017
レジアノとマキシムの秘密の会談があった 三日後。
王城の謁見の間には 大貴族や役人達 そして勇者が 両側の壁を背に
ずらりと並び立ち 上座の数段高いところにある玉座には タラクシャ王が
座っている。皆の視線の先には 王の前に跪く ペレス卿が居た。
王は 威厳のある声で ペレス卿に向かって声を発する。
「ペレス卿よ 今日は何故 このような場に居るか 理解しておるな?」
「はっ」
ペレス卿は 俯いたまま 短く答える。
「では 侍女強姦未遂の件 何か 申し開きはあるか?」
今度は 顔を上げ 王を見据え 答えた。
「このたびの一件 実は勇者殿の勘違いにございます。勇者殿は 侍女たちは
大貴族に見初められるために 王城に勤めていると言う事情をご存知ない様で
今回も 例の侍女のほうから 私を誘ってきたのですが 土壇場で 臆したのか
抵抗してきたところを 勇者殿に見られたと言う 訳なのでございます」
「ふむ。では 合意のものであって 強姦ではない。勇者殿の勘違いだと申すのだな?」
「はい」
悪びれもせず 言い切る。
「お前の言い分は わかった。この件については 一旦置くとする。
ところで ユウヤ商会店主 ユウヤを知っておるか?」
ペレスは 一瞬 怪訝そうな顔をするが 冷静に答えた。
「はい。数度 挨拶を受けたことがある と言う程度には知っておりますが?」
「個人的に深いつながりは ないのか?」
「ははは、陛下 ご冗談を。例え ユウヤ商会が国内最大の商家といえども所詮は平民。
私のような大貴族の当主と友誼があるはずもございません」
この場で ここまで嘘を言い切れるのは さすがは ペレス家を現在の地位まで
押し上げた者の胆力と言うほかないだろう。
「そうか、では 最後に問うが」
「なんなりと」
「お前の私邸の地下にある隠し部屋の中に居た、赤い瞳に 燃えるような赤毛を持った美しい少女、名は レノと言ったかな?この少女のことも 知らぬと申すのか?
ユウヤ商会に 憲兵隊の情報を流したり 国の物資を横流ししたいてことも知らぬと申すのか?」
「・・・・ッ」
先ほどまでの 余裕は一瞬で消え 一気に噴出した脂汗は 足元の絨毯の色を変えるほど
であり それほどの汗をかいているのに 顔色は蒼白となっていた。
「ペレスよ!見苦しいぞ!調べは全てついている」
そう言いながら 王は手元の台に置かれていた 分厚い資料をペレスの足元へ投げつける。
「・・・・・」
ペレス卿は もう 声を出すこともできないでいる。
「沙汰を申し渡す。ペレス お前は死刑だ。ペレス家の領地財産は全て王家が没収する。
ペレスの一門 縁者については その爵位 地位 役職 財産 領地を全てを凍結とし
精査の上 改めて沙汰を伝える」
王は 少し間を置き
「本日 この時をもって ペレス家は断絶とする」
「へ、陛下 どうか、どうか御慈悲を」
王に縋り付こうとしたペレスを 護衛の兵が取り押さえる。
「牢へ掘り込んでおけ!」
王は立ち上がり 兵に対し 言い放った。そして 集まった臣下達を見渡し 続ける。
「皆の者 お前達に 高い地位 職権を与えたのは 予の定めた法を 下々の者までに
守らすためであって 自身がそれを守らなくても良いと言う特権を与えたわけではない。
以後、どのような立場のものであっても 私利私欲のため 法を犯したものは厳罰に処す。
予に 二言はない。心せよ!」
「はっ」
集まった者たちは 一様に頭を下げ 答える。
「では、解散せよ」
集まった臣下達は ぞろぞろ 謁見の間から出て行く。俺も倣って 部屋を
出ようとしたが 王に呼び止められた。
「勇者殿は少し 残ってくれ」
俺は 王の下まで戻る。
「何かございましたか?」
「勇者殿には また 国を救っていただいた。感謝する」
「私は 何もしておりませんが?」
「今回の件 勇者殿が 憲兵隊を動かしたと聞いておる」
「いえ、私はただ、知人の主が捕まって 憲兵隊に協力をお願いしただけなのです。
・・・・私は 立場を利用したことになるのでしょ・・・申し訳ございません」
「勇者殿は 立場を利用したのであって 悪用したわけではなかろう。問題ない。
国も大きくなると膿が溜まりやすくなる。放っておけば 国全体が腐ってゆく。
今回の件 まことに 感謝する」
「私が きっかけを作ったのかもしれませんが 本当にそれだけで 何もしていないのです。その言葉 憲兵隊の皆さんにこそ 掛けてあげてください」
「勇者殿は まことに謙虚なのだな。皆も 勇者殿のように 自身の行いを 正しく
評価できれば 良いのだが・・・。
ところで もう1人 勇者殿に礼をしたいと申すものがおってな 会ってやってくれ」
王は 侍女に目配せをすると 侍女は部屋を出て すぐに マリアと知らない女性を
連れてきた。
その女性は 小麦色に焼けた肌 緑色の瞳 少しウェーブし 茶色がかった長い髪を纏め
とても美しい人だった。
彼女は 俺の前まで来ると ドレスの裾を摘み 優雅に礼をする。
俺がそんな彼女に 見とれていると マリアさんの 刺すような視線に気づき 慌て
「あの?」
「私 ワーレンという国で 王女をしておりました アンナと申します。
勇者様には 危ないところを助けていただき ありがとうございました」
美女に見とれていたことと マリアのプレッシャーで 気づかなかったが
部屋には カインズを筆頭に 近衛兵団の皆さんも居た。
「私は カインズさんに 憲兵隊を紹介しただけで 特に何もしていませんよ」
「勇者様とマリア様には 多大なご迷惑を掛けたのにもかかわらず ご助力いただけたと聞いております」
チラリとカインズに視線を送ると 彼は小さく頷く。アンナ姫には全てを語ったのだろう。
「まあ 無事で何よりでした」
曖昧な返答ではあったが 姫はその意を汲んでくれたのであろう 話題を変えてくれた。
「陛下 このような場を設けていただき ありがとうございます」
「いや こちらこそ 国内のゴタゴタで あなたとの会談が 先延ばしになってしまい
申し訳ない。ところで アンナ姫 これからどうなさる?国元へ戻り 王家を再興なさるか?そうであれば できる限りの援助は惜しまないつもりだが」
「いえ、そのつもりはございません」
姫は そう断言して 更に続けた。
「父が よく申しておりました。王がなくとも 国は建つが 民なくして 国は成り立たないと。ですが 私はその民も 王族としての義務も捨て 一人 逃げ出したのです。
今更 私が国に戻ったところで 民は私を王と認めはしないでしょう」
少し悲しいそうな目をするアンナ姫を見て カインズは我慢できずに声を上げた。
「陛下 発言することをお許しください」
「ああ、構わん」
「ありがとうございます。我が王が 姫をお逃がしになったのは 王家の血筋を守るためと 私は考えますが」
「カインズ それは ありません。もし 王家の血筋を守るためであれば 私ではなく
兄を逃がしたでしょう。兄と違い私は 政治や戦について 学んでおりませんから。
浅学非才な上 戦でも先頭に立てない私に 誰も付いては着ませんよ。
それどころか 王となっても いいように使われ 国を混乱させ 滅ぼすことになるでしょう。
父は 娘 可愛さで逃がし 私はそれに甘えただけなのです」
「・・・ですが」
カインズは言葉を見つけることができずにいると 見かねた王はカインズに代わる。
「では あなたは これからどうするつもりか?」
「陛下の お言葉に甘えさせていただけるのならば」
「構わん 何なりと申してみよ」
「はい。私を 侍女としてこの城で お雇いになっていただきたいのです。
礼儀作法は身に付いていますし ワーレンは小国ゆえ 王宮と言っても それほど多くの
侍女が居たわけでもなく 自分達でできることは 自分達でやっておりましたので
多少の給仕もできます」
「なっ」
王は絶句し その場に居た者は 目が点になったのも無理はない。滅んだとは言え
一国の王女だったものを 侍女として雇って欲しいと言うのだから。
王は珍しく動揺しつつ
「いや アンナ姫よ。あなたの意思はよくわかるが 下働きにまで身を落とさずとも
静かに暮らせる家と 贅沢は無理だが 暮らしていけるだけ物は 用意することくらいはできるのだぞ」
「陛下 それはなりません。その家と ご用意いただけるお金は この国の民が働き納めた税ではありませんか。私にそれだけのことをしていただいても 私はそれ以上のものを
この国に 返すことはできません。それでは この国の民が納得しますまい」
「わかった、わかった」
「では?」
「ああ、好きにするがいい」
王は 『これは 女版ヨーヒムだな・・・』と、思ったのだ。
正論を突きつけ こちらの反論を 寄せ付けない。ただ、それ以上に 目に宿る力
決意に満ちた表情を見れば 断ることを 諦めてしまったのだ。
「陛下、大変あつかましいのですが もう一つ お願いが」
「申してみよ」
「カインズ達 ワーレンの近衛兵団だったものをこの国の兵として 雇ってもらいたいのです。彼らの実力は かなりのものです。決して損な買い物ではないと思います」
「そうだな、優秀な戦力を得れるとあれば 嬉しい限りだが どうか?」
王はカインズに 視線を送る。
「陛下、姫 お言葉は大変嬉しいのですが お断りしたいと思います。
我等はワーレンに忠誠を誓ったもの 国が滅んだとしても 仰ぐ旗がある限り
我等の心は揺らぐものではありません。今 仰ぐ旗は アンナ姫ただお1人なのです。
ですが それでは 姫のご決意に水を刺してしまいましょう。
我等は 姫のお近くに 居ないほうが 良いと考えるのです」
「では あなた達は どうするのです」
「姫が仰ったように 我等は それなりに腕には自信があります。食っていくには
困りはしないでしょう。姫はどうか我等の事など気にせず お心のままに」
姫は カインズの手を握り また、兵団を見渡し 目には涙を浮かべ言った。
「カインズ、みんな・・・今までありがとう。今 私がこうしていられるのも
命があるのも みんなのおかげです。本当に・・・本当にありがとう」
「・・・・姫」
「あのーー・・・」
ここまで ただ、傍観することしかできなかった俺だが 恐る恐る 発言した。
「でしたら 俺の知り合いの商人が 優秀な護衛を探してまして そこを 紹介しましょうか?」
「勇者様 かたじけない お言葉に甘えさせていただいて よろしいか」
「もちろん!」
アンナ姫は 感情が高まり感極まったのか 俺に抱きつき 何度も礼の言葉を口にした。
だから マリアさん 空気 読んでください。
そんな目で 俺を見ないでください・・・。




