小さな依頼人の殺意 1
獣人の女の子の名前はルト。ここから離れた場所にある森の中で暮らしていた獣人だという。
普段はあまり人里にこないからあまり人間との交流がない種族だけど、人間が嫌いなわけじゃない。
野生の中で生きている人達だから、文明が進んでいる町なんかは苦手らしい。
そのルトが浮かない顔で、こんな錬金術師の店にやってきたと思ったらとんでもない依頼をしてきた。
「ルトに使える武器、作ってっ!」
「うーん、子どもでも扱えるならナイフでいいかなぁ?」
「ダメ! あいつ……すごいもの、持ってるから……」
「あいつって?」
小さい依頼人からとんでもない依頼がきたけど、ここで突っぱねるようなことはしない。
こんな小さい女の子が私の店にきて、そんな依頼をするなんてよほどの覚悟があってのことだ。
普通ならどんな人間だろうと、どんな依頼だろうとお金さえ払ってもらえるならすぐに引き受ける。
でもここまで小さい子のお客様は初めてだから、少し慎重に話を聞いてあげたかった。
「あいつ、ルトの仲間達殺した……。何もしてない、平和に暮らしているルト達を笑いながら……」
「まさか全員、殺されたの? 誰に?」
「今は逃げて……別のところにいる……。でもあいつ、まだ仲間を探してる……。あいつ、太っていて、気持ち悪い……ガムブルアって呼ばれてた……」
「ガムブルア?」
私にはピンとこなかったけどメアリンはわかったみたいだ。私にそっと耳打ちをしてきた。
「この町に別荘を持っている貴族だよ。王都ではそれなりに有名人で、宝石商として成り上がってからは王族にも気に入られてる男だって聞いた」
「へぇ、そんなのが獣人を殺したんだ。なんでまた……」
さすがメアリンはそういう情報にも詳しい。
メアリンによればいわゆる成金貴族というやつで、今はいくつもの宝石店や発掘元の鉱山を持っている。
でも、そのガムブルアが獣人を殺す理由がどうしてもわからない。
ルトちゃんが震えて涙目になるくらいだから、ウソとは思いたくないけど。
「あいつは、笑って殺した! 狩りとか、楽しいとか……!」
「狩り……」
「筒が光って仲間、バーンって! 死んで! あいつ、逃げた仲間を見て、惜しいって言った!」
「筒が光って?」
メアリンの情報が正しければ、ガムブルアに戦闘能力はなさそうだ。
要約するとガムブルアはハンティングとしてルトちゃんの仲間を殺した。ガムブルアでも扱える魔道具で、しかも強靭な獣人を殺したわけか。
筒が光ってバーンという魔道具が何か、すぐに思い当たった。
コストと倫理観、法の制限の面であまり普及はしていないけどその魔道具は魔道銃だ。
タイプは色々あるけど、魔力を帯びている魔石を組み込んでいて引き金を引けば遠距離攻撃が放たれる。
手軽に魔石に応じた属性攻撃が可能になる上に殺傷力が高い。
ただし製作難易度がかなり高い上に魔石が消耗品だから、普通の武器よりも消耗が激しいのが欠点だ。
ガムブルアは何等かの手段で魔道銃を手に入れて、ハンティングを楽しんだんだろうな。
何が楽しいのか私にはさっぱり理解できないけど、世の中にはガムブルアみたいな外道もいるということだ。
「アルチェちゃん。かわいそうだよ」
「うん、でも仕事は仕事だからね」
「まさか?」
「そりゃもう、まさかだよ」
私はルトちゃんと目線を合わせるようにしてしゃがんだ。
「その条件なら一千万ゼルいただきます」
「やっぱりーーーーーー!?」
叫んだのはメアリンだ。やっぱりも何も当たり前の金額だから何に驚くのかわからない。
ルトちゃんは私が何を言ってるのか理解できていなかった。
「いっせんまん?」
「そう、いっせんまん」
「そんなに、もってない……」
そう言ってルトちゃんが小さな手の平に乗せていたのはたったの九ゼルだった。
これは意地悪で言ってるんじゃなくて、正当な金額だ。
「私は人を殺す目的の武器だろうと依頼されたら喜んで作る。でもルトちゃんみたいな子どもでも扱えて、人を簡単に殺せる武器って難しいんだよ」
「じゃあ、難しくしなくていい……」
「そういうことじゃなくてね。単純に作るのが手間なの。武器や防具ってその人の体格や戦闘スタイルに合わせて作らないといけないからね。ルトちゃんみたいな子どもでも扱える武器となるとまず重かったり切れ味がいい鉱石は使えない。武器というのはもろ刃の剣だからね。だって筋力が低くて経験が乏しい子どもだよ? うっかりなんてことがあったらさぁ大変。そうなると必然的に使える素材が限られるし、場合によってはクラフト鉱石で補う必要があるの。でもこれを使っても子どもからすれば重い。だから妥当なのが魔石を組み込んだものになるんだけど、この魔石がなかなか希少価値があって高いんだよ」
「……うん」
わかってなさそう。私もつい喋り過ぎた。
メアリンなんかたったこれだけの早口で居眠りに突入しかけている。その様でよく錬金術を学びたいなんて言えたものだ。
「つまりそれだけ作るのが大変なの。九ゼルじゃ何も作れない」
「うー……」
「それに一千万ゼルは覚悟の金額の証でもあるんだよ。武器を持って命を奪う選択をするのは何も使い手だけじゃない」
「え? それ、どういうこと?」
ルトちゃんに目線を合わせたまま私は優しく話しかけた。
きょとんとするルトちゃんはまだ本当に子どもだ。こんな子どもに殺意を芽生えさせたガムブルアは本当に罪深い。
私だって人の心がないわけじゃないんだから、そのくらいの感想はある。
「武器を作る私も人を殺すつもりで作らなきゃいけないの。だってそうでしょ? 使っている人間の手だけが血に染まるなんてそんな都合のいい話はない。作った私も同罪なんだよ」
「そ、そう……か。ルト、わかってなかった……」
「そのガムブルアだって死んだら悲しむ人がいる。どうしようもない人間でも一つの命であることには変わりないからね」
「う、うっ……でも、ルト、どうしたら!」
ルトの頭を撫でて、私はその手から九ゼルを取った。
「これはルトちゃんの勉強代としてもらっておくよ。勉強会の参加記念に一つ、武器を作ってあげる」
「ほ、ホントか!」
「そう、記念品だからお金はいらないよ。それともう一つ、勉強してもらおうかな」
「もーひとつ?」
ルトもいつの間にか起きていたメアリンも何のことかという顔だ。
勉強というには少し刺激が強いけど、いい機会だから教えておきたい。私は製作に取りかかる前にある人達と連絡をとった。
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