交渉の余地なし
アリシアは、自分達をつけてくる者達の足捌きや体重移動の様子を詳細に探っていた。それにより、明らかに十分な鍛錬も積んでいない、精々、<ケンカ自慢のチンピラ>であることを見抜き、
『袋小路に誘い込めば』
と提案してきた。
ナニーニに実戦経験を積ませる意味でも手頃な相手だと判断したというのもある。
この程度の相手なら、稽古通りにできれば今のナニーニでも十分なはずだし、万が一、彼女が稽古の成果を発揮できなくて危機に陥ったとしてもフォローも容易い。
しかも、これ自体が、元々、ナニーニの現在の<レベル>を確認するためのイベントなので、実は回避できないのである。
それを承知した上で、アリシアはより確実に対処するために情報を精査していたということだ。
そうして袋小路となった路地に入る。
実におあつらえ向きの人目につかなそうな場所だった。
すると、マントを被った男達が道を塞ぐように立ちはだかる。
目深に被ったマントのフードの奥で、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてるのが見えた。
けれどアリシアは、そんな男達に声を掛ける。
「私は無用な争いは好みません。このまま立ち去ってあなた方の雇い主に、『邪魔をしないのなら穏便に済ませます』とお伝えください。それがお互いのためというものです」
しかし彼女の<提案>に、男達は呆れたように顔を見合わせて、返事もすることなく剣を抜いた。
『問答無用』ということなのだろう。<ジュゼ=ファート>に関わりのある相手については容赦なく『闇から闇に』という強い意志が見て取れた。
なにしろ、街で散々、<ジュゼ=ファート>について訊いて回り、伯爵の耳に入るように動き回ったのだ。それ自体が<フラグ>を立てるための準備だった。
「……交渉の余地なしですか。仕方ありませんね。お相手して差し上げて下さい。ナニーニ。こちらとしても訊きたいことがありますから、可能であれば生かしたままで。ですが、それが無理な場合は、仕方ありません。あなたの命が優先です。分かりましたね?」
アリシアの言葉に、
「は、はい……っ!」
ナニーニがやや強張った表情で剣を構えながら応えた。
その様子に、男達はますます呆れたような笑みを浮かべる。マントのフードさえ外さない。完全に舐めてかかっているのだ。
相手は、革鎧もまだ十分に体に馴染んでいないような小娘。しかも男達は二人。普通ならナニーニに勝ち目はない。一人が剣を受け止めている間にもう一人が切りかかればそれで終わるのだから。
けれどアリシアは、険しい顔で男達を睨み付けているコデットを自身の後ろに控えさせたまま、穏やかに微笑んでいたのだった。




