センサー
メイトギアであるアリシアシリーズのセンサー類は、人間に準拠して設けられている。視覚、聴覚、嗅覚はもちろん、味覚と触覚もだ。
味覚は再現された舌に備えられているし、触覚についても全身にセンサーが配置されていた。
ただ、その数そのものは人間のそれに比べて比較にならないほど少ない。これはあくまで人間と触れ合った時に必要なものであって、人間のように自身の身を守るために、自身の体に異常があった時に即感知できるように、という意味では必要ないからというのもある。
何しろロボットなので、故障しても修理すれば済むからだ。腕が破損すれば腕を、脚が破損すれば脚を交換すれば済むため、人間ほど異常に備える必要もない。
が、同時に、人間の状態を理解するためには人間のそれに近い感覚も必要なので、人間用のデバイスから情報を得ることはできる。
だからそれを身に付けているということだ。
そうして準備が終わり、カプセルに横になる。
「それではリンクを行います。リラックス…って、違いますね」
担当の女性職員がつい人間の利用者に掛けるはずの声を掛けてしまい、慌てて訂正する。メイトギア相手にリラックスもなにもないからだ。
アリシアの体に装着されたデバイスは、脈拍や血圧、呼吸等のバイタルサインを採取している。だが、ロボットであるアリシアにそんなものがあるはずがなく、ダミーのデータが流されているだけでしかない。
非常にリラックスした状態のデータが。
アリシアもつい笑みを浮かべてしまいそうになりつつもそれを抑え、
「お願いします」
淡々と応えただけだった。
装着されたゴーグルに起動を示す表示がなされ、
『アトラクションを始めますか?』
のダイアログが。
「はい、ニューデータで始めます」
アリシアが応えると、一気に視界が開ける。
そこは、いかにも牧歌的でのどかな光景だった。彼女は舗装されていない道の真ん中に立ち、周囲には背の低い草が生い茂った草原。ちらほらと牛や山羊の姿も見える。
と、彼女の脇にダイアログがポップアップ。
『チュートリアルが必要ですか?』
の問い掛け。けれどアリシアはすでに基本的な情報は得ているので、
「いいえ」
と返すと、
「それでは、未知の世界の冒険譚をお楽しみください」
のアナウンスと共にVRアトラクション<ORE-TUEEE!>が始まった。
直後、再びダイアログが。外部からのボイスチャットだった。
「アリシアくん。こちらから見る限りでは問題なさそうだけど、そちらはどうかな?」
宿角の声。
「はい。問題ありません」
アリシアは冷静に応えたのだった。