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裏社会の組織ブライン 3

 ブラインが根城にしている砦は大昔、隣国との戦争で使われていた最前線の拠点だ。

 それだけに規模が大きく、今は森深くに埋もれているせいで放置されている。

 魔物の住処になっていたことも考えると、後からきたブラインが乗っ取った可能性があった。

 衛兵隊は最低限の町の警備だけ残して、主力はすべてこちらだ。義賊団が総出で挑んで、それぞれ二手に分かれて攻める作戦だった。

 先制で義賊団が奇襲をしかけてかき乱した後で、後続の衛兵隊がなだれ込む。

 私はメアリンに護衛してもらいながら、ティアリアさんと一緒に行動していた。


「さっそく始まったわね」

「シェイさんの叫びがここまで聞こえるよ」


 獣の咆哮にも似た雄叫びが砦周辺に響いている。しかも時々笑い声が聞こえるから、ザ・戦闘狂って感じだ。

 奇襲が始まってから遅れて、私達も別方向から侵入した。

 こっちは作戦通り、守りが手薄で衛兵隊の突然の乱入に向こうは対応しきれていない。

 ティアリアさんがウインドソードを振ってまとめて数人ほど斬って道を開けた。


「衛兵隊よ! 組織ブライン、詐欺容疑でまとめて連行するわ!」

「衛兵隊だと! あっちの義賊団と手を組んだのか!」


 衛兵隊とブラウンが激突して、あっちはみるみるうちに数を減らしていく。

 戦力的に優勢に思えるけど、ついに怪しい装備を身に着けた人達がやってきた。

 一人は髑髏の装飾が施された指輪、もう一人は茨が巻き付いた兜、最後の一人が黒く光る禍々しい斧を両手で持っている。

 髑髏指輪の男がものすごい速さで跳躍してきた。


「ひゃっはぁぁーーー! こいつは快適だぜぇ!」

「速いわね……」

「姉ちゃん! 下らねぇ衛兵なんか辞めて俺と遊ぼうぜぇ!」

「お断りよ。下品で節操のない男は嫌いなの」


 もう一人、茨兜の男が頭から血を流しながら殴りかかってくる。

 衛兵隊の副隊長が応戦してなんとか斬りつけたけど、男は平気な顔をしていた。

 頭からたれてきた血をペロリと舐めて笑う。


「こいつ、不死身なのか!?」

「副隊長。あれは見ての通り茨によるダメージはありますが、それ以外の痛覚を感じなくさせます」

「デメリットが少ないじゃないか!」

「ずっと血を流し続けてればいつか死にますし、あくまで痛覚を忘れさせるだけですよ。ぶっちゃけると放っておいても死にます」

「あの男はバカなんじゃないのか?」


 まともな人がそう思うようなことを平然とやるのがこの手の人達だ。

 そして最後の一人、黒い斧を構えた大男がメアリンに振りかぶる。


「オオォォアアアァァァーーーー! ウガァァァァアーーーーー!」

「凶暴だなぁ」


 メアリンが大男の攻撃を回避したと同時に、床が爆発したかのように破裂した。

 大男の目が血走っていて焦点が合ってない。涎を垂らしながら、メアリンに近づいてくる。


「あれは魔人の斧、凄まじい威力を誇るけど理性を失うんだよ」

「あれじゃもう魔物だよ……。アルチェちゃん、あの斧、ほしいんだよね?」

「うん。お願い」


 私がお願いしたと同時にメアリンちゃんが大男の懐に潜り込む。

 それからは一瞬の早業で、大男が血を噴き出して倒れた。


「お疲れ様。じゃあ、まずは副隊長のほうを何とかするよ。こっちこっち!」

「うん。私は残りを片付けるね」


 副隊長がだいぶ苦戦気味で、数人がかりでも厳しそう。

 私が茨の兜の男を手を叩いて煽ると、ニヤつきながら走ってきた。きもい。

 男が剣を振り回してきたけど回避、隙を見て茨の兜に手を向けた。


「【抽出】」

「うっ……! アアァ! いでぇぇぇぇぇーーーーーー!」


 茨の兜から黒い塊がひゅっと出てきたと同時に、男がもだえ苦しみ始めた。

 茨の兜でシャットアウトしていた痛みが一気に襲ってきたから当然だ。

 茨の兜に込められていた呪いは【自戒】。罪を犯した男が自分の罪を償おうと、生涯にわたって身に着けたのがあの兜だ。

 自分は生きている限り、痛みを感じ続けなければいけないと考えて死ぬまで外さなかった。

 身に着けている間、痛みを感じないのは生前の男がそういう人間だったから。罪を犯すほど他人の痛みに鈍感だったからだ。

 だからこそ、罪人の男はあの茨をもって痛みを感じ続けた。

 茨の兜から呪いが【抽出】されたことで、あの男は痛みを感じるようになってしまった。


「拘束しろ!」

「いでぇよぉ!」

「黙れ!」

「ぐあぁ! ううぅ!」


 副隊長達が茨の兜男を拘束して、私はティアリアさんを見た。

 あっちはやたらと素早く、ティアリアさんも少し手を焼いている。


「ヒィヤハハハハハッ! 遅いおっそぉい!」

「面倒ね」


 ティアリアさんはひたすらウインドソードを振るっているけど、男は猿みたいに飛び跳ねていた。

 さすがにこっちも手を貸そうかと思ったけど、ウインドソードから放たれた風の刃が男をかする。

 その途端、男の表情が青ざめて絶叫した。


「ぎゃああぁぁぁーーーーーー!」


 男が転げまわって、かすかに斬られた箇所を押さえている。

 ティアリアさんの頭の上にはハテナマークだ。私が解説してあげましょうか。


「逃避の指輪、逃げ足や足の速さが上がるけど痛覚が二倍になるんです」

「そうなの? 両極端な呪いね」

「かすり傷でも気絶するほどの痛みを感じるようになりますからね。しかも【逃避】の呪いはたまに足が勝手に動いて逃げ出そうとするんです。あ、ほら」

「あら?」


 男が痛みで悶えているはずなのに、足だけが動き出した。

 男の意思を無視するようにして、男の身体が走り出す。


「いでぇあああぁやだああぁぁいでぇってぇーー!」

「捕まえて!」


 逃げる男が衛兵隊に取り押さえられた。押さえられたことで更に痛みで苦しんでいるのがなんとも哀れだ。

 残ったのは魔人の斧を持った大男だけど、こっちはすでに決着がついている。大男がメアリンの足元で倒れていた。


「お疲れ」

「あ! アルチェちゃん! 勝手に動いたらダメだよ!」

「いや、メアリンが張り切って戦ってたからさ」

「う、うーん。気をつける……」


 しゅんと小さくなるメアリンだけど、この程度の相手なら護衛の必要もなかったかな。

 奇襲は無事、成功したみたいだ。衛兵隊がブラインの構成員を拘束している。

 私は私で魔人の斧から呪いを【抽出】した。呪いは【野蛮】、持ち主は自分が住んでいる森に入ってきた人達を片っ端から斧で殺していた。

 そうするうちに目的を忘れて、ただ殺すことだけを求めてしまう。このままだと持ち運びに影響が出るから【変換】しよう。


「【変換】! 【野蛮】を【勇敢】に!」

「勇敢! アルチェちゃん、それってどうなるの?」

「持つと勇気が湧いて好戦的にはなるけど理性は保てるよ。ただし【野蛮】よりも破壊力を失うけどね」

「すっごぉい!」


 続いて【逃避】のほうは盗賊の呪いのせいで髑髏みたいになったから【抽出】した後は念のため、【加工】で形を変えておく。

 【逃避】と形状を変えた指輪を【配合】してポーチに収納した。こっちは装備品として身につけなければ安全だ。

 茨の兜は【加工】で棘をなくしてあげればひとまず大丈夫。暫定的にだけど優秀な素材が揃ってよかった。

 一連の流れを衛兵隊の人達が眺めて何かヒソヒソと話している。


「の、呪いってあんな簡単に丸め込めるものなのか?」

「俺が知ってる錬金術師じゃないな」

「いったい何者なんだ?」


 皆、素っ気ないな。こんなにもお宝が手に入ったというのに、そんなどうでもいい話ばかりして。

 このアイテムを前にして興奮しない錬金術師はいない。師匠なら涎を垂らしているところだよ。

 私はそんなに品がないことはしないけどね。うふふふふ。

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