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裏社会の組織ブライン 2

「ティアリア隊長、例の連中がすべて白状しました」


 詰め所で一息ついていると、部下が報告にやってくる。

 私、ティアリアはその報告を聞いた後で衛兵隊の会議を開くことにした。

 ルッキに呪いの面を売った人物、そしてアルチェの店を襲撃した犯人達は繋がっている。

 更に判明したのはそれなりの規模の組織がこの町の近くに存在していること。

 詰め所の会議室で衛兵長の私、副隊長、副隊長補佐、部隊長が集まっていた。


「ティアリア隊長、連中によれば組織のアジトは付近にある森の中です」

「かつて戦争で使われていた砦の廃墟ね。あんなところ、コウモリでもなければ住めないと思っていたわ」

「奴らが喋った情報が真実であれば、我々だけで対処できるかどうか怪しいところです」

「それに町の警備もおろそかにできないわ」


 組織【ブライン】の目的は呪いの武器や防具、道具の取引と市場への流出。

 呪いの道具は一見してわかりやすいものもあれば、そうでないものもある。

 武器にしろ何にしろ、呪いつきなんて普通は誰も欲しがらない。むしろ手放したがってる人が多い。

 そこでブラインは呪いの道具を安く買い取って、何も知らない人達に高額で売りつけていた。

 ルッキを騙して魔人の面を売りつけた商人も組織の一員で、今は拘束してある。

 ルッキみたいに善良な人達が騙されて呪いの被害が広がる前に、なんとしてでも止めなきゃいけない。

 とはいうものの、アジトがわかっていながら手をこまねいているのが現状だけど。


「私と副隊長、副隊長補佐、部隊長。討伐隊を結成したとしても、あちらの人数は八十人……。それも元二級の冒険者や元傭兵と、実力者が揃っている」

「それに地の利はあちらにあります。無策で勝てる相手ではない以上、どうしたらいいものか。それと気がかりなのは呪いの道具です」

「副隊長、どういうことかしら?」

「奴らが呪いの装備を転売するだけにとどめているとは限りません。もし戦いに使って来たらとなると……」


 呪いつきはデメリットさえ気にしなければ、極めて強力なものが多い。

 ルッキが買った魔人の面みたいなどうしようもないものはあるけど、もしなりふり構わず呪いつきの武器や防具を使われたら?

 元々失うものなんてない犯罪者集団、十分にあり得る話だ。対して私達には守らなきゃいけないものが多い。

 悪党討伐は世間が思っているほど楽なものじゃないということだ。


「……呪いつきの件でしたら、アルチェさんに同行を頼んでは?」

「アルチェちゃんに? 確かに呪いつきに関しては頼りになるけど彼女は錬金術師、さすがに危ないわ」

「実力でしたらあまり注目されてませんが、アルチェさんと一緒にいるあの女の子……メアリンでしたか。彼女、相当な実力者です」

「えぇ、所作からして普通じゃなかったわね」


 アルチェちゃんとメアリンちゃん。協力を得られたら頼もしいかもしれない。

 でもあの子達にはお店がある。治安維持は私達の仕事である以上、巻き込むわけには――


「ティアリア隊長、こんなことを提案するのも気が引けるのですが……。義賊団の連中の協力を得てはいかがですか?」

「……それは絶対に嫌。副隊長、本気で言ってるのかしら?」

「お気持ちはわかります。しかしメンツと治安、天秤にかけるとメンツなんてものは吹けば飛ぶ。私はそう思うのです」

「わかってる。わかってるわ。でも……」


 あのシェイの憎たらしい顔が目に浮かぶ。それみたことかとニカッと笑う。

 いつも私につっかかってきて本当に憎たらしい。大体、あの強さがありながらなんで義賊団なんてやってるの?

 その気になれば正規軍でもかなり上位にまでいけそうな実力者だ。腹立つことにね。


「ティアリア隊長。申し訳ないのですが、隊長がノーと言っても私のほうから彼女達に打診したいほどです。隊長ならおわかりになるはずです」

「副隊長、余計なことをしないで。隊長命令よ」

「ティアリア隊長ッ! ルッキのような被害者が出てもいいのですか! 命令違反になろうとも覚悟はできています! そして私がそれとなくアルチェさんやシェイさんに今回のことを伝えたらどうなるかわかりますか!」

「どうなるって言うの?」


 副隊長がここまで声を荒げるなんてビックリした。険しい表情でテーブルを叩いた後、会議室で棒立ちしている。


「あのシェイさんのことです。『ティアリアのやつ、アタシにびびって直接言えないもんだから部下をよこしやがったなー』と言うに決まってます」

「隊長命令よ。私がアルチェちゃん達や義賊団に協力を要請するわ」


 癪だけど決定せざるを得なかった。


                * * *


「わかりました。一千万ゼルいただきます」

「アルチェちゃん。ちょっと手心というものはないのかしら?」


 これでも十分、手心を加えている。何せ戦闘職じゃない私にとんでもない依頼をよこしてくるんだからね。

 死ぬ危険性だってあるんだし、断ってもいいくらいだ。とはいえ、今回の依頼は私にとっても願ったり叶ったりだった。だからもっと手心を加えたい。


「ではブラインから押収した呪いつきをすべていただきます。承諾していただけるなら、一千万ゼルはなしでいいですよ」

「いい! いいわ! あぁよかった!」

「そんなに安心しなくても」

「そりゃ安心するわよ! 一千万なんて払えるわけないでしょ!」


 ごもっともです。あわよくば払ってもらえたらな、なんて考えていたのは内緒だ。

 私にはメアリンという頼もしい護衛がいるし、呪いつきを収集できるなら悪い話じゃない。

 だけどもう一つ、頼みたい人達がいる。


「せっかくなのでシェイさん達にも依頼しましょう」

「そ、それは、まぁ」

「気持ちはわかりますけどね」

「わかってるわ、そのつもりよ」


 ティアリアさんが深呼吸をして気を落ち着けている。そんなに?

 そして店を出ようとしたところでちょうどシェイさんが入ってきた。

 なんかいつもタイミングがいいな、この人。片手に持っているのは暗黒焼きだから、また差し入れに持ってきてくれたのかな?


「お? 衛兵長様、どうしたんだ? さぼりか?」

「あなたと一緒にしないで」

「ティアリアさん、言えないなら私が言いますよ。シェイさん実は」

「あああぁーーーーーっ!」


 ティアリアさんが奇声を上げた。ちょっとした冗談のつもりだったのに必死すぎる。

 ちょっと面白いからからかおうとしただけだ。それが息を切らしてぜぇぜぇ言うほどなんだもの。


「じゃあ、ティアリアさんがちゃんと言ってくださいよ」

「シェイ、実はね」


 コホン、と咳払いをしてからティアリアさんがシェイさんにメンチを切る。それじゃいつもと同じでは?


「あ、あなたに、おね、がいっ、したい、ことがっ」

「あーん? なんだよ、言ってみろよ」

「え?」

「いや、頼みたいことがあるなら言えよ」


 これには私も意外だった。シェイさんはいつもの軽口を叩かず、ティアリアさんの言葉を待っている。


「ブ、ブラインという組織がいてね。その討伐作戦に、さ、参加してほしいのよォォーー!」

「いいぜ」

「いいぜって何よぉ! え、いいぜって?」

「あぁ、衛兵隊と組めば手っ取り早いだろ」


 ティアリアさんがポカンと口を開けている。私も開けている。メアリンは暗黒焼きを頬張っている。


「シェイさん、私が聞くのも変ですがいいんですか?」

「アルチェ、当たり前だろ? それにこのティアリアがアタシに頼み込むほどだ。覚悟がいるだろうし、よっぽどのことだよな。それを笑ったりしないさ」

「シェイさん……」

「そういうわけでティアリア、これからうちと合同で会議でもしようぜ」


 シェイさんがティアリアさんの肩に手をポンと置いた。

 ティアリアさんはまだ放心したような状態だけど、ぐっと拳を作る。


「えぇ、よろしくね」

「あぁ」


 シェイさんとティアリアさんが握手をした。なるほど、シェイさんだって何が大切かわかっているわけか。

 同時にティアリアさんのことをよく知っていて認めているからこそ、受け入れたのかもしれない。

 お互いの組織に、いいまとめ役がいて少しだけ羨ましいと思った。

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