闇に浮かぶは
…また、あの香りだ。
暗い中、上半身だけカタツムリのように布団から出して時計代わりの携帯をごそごそ探しながら、鼻腔をくすぐる香りに気が付いた。気のせいか、昼間よりも強く感じる。
「携帯…鞄の中か?」
鞄を部屋の隅に置いた事を思い出し、嫌々ながら布団から出るべく起き上がった
「え?」
起き上がる最中、視界の端に違和感を感じた。部屋の暗闇とは違う、何か。
部屋の一番奥の、床の間に当たる位置を見つめる。確か、恵比寿と大黒の置物があったはず。月明かりが反射したのか?
…違う。
だんだん慣れてきた目は、置物よりも明らかに大きく浮かび上がる
「それ」をとらえていた。
床の間の中央。
「それ」は、少し宙に浮いた状態で留まっていた。大人が両手を広げた位はあるだろうか。まるで、水晶の彫刻のように輪郭が浮き出て見える。鱗で覆われた、蛇よりも大きな…
「…龍?」
不思議と恐怖感は無かったが、夢なのか現なのか区別がつかない状態にただただ戸惑う。
呆然と眺めていたが、
「それ」と目が合った瞬間、視線を動かせなくなった。そして。
「ぶ、うわっっ!!?」
家の、閉め切った部屋の中で、突然息苦しい程の突風に襲われた。思わず瞼を固く閉じ、身体を丸めるようにしてみたが、あっという間に宙に巻き上げられていく。
一体、何処へ?
頼むから、夢であって欲しい…空間の渦に吸い込まれながら、そんな事をグルグル考えていた。