002
ナオキが 自室で休んでいる同じ頃
王城の一室に3人の男が集まっていた。
一人はその部屋の主であり この城の主でもある タラクシャ王
ここは、王の執務室だ。
王は椅子に座り 大きく豪華な机をはさんで 二人の男が立っている。
そのうちの一人 国務大臣のヨーヒムが 声を発した。
「陛下 いかがいたしましょう?」
彼は、常に公平かつ効率的に物事を運ぶ。その仕事ぶりは 徹底されており
万人の信頼を得ている。また、徹底されているが故 万人から好意を得ることができない。
彼は、有能であり愚か者ではない。だから、うまく立ち振る舞うことも
できるはずだが、そうしない。決して自分の信念を曲げないのだ。
だからこそ、タラクシャ王も彼に全幅の信頼を置き 自分の右腕だと思っている。
とは言え 彼の融通の利かなさに 王も辟易することもあるが
それを差し引いても 彼は有能なのだ。
「褒美を断られるとは 意外であったが まあ 問題はなかろう。マリアと結婚してくれればより 安心できたのだがな」
「ダリーンの大使からは 勇者の帰属する国は 勇者自身が選ぶべきだと
言ってきておりますが」
ダリーンは大陸の東側に位置する 大国だ。国力は タラクシャとほぼ互角なので
その意見は タラクシャとしても 無視しきれない。
しかし 王は声を荒げ
「何を申すか!勇者を召還したのは我が国だ。それに 召還するに当たって 我らが
どれだけの犠牲を払ったと思う。
それにだ、勇者は帰還を希望しており その方法を探すと言っておるのだ。召還の魔方陣は 我が国にしかない。必然的に 勇者は我が国から 離れることはできまい。
ダリーンには 言いたいことだけ 言わせておけばよいのじゃ」
そして もう一人の男が口を開く。
端整な顔立ちを持ち 引き締まった体をしている彼はこの国の騎士団 団長マキシムだ。
彼は 国内でも有力な貴族の一門であり 剣技 魔法とも国軍随一の腕前なので
若くして 栄光ある騎士団 団長を地位にあった。
「陛下、魔王討伐がなった今 勇者殿はかえって 世界に争いをもたらそうとしております。世界の安定のためにも 勇者殿には 勇者らしく世界のため ご退場いただいても
よろしいのかと」
「マキシム お前は 予に恥知らずになれと申すのか?無断でこの世界へ引き込み
用済みになれば殺せと?そもそも 魔王を倒した勇者は 魔王より強いのだぞ。
お前に 勇者を殺すことができるのか?」
「私に 魔王を殺すことはできません。しかし 勇者殿は魔王ではありません。
人の子であれば付け入る隙はいくらでもありましょう」
二人の会話を聞いていたヨーヒムが口を挟んできた。
「陛下 マキシム殿の言にも一理あると思うのですが?」
王は 少々 驚きながら答えた。
「予は一国の主だ。国のため 時に非情な選択をしなければならないことは わかっておる。しかし、今はまだ その時ではなかろう?わかっておるから それ以上申すな。
しかし、ヨーヒム お前がそのようなことを口にするとは 意外だな」
「私は 勇者殿が 自力で召還の秘密を知ったときのことを危惧しているのです。
秘密を知れば それは王家の存亡にもかかわります」
「うむ、そうだな。いや、むしろ勇者に秘密を打ち明けてみてはどうか?
勇者の人となりを考えれば 帰還を諦めるやも知れんぞ?」
「それは、危険な賭けでございます。確かに あの勇者殿であれば 帰還を諦めるかもしれませんが その後 勇者殿が 我が国に帰属する保障もございません」
「そうだな。予も少々 浅はかだったな。ヨーヒムよ 勇者に関しては当面
監視を強化するということでどうだ?」
「それが、よろしいかと」
「監視に関しては ヨーヒムに一任する。しかし やりすぎて 勇者に不快感を与えるなよ」
「承知しております」
「マキシム お前も 勇者への干渉は 控えるように よいな」
「御意」
二人は 王の執務室を出た。通路を歩きながら マキシムは ヨーヒムに尋ねた。
「ヨーヒム殿 召喚の秘密とはいったい何なのですか?」
ヨーヒムは 鋭い視線でマキシムを睨む。
「ことは、国家の存亡に関わること このような場所で 王の許可もなくあなたに教えることが できるとお思いですか?」
「いや、失礼。確かに 仰るとおり。今のは 忘れてくれると ありがたい」
しばらく歩くと マキシムは
「訓練所に顔を出しますので 私はここで」
と言い ヨーヒムに一礼をし 別れた。
訓練所に向かいながら 考える
『召喚の秘密とは いったい何なのだ?何故 陛下は 私には教えてくれぬのだ。
陛下も陛下だ。勇者ごとき まるで腫れ物を扱うように・・・。
しかし 忌々しい勇者め。なんとかして 召喚の秘密を握り 上手くすれば 勇者も元の世界へ 叩き返してやるものを
王家の者だけが知る秘密か。待てよ、あの方なら・・・・
フフフフッ
待っていろ 勇者め』
マキシムは 歪んだ笑みを浮かべながら 通路の奥へと消えていった。