているテーブルに私たちを案内した
なるべく書類を踏まないようにして、なんとか辿り着く
なぜか遠くから他の研究員さん達が私たちを見ていた
「たぶんラハニス様とお話したいんだと思います」
なるほど、と納得した
ドラゴンと会える機会なんて普通は滅多にない
ちなみに彼らはラハニスのお気に入りの人物よりもラハニス本人に興味があるそうだ
心配しなくていいと言われた
「それでミヤさん、私に訊きたいことってなんですか?」
紅茶を出してくれた後、レモニーさんは本題に入る
私は一口飲んでから訊いてみた
魔法を使い続けていくと魔力量は上がるのか、と
「上がる…というのは少し違いますね
もし上がるのであればラハニス様たちは無限に使えることになってしまいます」
「そうじゃな
上がるのではなく上手く使えるようになる、と言えば良いかのぅ」
いまいち分からず首を傾げる
「つまり魔力量は変えられません
上げることも下げることもできないです
代わりに消費量を減らせるようになります」
「なるほど……効率よく使うことができるようになると」
「そうです、ラハニス様のような高位存在でも同じですね」
「我も若い頃は今よりずっと下手だったぞ
何度も失敗して学んだもんじゃ」
へぇ、としみじみ言うラハニスを見る
その効率というのはどうやって身につけるのか訊けば経験だと返ってきた
「何百回、何千回と魔法を使う中で体が覚えていくんです
無意識に自分の中で最適化されます」
ただの反復練習……?
脳筋というかなんというか……
「とはいえ慣れ以外の方法もあります
分かりやすいのは魔力切れですね
切れる寸前で止めてポーションを飲めば魔力の底と量を知ることができます
命を落としかねないのでオススメしませんが」
魔力切れ、つまりは空っぽになるまで使い切ってしまうということ
あれ、とそこで思い至った
ラハニスも同じことを思ったらしく紅茶を飲みながら
「すでに何度か主は魔力切れで倒れておるのぅ」
「えっ⁉︎」
レモニーさんが目を丸くする
ラハニスを浄化した時やクレムさんを治療した時など私は倒れるまで魔力を使ったことがある
それこそ倒れなくとも何度も魔力回復のポーションは飲んでいた
一度しか知らないレモニーさんは聞いてて開いた口が塞がらなくなっていたけど
「な、なるほど…
でしたらミヤさんは無意識のうちに効率化していると思いますよ
この短期間で素晴らしいです」
「我と比べるとまだまだじゃがの」
ラハニスと比べられても困るんだけど…
「そして最後に属性による違いですね
適正属性を調べられたと思いますが相性が良い属性というのはそもそも無駄がないので使い続けることでそれが浮き彫りになってきます」
相性の悪い属性はあるけど、だからと言って使えないわけじゃない
その分魔力を多く必要とするだけなんだとか
好き好んで使う人は滅多に居ないらしいが
「じゃあアステリが全属性使えるのは…」
「奴の場合はまた別じゃろうなぁ」
「そうですね、あの人は例外だと思います」
なんとなくそんな感じはしていたけど二人にも言われてしまった
ふむ、と聞いた話を頭の中で整理する
確かに最初の頃に比べて聖属性も今は扱いやすく慣れてきていた
ふむふむと頷いているとレモニーさんが嬉々として話し始める
「それでミヤさんは水属性が得意でしたよね?
最近、剣術を習っているともお聞きしています
ぜひ剣に水を纏った方法で…」
まるでプレゼンをするようにレモニーさんは話をしてくれた
面白いし興味深い内容だったけど、あっちこっちに話が飛ぶから聞き取るのに必死だった
気がつけばもう日も暮れている時間である
「あ、すみません
つい夢中になってしまいました」
「いえ…」
「ずいぶん熱心に調べておるのぅ、主
その若さでそれほどの知識と情熱を持っておるとは将来が楽しみじゃ」
ラハニスも感心している様子で褒めるとレモニーさんは嬉しそうに涙目になっていた
「そういえばミヤ
我にも訊きたいことがあったのではなかったか?」
「…あ、忘れてた
ティルクアーズさんのことなんだけど」
首を傾げるラハニスに先日のことを話した
そして彼女も変身魔法が使えるのか、と
今の属性の話を聞いた限りでは使えるのだろうと思ったけど
「あぁ、ティルクアーズのは水鏡魔法じゃな」
「水鏡魔法?」
聞いた事がない
変身魔法とどう違うのだろうか
「変身魔法は自らに幻影の姿を被せて別人になる魔法じゃ
対して水鏡魔法は自分の周りに水の膜を作り出し、そこに相手の姿を投影する
要は鏡じゃな
そして周囲の認識を書き換えることで見せる姿を偽装する魔法じゃ」
ラハニスが紅茶を一口含みながら説明する
「どちらとも術者に触れることはできるが大きな違いは魔力の消費量じゃな
変身魔法は自分の幻影を維持するだけで良い
だが水鏡魔法は周囲の水の膜を常に張り続けていなければならん
それに水である以上、火には弱い
高温の炎ならすぐに蒸発してしまう
まぁ、どちらにしても人間には難しい魔法じゃ」
「…やっぱりティルクアーズさんもラハニスのように高位の存在なんだね」
「同じ王ではあるからのぅ」
話を聞いて納得し、改めてすごい人から求婚されてたんだと思った
私の答えは変わらないけど
すると話を聞いていたレモニーさんが震え始める
「どういうことですか、ミヤさん…っ
ティ、ティルクアーズって…まさか…っ」
「水竜…水の精霊王のティルクアーズさん、です…」
そう答えるとレモニーさんは机の端に両手をついて深呼吸を繰り返した
興奮しているのを抑えているのだろうか
「なぜミヤさんがティルクアーズ様を知ってるんですか⁉︎」
「先日の遠征で、ちょっと……」
「貴重な情報過ぎます!
遠征ということは第一の方々もいらしたということですよね
何があってそうなったんですか⁉︎」
鼻息荒く詰め寄ってくるレモニーさんにラハニスが助け舟を出す
「落ち着け、レモニーよ
ミヤが怯えておる」
「あ、すみません……取り乱しました」
レモニーさんが咳払いを一つして自分の席に戻る
その仕草はどこかぎこちなくて、まだ興奮しているのが見て取れた
それでも必死に落ち着こうとしているのが分かる
「あの…ミヤさん、申し訳ありません
私、興味があることにまっしぐらで……つい」
「いえ、驚きはしましたけど大丈夫ですよ…?」
苦笑いしながら言うと、レモニーさんも笑顔で頷いた
彼女の情熱に触れて少し羨ましくなる
その後、再沸騰しない内にレモニーさんに別れを告げて、私たちは外に出た
また別の機会に話してあげようと思う
夜風が涼しく感じられる中、二人で歩き始める
「ラハニス、今日はありがとう」
「お安いご用じゃ
また何かあれば呼んでくれ
シロガネも会いたがっておるしのぅ」
「うん、またご飯も作るね」
「おぉ、それは楽しみじゃ」




