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勇者と姫のそれから  作者: べるこさん
第3章 融合世界編
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 ナオキは 状況(戦況)を確認するため 王都の手前に転移した。


「これは、また・・・・」


 状況を確認するために 王都の手前に転移した俺は目の前の光景に驚きを隠せないでいた。

 最初 俺はタラクシャ側が一方的にやられていると思っていたが 戦況はタラクシャ側が優勢だったのだ。

 タラクシャ軍は 戦車に対しては土魔法や水魔法を使い 戦車の真下に穴をあけ埋めたり 車体が完全に埋没するほどのぬかるみを作ったりして対応していた。高い走破性能を持つ戦車であっても 垂直の壁は登れないし 底なし沼のようなぬかるみでは キャタピラも用を成さない。

 歩兵に対しても上手く結界を使い防御しつつ相手を無力化していっている。攻撃ヘリに対しても 風魔法で気流を操作し 攻撃をそらしていた。

 その様子は一貫して防御に徹し 相手を殺さないように気を付けているのが見て取れる。

 そして その意味合いも俺にはなんとなくだが理解できる。


「陛下には 気を遣わせてしまったな」


 相手は殺すつもりで攻撃しているのだ、防御しその結果として相手が死ぬのは止むを得ないだろうに。それに 気を遣いながらの戦闘でタラクシャに死人が出たらどうするんだよ。


「・・・・・・・くそっ」


 戦争なのだから 殺すのも死ぬのも当たり前。

 その様な思考が自然に出てきた事に 寒気を覚える。

 確かに 異世界を旅していた頃は 死は身近なものだった。多くの人の死に立ち会い 魔物ではあるが命あるものを殺してきた。

 人の死にも 殺す事にも慣れている自分自身が恐ろしくなった。

 

 今目の前で繰り広げられているのは 人同士が 殺しあっている戦争だというのに・・・・。


「これは戦争なんだ」


 急に 恐ろしくなった。全身から汗が吹き出るのを感じる。目の前の景色が 歪み出し気が付けば目には涙が溜まっている。

 自分が意識して見ないようにしていたことに今更 意識が向く。そこにはピクリとも動かない いくつもの横たえる人影。いくら タラクシャ側が 殺さないように戦ったとしても これは戦争なのだ。当然 双方に死人が出る。

 そんな当たり前のことを考えながら 自衛隊の砲撃や銃火器の激しい音の中 ただ呆然と戦争の様子を眺めていた。完全に 思考が停止してしまっていたのだ。

 しかし、思考は止まっても時は止まらない。

 視界に 銃撃を受け続け結界を張る魔力が尽きたタラクシャ兵の結界がガラスのように砕け散る様子が飛び込んできた。そして 銃口はそのタラクシャ兵に向けられたままだ。

 居ても立っても居られなくいなった俺は 声にならない叫びを上げ 無我夢中で自衛隊員とタラクシャ兵の間に転移し 魔力弾を銃を持つ手に放った。

 魔力弾は自衛隊員の肩口に命中すると そのまま銃を持つ腕を引きちぎった。何が起こったか分からなかった自衛隊員は 衝撃を打てた自分の腕に視線を落とす。


「うぎゃゃゃーーーーーー」


 経験をした事もない激痛に悲鳴をあげ その場に蹲る。

 俺は 吹き出る血を見ながら またも呆然としてしまう。

 そこから 記憶が曖昧だ。

 気が付いた時には 自衛隊員を抱きかかえていた。彼の失ったはず腕は再生されていた。自分でも何をどうやったかはハッキリとは覚えていないが 必死に魔法を使ったのだろう。


「・・・・・なんなんだよ」


・・・・・・・・・・・


「なんなんだよ!」


・・・・・・・・・・・


「一体 何がしたいんだよ!!!!!!」


 自衛隊も・・・・総理も・・・・タラクシャも・・・・

 何より 俺は 何がしたいんだよ!!!!


 俺は力を解放し 王都周辺の自衛隊員、それに少し離れた場所に多数感じた人の気配。おそらく 自衛隊の前線基地なのだろう。そこに居た人全てを 転移魔法を使い 東京へと送り飛ばした。

 その瞬間まで 大きな音が鳴り響いていたのが嘘のように 静かになった。

呆気にとられていたタラクシャ兵たちは 直輝の姿を確認し 目の前で起こったことをようやく理解した。 静まりかえった戦場に タラクシャ兵たちの歓喜の絶叫が響き渡った。


その中 ただ立ち尽くす直輝。


「俺は何がしたいんだよ。どうしたらいいんだよ」





 呟きを 荒野に残し 答えを求めある男の前に転移した。

 窓のない部屋は 蛍光灯の白い光で明るく照らされている。大きな執務机に向かい書類に目を通している男は 突然感じた人の気配に視線を上げた。

 その男は白鷹首相。彼は 突然現れた直輝に一瞬驚き目を見開くが すぐに表情を戻す。そして、直輝を見据え静かに口を開いた。


「やあ、早いお戻りだな」


「あんたは、何がしたいんだ!」


 直輝は故意に目を見開き 白鷹を睨み付ける。目を閉じれば 人と人とが、殺し会うあの惨状を思い出しそうだからだ。


「戦場と言うものは どうだったかな?私も従軍の経験のない戦後生まれだからな」


「だから、あんたは何がしたいんたよ!あんたの気まぐれでどれだけの人が死んだと思っているんだ!」


「気まぐれね・・・・知っているか?既に いくつかの国は日本と同じように 融合した異世界の国に 攻めこんでいるようだよ」


「そんな事・・・・だいたい 戦争の準備だって そんな短期間でできるわけがないだろう」


 戦争のことなんて なにも知らないが それでも 何千人 何万人の人と機材を準備して 移動するだけでも相当な日数が、かかるはずだ。


「だったら、何故 自衛隊は出撃できたんだろうね?」


 白鷹は俺の動揺を見抜いてか ニヤリと笑みを浮かべ 言葉を続けた。


「そうだな。世界が融合してから今までの期間で考えれば短すぎるけど 前もって準備していたとしたらどうだろう?」


「えっ?前もってって そんな事・・・・」


 白鷹は口角を上げ ふっと笑う。直輝の反応を楽しむかのように視線を向け 口を開く。


「私は知っていたんだよ。私はアレティーアの協力者だ。まあ、協力者であって一員ではないがな」


「えっ!?あ・・・・え・・・・あ?」


 出雲さんたちに聞いたところでは 世界各国の政界経済界の深いところにアレティーアやWWAが食い込んできているらしいが まさか一国の首相がその手先だったとは 思いもよらなかった。俺は 驚きのあまり声にならないうめき声を上げてしまった。


「そんなに驚く事もないだろう。アレティーアだけでなく WWAの息のかかった者はたくさん居たぞ。WWAは 魔法使いは力を隠し人類との共存を目指し アレティーアは魔法使いが人類の頂点となり人類を支配しようとしていた。まあ、私は魔法使い云々はどうでも良かったのだが 利用できるものは利用させてもらっただけだ」


「あんたは、本当に何がしたいんだ?」


 白鷹は数秒直輝を見詰め 呟く。


「君はいたって 普通なのだな・・・・」


 白鷹の小さな呟きは直輝の耳には届かない。小さく息を吐きおもむろに立ち上がると 直輝の横を通り過ぎ扉のほうへと歩き出した。


「こんな 殺風景な所では息が詰まるだろう。外に出よう。付いてきなさい」


 そう言い残し通路に出て行った白鷹を 慌てて追いかけた。


 何だろう?先に歩く白鷹の背中は 見た目以上に大きく感じる。ここへ来た時の感情の昂ぶりはすっかり冷めてしまっている。白鷹がアレティーアの協力者だって とんでも告白を聞いただけなのに・・・・

 思えば 何故ここに来たのだろう?

 戦争や人の死を身近な物だと勝手に思い込み 訳知り顔で調子に乗り 人間同士の戦争を間近で見て ビビッて 怖気づいて・・・・

 その人間同士の戦争が 目を覆い隠したいほど凄惨なものだと知り それを指示した者が許せなくなりこの場にやってきた。

 いや・・・・違うか・・・・

 自分なら 自分の力があれば どうにかできると思っていたのに ただビビッて力任せに力を振るっただけ。取り敢えずその場だけは解決できたのだから 良かったのかもしれないが それでも自分の不甲斐無さ認めたくなくて、誰かに・・・・白鷹に八つ当たりしただけ・・・・なのかもしれない。

 それに比べ 白鷹はどうだ?

 もしかしたら 俺がただの正義感だけでここに来たわけじゃないって気付いているのかもしれない。内容は爆弾だったが ただ白鷹の告白を聞いただけなのに すっかり俺は冷めてしまった。

 話法で誤魔化されたのかもしれないが 総理大臣まで登りつめた男だ。懐の深さ 雰囲気 オーラ的な何か・・・・タラクシャ王とだぶって見える。


 白鷹が扉を開けると そこはビルの屋上で ヘリポートのようになっていた。照明は疎らにしか点けられていないが 二つの月が 照明を補うように明るく足元を照らしている。

 俺は 眩しいくらいの月を見上げ目を細める。


「俺は何がしたいんだ?どうしたらいいんだ?」


 月は直輝の呟きに答える事もなく 日の光の代わりに明るく街を照らし続ける。







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