粘り勝ち
「おごおおぁっぁああぁぁぁ……っ!!」
もう、人間の姿には見えなくなったラウルの口から漏れるのは、人間とも獣ともつかない<何か>の呻き声だった。
それでいて、アリシアに対する強い憎悪だけは伝わってくる。
いや、アリシアだけでなく、自分を苦しめる全てのものを憎んでいるのかもしれない。
と、歪にねじくれたラウルの<顔>が、一瞬、別のものに見えた。と言うか、<別人>に見えたのだ。
もっとも、それ自体がやはりねじくれていてまともな形はしていなかったが。それでも、アリシアの記憶に、一瞬、合致するものがあった。
『ジョン・牧紫栗……っ!?』
本当に一瞬のことだったから、断定はできない。できないけれど、そう見えてしまったというのも事実だった。
ただ、そう考えると、辻褄は合ってしまう。
『JAPAN-2社内部の者の犯行の可能性』
『仕掛けるだけは仕掛けたものの、その後、何もしてこない』
『決して手馴れた者の手口とは思えない、稚拙で場当たり的な不正コードの使い方』
それら全てが、ジョン・牧紫栗の仕業であったなら説明が付いてしまう。
彼がかつて所属していた部署では、<ORE-TUEEE!>に使われていたサーバーの部品の一部も取り扱っていた。
ただしこれはあくまで、<状況証拠>でしかない。現時点では何一つ<物証>はない。
今回、アリシアが見た<映像>とその際の<思考>についても、後ほど、資料としてまとめられることになる。
それを基に、今後、調査が、さらにその先には捜査が行われることになるだろう。
その中で、ジョン・牧紫栗が実際に関わっていたのかどうかが分かってくるかもしれない。
けれど今は、目の前の<脅威>に対処しなければならない。
すると、あまりの<強敵>を相手にしていたことでアリシア自身の<経験値>も途轍もない勢いで貯えられ、レベルも一気に上がっていた。
なにしろ、<ラスボス>と比べても大きくは劣らない、この時点で相手にするようなレベルじゃないのと戦っていたのだから、当然と言えば当然だろうか。
一般的なプレイヤーなら、早々にゲームオーバーになっていただろう。
ここまで有効な打撃は与えられなかったものの、自分も倒されなかったアリシアの、
<粘り勝ち>
だったと思われる。
そして、ジョッシュの<空間断裂魔術>をすぐ傍で見ていたことでそれを<ラーニング>。
通常プレイではまず到達できないレベルにまで達した際に、ファリ=ファールから習得できるはずの<極大魔術>を獲得することができてしまった。
そうなればもう容赦はしない。元より、<本来は存在しない怪物>と化したラウルが、周囲の建物などと融合し始めたのだ。もはや、一刻の猶予もない。
ゆえに、
「冥府の断罪!!!」
対象を周囲の空間ごと切り取り破砕する、防御不可能な魔術を、放ってみせたのだった。




