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メアリンの素性

 私の店は基本的に暇だ。ギルドみたいにひっきりなしに依頼が舞い込んでくるわけじゃない。

 だからといってやることがないわけじゃない。例えば素材の整理と確保だ。

 今、買い出しに行ったメアリンちゃんが戻ってきた。買ってきてもらったのは大量のポーションだ。


「アルチェちゃん。こんなにたくさんのポーションをどうするの?」

「これを【分解】して素材にするんだよ」


 【分解】すればポーションの成分である魔法の水と癒し草の液体に分けられる。

 それらをビンに入れて確保しておけば、素材数を確保できるというわけだ。

 特に魔法の水はいくらあっても足りないくらいだから、やりすぎくらいがちょうどいい。

 ざっとポーション四十二個、一つずつ【分解】していった。


「アルチェちゃん、早いよねぇ。大手ギルドみたいに大量生産できちゃうんじゃ?」

「いくら私でも大手ギルドの生産力には勝てないよ。工場を持つギルドなんかは多くて一日に数千個のポーションを作るからね」

「ひえぇぇ! すーせんこ!?」

「そう。だからこっちは質で勝負するしかない」


 私がいたブラックリエイトはさすがに工場の設備はなかったけど、たくさんの錬金術師に大量生産させていた。

 明らかにオーバーワークだったけど、ギルド長はお構いなしだったな。あのギルドみたいに利益優先で回すといずれ崩壊する。

 すでに何人も辞めているし、見習い以外の錬金術師はギルド長とゲーリーを含めてたった四人だ。あのギルドは近いうちに潰れると思う。


「ねぇ、私も錬金術のお勉強できないかな?」

「メアリンが? できるけど大変だよ」

「せめてポーションくらい作れるようになったほうがいいかなーって……」

「メアリン、ポーションくらいっていうけどね。ポーションって大変なんだよ」


 私がキッと見据えるとメアリンが姿勢を正した。

 では少しポーション、というかアイテムとは何か解説してみよう。


「ポーションって一言で言うけど、私から言わせたらすべてが同じものなのがおかしいんだよ」

「でもポーションって回復アイテムでしょ? あとは魔力を回復したり……。違いなんてあるの?」

「例えばメアリンみたいな小柄な女の子と義賊団のジルドさんじゃ体格が違うでしょ。体格が違えば必要とされるエネルギーや体質も違うわけ。それなのに全員同じポーションを飲むっておかしいと思わない?」

「た、確かにぃ……」


 メアリンが萎縮したようにきゅっと足を閉じる。

 錬金術の本でこの辺に触れているものはほとんどない。アイテムを使うのは人間なんだから、人間ありきで作らないと意味がない。

 アイテム学、錬金術学。すべてをひっくるめても、ポーションのレシピや錬金術の方法は同じだ。

 これは師匠の私見だけど、長い年月をかけて老舗の超大手ギルドがそういう常識を作ったんだと思う。

 なぜかって、同じポーションじゃないと大量生産の手間がかかるからだ。

 大量生産しやすいように、世間が疑問を抱かないように少しずつ時間をかけて皆に浸透させていった。そう、結局は利権絡みだ。


「他にもあるよ。健康なんかもそうだね。特定の数値が一定以上だと危ないって言うでしょ? あれだって人が違えば、適正の数値というものがある。それなのになぜか数値の基準が全人類、全年齢で同じなんだよね。そうやって危機感を煽ることで、数値が改善する薬を売ってるんだよ」

「ううぅ、そんなこと考えもしなかったぁ」

「ポーションにしてもさ。回復アイテムということは体に作用するものなんだよ。皆、もっと自分が体に入れているものに敏感になってほしい」

「気をつけるぅ……」

「だから私はポーションってあまり作りたくないんだよね。店で売られているポーションなんて、人によっては過剰摂取になってる成分が含まれてるんだよ」


 メアリンが青ざめている。今まで飲んでいたポーションについて考えているのかな?

 工場産のポーションの場合、薄めてコストカットしているだけじゃなくて長持ちするように体によくない成分まで入っている。

 というのは内緒にしておこう。


「もうお店のポーション飲めないよぉ」

「メアリン用のポーションなら私が錬金で作ってあげるよ」

「ホント!?」

「お世話になってるからね」

「アルチェちゃん、大好き!」


 ぎゅっと抱き着かれた。痛い。かなり痛い。

 

「ちょ、ちょっと、苦しい……」

「あ、ごめん……」

「そういえばメアリンって冒険者パーティに拾われて育てられたんだよね? なんていうパーティ?」

「えーっとね、光の翼というパーティだよ」

「ひ、光の翼ってあの数年前まで世間を騒がせていた魔王を討伐した英雄パーティ!?」


 光の翼は私でも知っている。世界各国を渡り歩いて数々の危機を救った英雄と評されるに相応しい人達だ。

 国によっては光の翼に絶大な信頼を寄せていて、関係者というだけでも優遇される。

 光の翼のためなら最低でも数ヶ国が動くため、今や世界情勢を動かす一端を担っているとか聞いた。


「私、七歳の時に拾われてそのまま育てられた。修行は順調だったんけど、リーダーが私に『世間を見てこい』と言って送り出してくれて……。もちろん光の翼の名前を出すのは禁じられたよ。それで最初は実力さえ示せば認めてもらえると思ったけど、なかなか受け入れてくれるパーティがなかったなぁ」

「それで私と出会った時にあんなことになっていたんだね」

「ある日、囮にされて凶悪な魔物の攻撃で目が見えなくなっちゃった。あの時は恨んだけど、そのおかげでアルチェちゃんと一緒にいられるから今は感謝してるかな。えへへ……」

「その目はいずれ治してあげるよ」


 今は素材が足りないから無理だけど絶対に治せる。それまでは辛抱してほしい。

 こんなにいい子に仕事を手伝ってもらっているんだから、もっといい仕事をしなきゃ。


「あ、誰か来たみたい」

「ホントだ。いらっしゃ……い?」


 店に入ってきたのは小さな女の子だ。お客様には見えない。

 獣耳と尻尾を生やしているから獣人族かな?


「ぶ、武器、作ってくれ……」

「武器? あなたが使うの?」

「うん……」


 女の子が言い淀んでいる。武器製作の依頼ということなら立派なお客様だ。

 ちょっと驚いたけど歓迎しよう。こんな小さい子が武器ねぇ。


「どんな武器がいいの?」

「人を……」

「うん?」

「人間、殺せる武器くれっ!」


 女の子が大声でとてつもなく物騒なことを言い出した。尻尾の毛が逆立っていて本気みたいだ。

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