私があなたを飼います
「怪我はありませんか? どこか痛いところはありませんか?」
盗賊の少女を抱きかかえたまま、アリシアはあくまで穏やかに問い掛けた。
「……」
少女は自分に何が起こったのかよく分からないまま呆然としている。
が、たっぷり五秒ほど間をおいてから、
「な…! くそ! 放せよ!!」
と声を上げ、手足をばたつかせた。
その程度ではアリシアは気にもしないものの、落ちると危ないので、そっと少女を下ろす。
「逃げても無駄ですよ」
と釘を刺しつつ。
「ぐ…」
少女は険しい顔をしつつも、大人しくその場に立ち尽くした。逃げても無駄なのは分かってしまったからだ。
顔を背け、唇を尖らし、ふてぶてしい顔をしながら。
それは、まったく諦めた者の表情ではなかった。次の機会を窺おうとしているだけなのが分かる。
無理もない。盗賊は捕えられれば基本的に子供でも絞首刑なのだから。
同じ死ぬなら一か八かに賭けようというものだろう。
少女を伴い馬車に戻ると、ナニーニと御者の男性が盗賊達を縄で拘束しているところだった。
携帯電話などはないので、役人を呼ぶにもまずは村まで行かなければならず、その間に逃げられてしまわないようにということだ。
こうして捕えられれば、大した調べもされずに問答無用で絞首刑となる。
あくまでアトラクションでありフィクションであるにも拘わらず、アリシアは悲しそうな表情になった。
地球における中世から近世のヨーロッパを意識した世界観であるため、大まかとはいえ当時の社会体制を再現しており、脆弱な社会基盤であることを考えれば明らかな反社会的な性質を持つ人間の矯正に割けるリソースが不足しているのは事実であろうから止むを得ないとはいえ、人間の幸せをただ願うアリシアにとっては悲しいことであるのは間違いない。
ただ、この<ORE-TUEEE!>内においては、子供のうちは更生の機会が与えられていることになっていた。
しっかりした身元引受人がいて、更生を約束すれば、刑の執行が猶予されるのだ。
<主人公>は、身元がはっきりしているので<身元引受人>としての資格があった。だから、少女に言った。
「私は、あなたの身元引受人になろうと思います。なので、ボーマの街でそのための手続きをします。いいですね?」
「!?」
思いがけない申し出に、少女は唖然となった。でも次の瞬間には、
「……あたしを飼おうっての…?」
とても子供とは思えない、相手の裏を読もうとする疑いの目。それだけでも少女の境遇が偲ばれる。
そんな彼女に、アリシアはただ穏やかだった。穏やかだけれど、
「そうですね。私があなたを飼います。温かい食事と安全な寝床を提供します。その代わり、私のために働いてください」
きっぱりと言い放ったのだった。




