海上都市ラルーナ①
大陸から離れた南方の海。
海上を遊泳している島がある。
どういう原理で動いているのかは定かではない。
そこは、海人族が統治している都市である。
謳い文句は、療養と観光の都市だ。
魔石で温泉を造り、滋養にいいと宣伝し、大成功を納めた都市だそうじゃ。
都市の周りは海の泡で覆われていて、普通の人間が見つけるのは至難の技だのぅ。
必然、この都市に来られるのは、魔石技師や魔人族、大貴族ぐらいのものであろう!
この都市での争いは御法度じゃぞ。
これ全てミストラルの言だ。
「こんな都市があるなんざ、知らなかったぞ」
宿屋の一室で入都のさいに配られた本を眺めながら、物思いにふける。
本の表紙には
【海上都市ラルーナへようこそ】
と書かれている。都市の説明書らしい。
パラパラとめくりながら、事の始まりを振り返る。
あれは、帝国から飛び立ってすぐの事だった。
上空は思ってた以上に空気が薄くて、さみぃな。
「おい、ミストラル! 寒さとかなんとかできねぇのか!?」
そんな事おかまいなく飛んでいる風竜にイラつく。乗せて貰ってる身分でなんだがな。こういう性分なのはなかなか治らない。
「人は軟弱じゃのぉ。これでよいかや?」
途端に呼吸が楽になり、寒さも収まった。
ミストラルが風の膜を張ったらしい。
「おぅ、すまんな。人はそんなに丈夫じゃねぇんだ」
「まあよい。ところで、お主は行きたい所とかあるのかの?」
「帝国人に見つからねぇとこなら何処でもいいぞ」
「それなら、わらわは海上都市に行ってみたいのぉ」
「海上都市ぃー? どこだそこは」
そんな都市、聞いた事ねぇぞ?
「この大陸より、南の海を遊泳してる都市らしいのじゃ」
「誰から聞いたんだ?」
「そりゃ、お主。わらわの同族に決まっておろう?」
ああ、こいつが居るなら、そりゃ、他の竜も存在するよなぁ。なぜ考えつかなかったのか。
大陸の大森林上空を抜けると、広大な水の世界が広がっていた。
こちとら、大陸を出たことなどない訳で。
当然こんな一面水の光景を見たのは初めてだ!
「こりゃあすごいなぁ! 世界はまだまだ知らない事だらけだぜ!」
気分も高揚する。
しばらく景色を堪能してると、透明な膜で覆われた都市が見えた。
「ミストラル、あそこか?」
「そうじゃな。あそこだろうの」
都市の門から見えない位置に着地し、ミストラルは、人の姿に変化する。
そうだ、こいつは絶世の美女だった。このまま門まで行くと騒ぎになるのが目に見えてんぞ。
「おい、なんか顔隠せるもんとかねぇのか?」
ミストラルは早く行きたそうにソワソワしながらこちらを見る。しっかし、人間離れしてるよなぁ……。
「なんじゃ、ジロジロと。うっとおしい」
竜族はみんなこんな感じなのか?
「これでよいかや?」
いい加減ジッと見られるのが嫌になったのか、ミストラルはお面を被った。なぜ、お面? それも絶妙に恐怖を与えてくる面だ。これはなんだ、認識阻害術か?
「これはのぅ。森人族から譲り受けた、鬼女の面よ! とくとみやれ? 恐ろしゅうて、顔を背けたくなるであろ?」
なにを得意げになってるのか。肩の力が抜けちまったぜ。
「そんな種族も居るんだなぁ。やっぱり世界は広いぜ」
「お主と同じ人族の一種じゃぞ? 気にならんのかや?」
ミストラルが下から覗き込んでくる。その面のまま顔近づけんな。微妙に恐ぇえ。
「他人に教わるより、俺自身の目で確認してぇ」
「お主はそういう性分なのじゃな。嫌いじゃないのぅ」
そうこうしながら門に近づく。
門の入口には、入都するための列ができていた。
門番の前に着いた時、ミストラルが騒ぎ初めた。
「そなた!何を隠し持っておる!!よもや、飛竜の卵ではなかろうな!?」
斜め前に居る商人の団体を睨みつけている。周囲の人々もざわついた。
「飛竜……? なにを言っているのだね? ごふじ……ん……」
お面姿の女を確認したせいか、商人の語尾が消えてなくなる。気持ちは分かるぜ。あんな恐い面を着けてる人間なんて、そうそういねぇもんなぁ。
「しらばっくれても無駄じゃ! 気配を感じるのじゃから! そんな物を持って来て、何を企んでおるのじゃ!? はよ、申せ!」
どっから出したその扇子! なんか重そうだな、鉄扇か? 武器は不味いだろ!
門番の目の前での騒ぎだ。すぐに止められた。
「ちょっと、ここで騒ぎは困ります。連行しますよ?」
「じゃが! そやつが」
止められても興奮は冷めないらしい。
「おい、落ち着け。こういうのは証拠が無いとどうにもなんねぇ」
「じゃが……」
やっと少し冷静になったのか、ミストラルはうなだれる。
「ご婦人がこう仰られておりますので、申し訳ございませんが、お荷物確認させていただきます」
門番も看過できなかったのか、検査を始めた。
「どうぞどうぞ。飛竜の卵なんて、そんな危険な物持ってる訳がありません」
様子を見るに、絹織物の商人だろうなぁ。
沢山の色鮮やかな織物が取り出される。
怪しいものは無さそうだ。
……ん?商人の首飾りが嫌に目を引く。あれは……。少女が祈りを捧げている像だなぁ。天神教徒か。まあ、俺には関係ねぇな。
結局、門番も無実だと判断したのか、商人は無事に入都して行った。
商人の次は俺たちの番だ。
探索者証を取り出す。ミストラルはどうするのだろうと見ていると、当たり前のように探索者証を出していた。お前、探索者協会に登録してんのかよ!
「ラルジャン殿と、ミストラル婦人ですね。海上都市ラルーナへようこそ。何泊のご予定でしょうか?」
門番は、俺たちの探索者証を見て一瞬静止した後、言葉を発した。
「考えてなかったなぁ。どうする?」
「わらわは、ラルーナで夜景をみたいのじゃ!それも満月の日の夜景をじゃぞ」
満月か、後何日後だ?とりあえず
「一ヶ月間泊まりてぇ」
「かしこまりました。一ヶ月間の入都ですね。お二人で大金貨十六枚です」
「はあ!?」
たけぇよ……。二ヶ月分の金が吹き飛んだぞ。
「これは、宿屋での食事代込みの宿泊費です。街の店舗でのお買い物では、別途お支払いいただきますので、ご了承ください」
食事代込みなら、妥当なの……か? いや! 普通の宿屋は一ヶ月泊まっても、二人で大金貨三枚もあれば事足りるぞ。
「都市内では、先程のような騒ぎは、起こされないようお願い申し上げます」
念を押されちまった。
案内人について行きながら、未だに文句を続けるミストラル。
「知らんのか? 飛竜は、卵を盗まれると、群れで地の果てまで追ってくるのじゃぞ?」
そりゃまぁ、あの魔物は家族愛が強いからなぁ。賢いしな。
「それは知ってるぜ。試した事があるからなぁ! あん時はやばかった。命の危機を感じたのは久々だったぞ」
「なにやってるのじゃ、お主は……」
呆れられちまったか?
繁華街の坂道を登り、しばらく行った先には立派な宿が建っていた。
そんなこんなで、今は宿屋の部屋にいる。
外観を見ただけで分かる高級さ加減。
三階建てぐらいか?
ぜってぇ、貴族とか泊まってるぞ。
ミストラルは、さっそく宿屋内の温泉に繰り出して行ったので、部屋には、俺一人だ。




