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痛み

「殺す殺す殺す殺す殺す……っ!」


ラウルは、それ自体が詠唱であるかのように延々と口にした。その目も、狂気をはらみ、もはや意思疎通さえ可能とは思えないものとなっていた。自身がもう<憎悪そのもの>となっているとさえ言えるのかもしれない。


『ラウル……』


人間の場合でも、恨みや憎しみが強すぎると思考そのものが制限されてしまうことがある。極度の<視野狭窄>状態だ。人間の反応を再現するために高度なAIによるシミュレーションが行われているとはいえ、何もここまでと思わなくもない。


とは言え、これは本来の<ORE-TUEEE!>ではない。本来はここまでのことにはならない。不正コードに汚染されたサーバー内のAIによる異常な挙動ということなのだろう。


アリシアが繰り出した掌底を躱し、ラウルの中に<力>が漲るのが察せられ、彼女は身構えた。


瞬間、右脇腹の辺りで<爆発>が生じる。規模は小さいが、手榴弾程度の威力は確実にある。生身の人間が受ければ、たとえボディーアーマーを身に付けていてもその衝撃で一時的に行動不能になっても何もおかしくないレベルだ。<ORE-TUEEE!の主人公>としての耐久性に加え、身に付けている革の鎧に魔力を流しその効果が最大になるようにアリシアが対処したことで何とか耐えられただけだ。


憎悪に呑まれながらも、大きく派手な爆炎魔術を使ってはその隙を彼女に突かれることを悟り、見た目には地味でも決まれば確実にダメージを与えられる魔術の使い方をしてきたのだろう。


この辺りが、ラウルの<戦術師>としての非凡さを物語っているのかもしれない。感情に振り回されながらも、いや、むしろ感情に振り回されているからこそ的確に相手の破壊を狙ってきているという。


続けて、アリシアは首筋に気配を感じ、体を捻って間合いを取る。すると、彼女の髪の一部が切り取られ宙に待った。


裂空系の魔術だ。反応が遅れていれば首が切り裂かれていたに違いない。


絵的な派手さはないものの、傍で見ていて興奮を覚えるようなものではないかもしれないものの、それだけに逆に恐ろしさがある。


そしてさらに、彼女が身を捻ったところに、目に見えない魔術の針が放たれる。それも察知できていたとは言え、魔力を込めた革鎧で受け止めるのが精一杯だった。


しかも、威力が高く、針先が鎧を貫通、彼女の腕に突き刺さる。


「くっ!?」


強い<衝撃>に、彼女は思わず声を上げた。


『これが、<痛み>……っ!?』


あくまでVRアトラクションなので本来なら竹串で皮膚を軽く突かれる程度の感触しかないはずにも拘らず、明らかに人間であれば体が竦んでしまうレベルのそれに、アリシアは驚きを隠せなかったのだった。



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