よろしく頼むよ
「さて、いよいよ問題のイベントだが、正直、我々にも何が起こるのかはまったく分からない。これまで報告されているのは、あくまでアトラクションの挙動が不安定になり、ラグが生じたりテクスチャがバグったりという程度のものだった。
これまでに三度の通常メンテ、そして先日の大規模メンテを行ったものの、不具合は解消されなかった。しかも今回は、不正コードによるハッキングまで発生した。
実のところ、ここまでデータの解析を行ってきたものの、ほとんど何も分かっていない状況だ。何者かによって不正コードが仕込まれたことについてはほぼ間違いないと予測できるにせよ、しかし同時に、その意図がまったく掴めない。
アトラクションを破壊したいのだとすれば他の部分には影響が出ていないことの説明がつかないし、<ORE-TUEEE!>を踏み台にして何らかの攻撃を目論んでいるのだとしても、実際のクラッキングがお粗末すぎる。不正コード自体が、多少の知識があれば中学生でも作れそうな、これまで発見されているウイルスに若干の手を加えたものでしかなく、これでは我々のファイアウォールは破れない。
かと思えば、アクセス用のデバイスをハッキングしクラッキングデバイスにするという、やや高度な挙動も見られた。
何と言うか、非常にちぐはぐなんだ。なので考えられる一番高い可能性が、
<多少のハッキングやクラッキングの知識と技術を得た未成年による愉快犯>
というものだな。もし本当にそうだとしたら、我が社としては損害賠償請求を行い、きっちりとお灸をすえてやらなければならない。そのためにも詳細なデータを集めた上で事態を収拾しなければというのが我々の考えだ。
よろしく頼むよ、アリシアくん」
あのイベントに進むにあたって、宿角は改めてアリシアにそう告げた。人間の職員を鼓舞するようなそれに、アリシアも僅かに笑顔になる。自分を<JAPAN-2社職員>として認めてくれているのを感じて。
本音では苦手なタイプではあるものの、いい人でもあるのだ。それは疑う余地もない。
だからアリシアも、
「はい。部署は違っても、私も同じJAPAN-2社に籍を置く者として、今回のことは看過できません。この体(アリシア2234-HHC)はもうすでに不正アクセスを受けてしまったので、逆に遠慮なく望むことができます」
毅然とした様子で応えた。
この先のイベントについては、新たに設置されたサーバーで行われることになる。本来であればさらにそのサーバーに次々とイベント用のプログラムを入力するはずだったのだが、トラブルを受けて延期されていたのだ。これによって見込まれる損害額はすでに数十万火星$にのぼっている。
<子供の悪戯>
では済まない事態になっているのであった。




