ナイトフォール侯爵領
体内の魔力が安定し、髪の長さが元に戻った俺は、ミストラルとリダルを連れて、ロプトル帝国のナイトフォール侯爵領にきていた。
なぜなら、季節が冬で社交シーズンじゃなかったのと、グレースとアメリアが実家に帰ってると、リダルに教えられたからだ。
ロプトル帝国の東側国境にあるこの領地は、隣のティローサ都市国家との交易の中心地として栄えてる。
ルシオールとグレースが婚約した背景には、ナイトフォール侯爵と仲良くしたい、皇帝の意向があったんじゃねえかな。
◆◆◆
リダルがいるおかげで、簡単に領主城に入れた俺たちは、ミルドラド・ナイトフォール侯爵に熱烈な歓迎を受けていた。
「国の英雄たちに、こんな間近で会えるなんて嬉しいよ。リッダーレ・ルイゼン卿、ラルジャン・レナウン卿。それから、レナウン夫人……?」
これだから! 帝国貴族に会うのは嫌なんだ!!
堅っ苦しい! 騎士爵だって本当は、要らなかったっつうのに。
ルシオールたちと遺跡を攻略したからって、俺まで英雄扱いしやがって!
「侯爵閣下のご令嬢に比べたら、私の活躍など大したことありません」
この話し方がつらい! 早く侯爵との会話を終わらせて、領主室から退散したいぜ!
「そうかい? まあ、春までこの城で、ゆるりと過ごされよ。ルイゼン卿は、早く夫人に会いに行くとよい」
「かしこまりました。お気遣いありがとうございます。さっそく顔を見せに行ってまいります」
リダルが退室するのに合わせて、俺とミストラルも部屋から抜け出した。
これから貴族に会う度、貴族流の話し方しねえとならねえのが苦痛だ!
っつうか、ルシオールの異変については、まだ侯爵に知られてねえのか?
グレースが領地に戻ってるんだ。侯爵が知らねえってこと、ないと思うんだが。
分からん。考えが読めねえな。
◆◆◆
「久しぶりね。……ミストラルさんはなんだか、お変わりになられまして?」
リダルとアメリアが再会を喜び合ってる間、俺とミストラルは、グレースの居室で、グレースに首を傾げられていた。
「気のせいじゃねえか?」
「少し身長が縮んでしまったのじゃ」
「身長……はどうなのかしら? そうではなく、外見が十代半ばくらいに、若返っていらっしゃるわよね?」
気になることは、それだけなのか?
他にもっと、相談したいこととかないのかよ。
ルシオールの状態とかな!
「細けえことは気にすんなよ。で、ルシオールとの関係はどうなってんだ?」
婚約破棄とかは、さすがにねえだろうが、エピリスっつう女のせいで、関係悪化とかしてたら、帝国内も混乱するだろ。
「お父様は静観するみたいよ。私は春になったら殴り込みに行くつもり。私とエピリス伯爵令嬢を混同するだなんて、いい度胸ですこと」
殴り込みとか、皇太子妃候補が発していい単語じゃねえと思うのは俺だけか?
「危険だからやめとけ」
本気でルシオールを殴ったら、不敬罪で首が飛ぶぞ。
「私はお父様みたいに、黙って見てるつもりはなくてよ」
「俺とミストラルで解決してやるから、大人しくしてろ!」
ルシオールが正気に戻ったとき、グレースが遺体になってたら、あいつ多分、国を滅ぼすぜ。
それぐらいグレースを気に入ってるだろうからな。
「……なぜミストラルさんのことは、連れて行くのかしら? やっぱり、夫婦なのでしょう?」
前のときは否定したが、今回は否定できねえ。
連れてくのはミストラルが、俺から離れなかったせいなんだが、言う必要ねえしなぁ。
「少し前に結婚した」
「ほら、私が思った通りでしたわね! レナウン夫人には、私が宮廷作法を、教えて差し上げてもよろしくて?」
建国記念舞踏会に出席する名目で、ルシオールに近づくつもりだったから、ちょうどいいぜ。
ミストラルもあの地獄の特訓を受けて、貴族が如何に面倒な存在か体験すれば、着いてくる気も失せるだろ。
「ああ。最高の教育を頼むぞ」
「私を誰だと思っているのかしら? 未来の皇太子妃でしてよ。完璧なマナーを伝授いたしますわ」
楽しげに目を煌めかせたグレースに、俺はおののき、ミストラルは分かってなさげな顔をした。




