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買い出しとお礼

医務室の扉を開けると光の中、ミヤが薬草棚を整理していた

俺に気づき振り向いた彼女はいつも通り無表情だ

だが毒気の欠片もない視線に安心して息を吐く


「お疲れ様です、セリーニさん」


「あぁ…元気そうで良かった

怪我もなく無事で本当に…」


「支えてくれているみなさんのお蔭です

ありがとうございます」


頭を下げたミヤに俺は何もしていないと否定する

お礼を言われることではない

ただこうやってミヤの顔をちゃんと見れたことが俺にとっては何よりも嬉しいもので安心した

相変わらずの無表情だが眼差しは柔らかく見え、俺は胸が暖かくなっていくのが分かる

彼女は実行者と計画者の采配をアステリ達に任せている

ただダメになってしまった野菜の代金だけを請求し、彼らがどうなったのか知ろうとはしない

ラハニス殿が今何をしているかは知らせないほうが良いだろう


「何もしてないとは思えないですけど…

あ、それならセリーニさん次のお休みっていつですか?」


「? 二日後だけど…」


「それなら一緒に買い出しに行ってくれませんか?

今回助けてもらったので、みなさんに何かお礼できないかと思ってまして…」


「あぁもちろん良いよ」


「ありがとうございます」


微笑んだミヤの笑顔に一瞬固まってしまった

自分の中に芽生えた何かに気づいた気がしたが、すぐに気のせいかと首を傾げる


「ちなみに何を買うつもりなんだい?」


「また肉料理でも作って振る舞おうかと

暑くなってきてるので野菜と一緒に食べてもらえたらなって」


「良いと思うけど全員分ってなると、かなりの量になると思うよ」


「大丈夫です

こういう時のために貯金してるので

あ、借りようと思ってないですから安心してください」


ミヤの言葉に俺は小さく笑った

出会った最初の頃を思い出してそう言ったんだろう

だけどあの時のお金は全額返してもらっている

今回も借りたとしても返してくれると思うけど


「じゃあ二日後に迎えに行くよ」


「お願いします」


そう言って約束した当日の朝

家の前で待つミヤを見つけたとき、思わず足を止めた

普段の医務室の制服ではなく白のワンピースに身を包み、暑いからか髪も結い上げて控えめながら清楚な装いをしている

それはまるでデートでもするかのような

そこまで考えて単なる買い物だと言い聞かせて頭を振った


「待たせたかい?」


「いえ、わざわざありがとうございます」


そんな会話をして、すぐに市場に向かった

市場の雑踏は夏の訪れを感じさせる賑わいで満ちていた

ミヤは品々を吟味しながら次々と目的の物を買っていく

最終的に予算内で納得のいく物を見繕い、大量の荷物を持って歩くことになった


「そっちも俺が持つよ」


「あ、ありがとうございます」


比較的重いほうの買い物袋を持つと特に意識していないだろうミヤの素直さに俺は笑ってしまった

それが意外だったらしく、こちらを見つめられる

なんでもないと言えば彼女は不思議そうな顔をしたまま自分の足元へ視線を戻した


「そういえば今の時期のこの国の名物料理って何ですか?」


「うーん、暑いから冷たいものが好まれるけど…特にこれと言う物はない気がするな」


「そうなんですか?

意外と私の世界と食べ物が似てるのでありそうなものですけど

…あ、でも麺はないから冷製パスタとか難しいか」


「…それは美味しいのかい?」


「美味しいですよ

食欲ない時も食べれるくらいです

作れるようになったらですけど…食べてみますか?」


「もちろん、楽しみにしているよ」


そんな他愛無い話を交わしながら歩いていくうちにミヤは笑みを浮かべている

俺も釣られて口角を緩めて気づいた

彼女は市場の喧騒の中で自然体そのものだ

周りの人混みにも全く動じず淡々とした歩みで目的地へ進んでいる

彼女がこちらの世界に来てから早くも半年が経っている

間違いなく俺たちの国の人間で、大事な仲間なのだ


「どうしました?」


俺が立ち止まったのに気づいたのか、ミヤは振り向いて訊いてくる

その声に意識を戻され慌てて何でもないと返して先を歩く背中を追いかける

こんな日常が大切なものだと感じて足取りが軽くなったのは黙っておいた


「美味しい、何これ!」


その翌日

食堂で盛り上がる第一と第二軍、そして医務室勤務の二人とレモニーが居た

ラハニス殿とシロガネ殿も料理をするミヤを眺めている

珍しい物が食べられると “親切” にしている彼らを放って来ているらしい

待ち遠しくなっているのが遠目でも分かるくらいだ


「さっぱりしてるからか食べられる!」


「野菜うまっ!」


第一と第二の言葉にみんなが頷いた

豚肉のレーシャブという料理らしい

肉もさることながら一緒に食べる野菜で口の中がさっぱりして、また食べたくなる

ソースも酸っぱしょっぱい感じで暑い今にぴったりの料理だと思いながら賑やかな食卓を眺める

初めて食べる異世界の料理は誰もが笑顔で食べ続け、あっという間に完売となってしまった


「ご馳走様でした」


「とても美味しかったぞミヤ、ありがとう」


「「また作ってほしいです!」」


気に入ってもらえたからかギルドにレシピを登録しておくと言うと全員が絶対買う、と意気込んだ

ラハニス殿とシロガネ殿も気に入ったらしく、また作ってほしいとミヤに頼んでいる

みんなが口々にそう言ったからか、ミヤは嬉しそうに微笑んでいた

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