表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
海上都市ラルーナ
3/60

海上都市ラルーナ②

手元の本をいじり続けてても仕方がねぇな。

部屋を見まわすと、解放的な窓がある。

「へぇ、凄いじゃねぇか! 海が一望できるぜ」

一面の水が、海というのだとミストラルに教わった。

こんないい部屋を、一ヶ月も借りていいのかねぇ。

あと、ミストラルと同じ部屋にされたのはなぜだ? 普通、家族じゃねぇ男女を同じ部屋にするか?

それはそれとしてだ。

せっかく繁華街に居るんだから、外出してみっか!



部屋から出ると、近くに談話室があった。

ソファや、テーブルがあり、天井には魔石で造られた装飾灯(シャンデリア)がつるされている。

壁の方には、テラスに出られる扉まであり、自身の常識が破壊されていくのが分かるぜ。


何ヶ所かに別れたテーブルの一つの場所で、十代くらいの若者たちが討論している。

「……だから、魔石にこの言葉を刻むと、こう、炎が強くなると思わない?」

「いや、こっちの言葉の方が威力がでるだろ。魔力の消費量も比較的少なくてすむ。君のは六工程だけど、僕のは、魔力誘導、炎属性付与、烈炎。ほら三工程でできる」

力説する少女に対し、余裕をもって否定する少年。

専門用語が多くて分からねぇ……。

「それじゃ、ちょっと強過ぎない? 周りを巻き込んでしまうわ!」

「いっそ、炎属性魔石を使った方がいいんでね?」

イスの背にもたれ掛かりながら、なげやりな口調の少年。

「属性付きの魔石は高級品でしょ! 私は属性なしの魔石で程よい威力を出せる物を作りたいのよ。一般の人でも手が届くように……」

「ファナちゃん、落ち着いて。ここは公共の場所だから……」

力説する少女が甲高い声をあげ、それを慌てたように小声でなだめる少女。

魔石技師見習いたちか? 観光地に来てまで研究とは恐れ入る。



小声で討論を続ける少年少女を横目に、談話室を通り過ぎた。階段を降りると、横に食堂。反対側に窓口。

俺は窓口に鍵を預け、外にでた。




小物やお菓子を売っている店が多いな。食事は宿で取れるからか?

立ち並ぶ店は観光土産のためか。

呼び込みの店員や、はしゃぐ子ども。海人族(かいじんぞく)の道端での歌と演奏。

歌に聴き入ってる客も多い。

晴れやかな気分になりながら、魔石専門店を目指す。


繁華街の隅に店を見つけた。

「いらっしゃいませ」

店内は薄暗い。

他の客はいないみたいだな。

身体強化術式(しんたいきょうかじゅつしき)が刻まれた魔石は置いてるか?」

「珍しいですね。えぇ、置いていますよ」

身体強化系の魔石を求める客は少ねぇのか。

「見せてくれ。この石はもう使えねぇ」

首飾りを外して店主に渡す。

「同じ物でよろしいですか?」

「ああ」

大きさや値段を見比べ、気に入った物を幾つか購入する。

「失礼ですが、お客様は獣人族(じゅうじんぞく)の方でしょうか?」

俺の目を見つめながら店主が尋ねた。

「そうだが。なにかあるのか?」

差別主義者には見えねぇが。

「いえ、責めてる訳ではなく。獣人族の方でしたら、おすすめできる魔石がありますよ」

店主は硝子箱(がらすばこ)からそれを取り出した。




良い物を手に入れたぜ。

先ほど買った魔石の効力を反芻(はんすう)しながら、宿屋に戻る。

すでに日も落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。

「まだ戻ってねぇのか」

あいつは一日中温泉に入ってんのか?

俺も風呂に行ってくるかなぁ。

部屋に戻ってもミストラルは居なかったので、最上階にある露天風呂へ向かうことにした。



露天風呂では、満天の星空と、明かりの灯った繁華街。一面の海を眺めることができた。

陸と海の境は透明な泡で覆われているが、十分な景色だぜ。

満月の日にはまだ遠いようだがな。



温泉に入り終わった俺は、一階の食堂で食事を堪能している。

部屋にはメモを残してきた。

「美味しそうな物を食べておるのぉ」

……ブフォッ! 背後から突然の声。

「ビビった。……お前どこの民族衣装だそれは」

酒がこぼれちまった。

後ろを振り返ると、見たことのない服を着てミストラルは料理を覗き込んでいる。

「これか? これはの、森人族(しんじんぞく)の民族衣装、浴衣というものじゃ! 綺麗であろ?」

自慢気に腕を広げた。

「綺麗だけどよ、その(めん)をつけてたら台無しだよなぁ」

服は綺麗だが、面と合ってねぇぞ。

「そうかや? 面を外せば()いのか?」

「それはやめとけ。大惨事になる」

面を外そうとする腕を掴み、イスに座らせた。

「つまらんのぉ」

「いいから。大人しく座ってろ」

口元まで面で覆われてるが、どうやって食事するんだ?

ジッと眺めてみる。食べ物が面を通り抜けただとぉ?! やっぱその面、魔法的ななにかが、かけられてるだろ!

得体の知れない恐怖が這い寄ってきた。

俺はなにも見てねぇ。

どっと疲れが押し寄せる。



食事を取り終わり部屋に戻った。

「明日は繁華街を見て回らぬか?」

「いいぞ」

なにか見たいもんでもあんのか。

「どの店に行きたいんだ?」

って、もう寝てる! 自由人だなぁ、おい。

窓際のソファに座り外を眺める。


……なにか横切ったな。翼が生えた鳥……?いや、あの大きさは人だなぁ!

人型で空を自由に飛べるのは、天神族(てんじんぞく)しか居ねぇ。

しっかし、浮島(うきしま)から滅多に出てこない種族が、なんでこの都市に……?


おかしな事もあるもんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ