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裏社会の組織ブライン 4

「よう! そっちも片付いたみたいだな!」


 シェイさん率いる義賊団と合流した。あっちも無事、全滅させたみたいでロープで縛られた構成員が並んでいる。

 私はさっそく呪いの装備品を確認した。ちらりとティアリアさんを見ると、照れ臭そうにシェイさんと向き合っている。


「きょ、協力、感謝するわ」

「これで衛兵隊の肩の荷も下りるだろ。たまには長い休暇でもとったらどうだ? いつもピリピリしてるとシワが増えるからな」

「あ、あなたはそういうことを!」

「ヒヒヒッ!」


 シェイが意地悪そうに笑う。これで衛兵隊と義賊団の距離が縮まったなら雨降って地固まる、だ。

 一件落着と思いきや、二階から誰かが降りてくる。細身で目の下にクマができた異様な雰囲気の男だ。

 衛兵隊と義賊団をジロリと一瞥して、片手に持っているビンに口をつける。


「ぷはっ! あぁ、うめぇ。で、なに? もしかして全滅した?」

「お前がブラインのボスか?」

「一応ね」


 男が小馬鹿にするようにティアリアさんの質問に答えた。

 これだけの人数を前にして、かなり余裕があるように見える。その時、拘束されているブラインの一員が叫んだ。


「おい! あんたの言う通りにしたらこれだよ! どうしてくれるんだ!」

「それでも六年も甘い汁を吸えただろ?」

「呪いつきなら安く手に入ってバカに高く売れるから簡単に儲かるって言ってただろ! おい! 衛兵隊! 俺達はあの男に騙されたんだ!」

「よく言うよ。自分で裏社会に足を踏み入れておいてさ」


 裏社会、つまりこの人達はマフィアみたいなものか。

 あの男の発言が本当なら六年の間、呪いつきが色々なところにばらまかれたことになる。

 ルッキちゃんみたいな人がありがたがって買ってしまったのなら大変だ。

 それにしても、呪いつきを高値で売りさばくなんてうまいところに目をつけたなぁ。


「お前がブラインのボスなら逃がすわけにはいかない。おとなしくしろ」

「まぁ逃げらんないわな。いいぜ、おとなしくしよう」


 両手を上げて無抵抗をアピールした男にティアリアさんがゆっくりと近づく。

 その時、男が身に着けている鎧がかすかに動いた。


「ティアリアさん! 離れて!」


 ティアリアさんが寸前のところでバックステップしたと同時に、男の鎧の胸元から牙のようなものが放たれた。

 まるで獲物を待ち構えていた蟻地獄のように、その牙がワサワサと動く。生きている鎧とも形容できるそれは立派な呪いつきだ。


「な、なに!?」

「呪骸の鎧といってね。身に着けてしまうと脱げない上に、近づいた奴に攻撃するんだ。便利だろ?」

「化け物……!」

「そうだな。こいつのせいで散々な人生だった」


 男が自嘲気味に笑う。ティアリアさんを逃した鎧が未練がましく牙を動かしている。

 その異様な見た目に、誰もが驚きを隠せなかった。


「若い頃にうっかりこいつを着てしまってね。それ以来、誰も俺に近づけなくなっちまった。最初こそ絶望したがすぐにどうでもよくなったよ」

「どうでもいいわけないでしょう! あなたの胴体ごと斬って脱がせてあげるから安心してッ!」

「やめておいたほうがいいぜ。こいつは特に若い女が好物でね。俺が町でひっかけた女をうまそうに食ってたよ。おかげで今じゃどの町にも入れないんだ」

「良心の呵責がないの……?」


 確かに男はヘラヘラして楽しんでいるように見える。

 ティアリアさんはこういう人間が許せないのか、歯を食いしばって睨んでいた。

 その横でシェイさんが拳を鳴らして男に挑む気だ。


「じゃあ、アタシなんかも好物なのか?」

「あぁ、食われたいなら歓迎するよ。こいつが食事をすれば、俺に力がみなぎる。呪いつきも悪いことばかりじゃない。だから俺は広めたのさ。呪いつきの魅力をな」

「じゃあ、たっぷりと食らわせてやるよ! アタシの拳をな!」


 シェイさんが男に挑もうとした時、私が指でつついた。


「なんだよ、アルチェ!」

「あの呪骸の鎧がほしいから私に戦わせてください」

「バカなこと言ってんじゃねー! お前は戦闘なんてできないだろ!」

「錬金術師には錬金術師の戦い方があるんですよ」


 私が強引に男の前へ出ると、シェイさんが渋々引き下がる。

 やる気になったところ申し訳ないけどあんなレア物、滅多にお目にかかれない。

 男が意外そうだったけど、すぐに機嫌がよさそうな顔になった。


「錬金術師が戦闘達者だなんて知らなかったな」

「錬金術たるもの、時には自力で素材調達せよ。特に魅力的な素材があるなら、竜の巣穴にでも行きますよ」

「おとなしくそこの女に任せてりゃよかったのにな。じゃあ、これでもくらってみるかい?」


 男が片手から火の玉を放った。魔法を使うとは思わなかったけど遅い。

 錬金術師たるもの、いかなる攻撃にも対応せよ。火の玉をうまく回避しながら、私は男の側面へと回った。


「こりゃ驚いた! お前、本当に錬金術師か!」

「だからそうだって言ってるでしょ。どれだけ錬金術師のこと知らないの?」


 男が鞘から剣を抜いてから跳躍した。刃にバチバチと雷をまとわせている。

 また珍しい武器を取り出した? ダメだよ、アルチェ。興奮を押さえなさい。


「こいつは雷滅の剣! 雷の反動が痛いが威力はとんでもないんだよなぁ! そりゃッ!」


 男が剣を振ると、雷が扇状に放たれた。さすがにこれは回避できずに直撃してしまう。

 だけどバチバチと私を電撃が襲うけど、すぐに拡散して消える。


「は? 効いてない?」

「錬金術師たるもの、属性ダメージくらい無効化できて当然。自衛で色々と作ってるんですよ」

「無効化だって? そんなもの聞いたことない! そうか、それも呪いつきか!」

「失礼だね。私の自前だよ。黒虹の衣、これを作れないと師匠に一人前と認められなくて大変だったんだからね」

「わ、訳が、わからんなぁ……」


 それはこっちのセリフだ。錬金術師をなんだと思ってるの?

 そろそろ雷滅の剣と呪骸の鎧をいただこう。グッと足に力を入れた後、男の懐に入った。

 男は間合いに入ってきた私に対してニヤリと笑ったけど――。


「【分解】」

「えッ……!」


 男がマヌケな声を出した時には雷滅の剣がそれぞれ黄色の玉、鉱石に分離して床に落ちた。これが雷滅の剣の素材だ。

 呪骸の鎧からも黒い霧が噴き出して、凶悪な面構えの獣みたいなものが空中を漂っている。

 あれが呪骸の鎧の呪い【暴食】だ。呪いが剥がされた呪骸の鎧は何の変哲もない普通の鎧になっている。

 元はグラシオル鉱石が使われたどこにでもある鎧だ。


「【暴食】を水に【配合】」


 【暴食】をビンに入ってる水と配合することによって無力化できた。

 水が牙になっても刺さらないし、そもそもビンを壊せない。ガタガタとビンが揺れて抵抗しているけど、すぐに静かになった。

 これであらかた無力化できたし、男が呆然としている。


「お、俺の剣と鎧はどうなっちゃったの?」

「分解されてなくなったよ。衛兵隊の皆さん、捕まえてください」


 私が声をかけても、衛兵隊が動かなかった。いや、こういうのはティアリアさんの役目か。


「ティアリアさん?」

「ア、アルチェちゃん。あなた本当に錬金術師?」

「ティアリアさんまでそんなこと言います? 誰がどう見ても錬金術師じゃないですか」

「一瞬で武器や防具を素材に戻して無力化する錬金術師なんて聞いたことがないわ……」

「それより早く捕まえてください」


 ティアリアさんが納得いかない様子で男を拘束した。

 一番、納得いってないのはあの男かもしれない。拘束される際にも抵抗せず、何が起こったか理解できていない様子だった。

 皆、本当に錬金術師をなんだと思っているんだろう?

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