010
路地の影から ナオキとマリアを見つめる数名の男たちがいた。
「団長 本当にやるのですか?私は どうにも奴の言うことは信用できません」
「そうだな、俺もまったく信用していない」
「だったら、こんな事しなくても 奴を殺れば 話が早いのでは?」
「だが、しかし 役人に訴えたところで 善意の第三者を装えば 罪を問うこともできないし 取り戻せる保障もない。奴を殺せば あの方にも迷惑がかかるだろう。とりあえず、
奴のいうことを聞き取引すれば 穏便にことが運ぶ。そして お尋ね者になるのは 我等だけで済む。万が一 奴が裏切れば その時は・・・。
もし 抜けたい奴は ここで抜けてくれ。恨みなどしない。むしろそれが正しい選択だろう」
「団長 我等はあの方に忠誠を誓った身。あの方のためなら 何でもします」
「皆 すまないな。迷惑を掛ける。俺も今回の作戦には まったく乗り気ではない。
だが やるからには 最善、いや 完璧を期す。皆 心してかかれ!」
そして 彼らは ナオキがマリア離れた瞬間 好機と見るや 行動に移す。
「俺の連れを 返してもらおうか」
「転移魔法・・・か。この女は お前のか?悪いな こいつは我等が貰い受ける。
痛い目を見たくなければ 立ち去るが良い」
マリアを抱えた男が言い終わった瞬間 俺は しゃがみ込んだ。
首のあったところに 銀色の刃が空を切る。
しゃがみ込んだ体勢のまま 音も気配もなく 背後に忍び寄った襲撃者の足を払う。
完璧なタイミングに油断があったのだろう 襲撃者は 盛大に転んだ。
俺は立ち上がり さらに 鳩尾を 強烈に踏みつける。
「うがっ」
襲撃者は うめき声を上げ 白目をむいた。
「嘘はいけないな。見逃すどころか 殺す気 満々じゃないか」
「ちっ、やれっ!」
マリアを抱えている男がリーダーなのだろう。リーダーの脇にいた剣士と魔法使い2人
そして いつの間にやら 後ろに現れた これも 剣士と魔法使い2人。
合計4人に 囲まれ リーダーの号令が終わらないうちに
前後の剣士が 同時に切りかかってきた。
前から来た剣士は 上から下へ 後ろから来た剣士は 横薙ぎに剣を振るう。
横薙ぎの剣の間合いから出るため 大きく避けるが そこは狭い路地
すぐに壁に阻まれる。魔法使いは すでに詠唱を終え 俺が 剣を回避する位置を予測し
火球の魔法を発射していた。
「こいつら ただの人攫いや盗賊の類ではないな。高度な訓練を受けている」
普通であれば 回避できないだろう。であれば! 剣を抜き 正面からの火球に踏み込む。
目の前に迫った火球に 斬りつけ 2つに割ってみせた。1つは 壁にもう1つは
剣士の一人に見事命中。
元から市街戦のため威力はかなり抑えているようだし しかもその半分だ。直撃しても
まあ 死ぬことはないだろう。
火球の行方を横目で 確認しつつも 踏み込んだ勢いのまま 魔法使いの懐に入り
剣の柄を 鳩尾に入れる。
「はがっ」
情けない うめき声を上げて 意識を手放した。
「そこまでだ! 剣を捨ててもらおう」
リーダーは 剣を抜き マリアの首筋に その刃を あてがおうとする。
「その子を殺しては お前たちに 何の利益もないだろう」
「それもそうだが、今 我等は 捕まるわけにはいかないのでな」
本気を見せようと 刃を首に当てた瞬間、呪符の結界魔法が発動した。
結界により リーダーは 吹き飛ばされる。意識のないマリアは
そのまま崩れ落ちそうになるが 素早く移動し マリアを支えた。
ちなみに 俺の張った結界なので 俺には作用しない。うん ご都合主義だ!
そこで マリアは 意識を取り戻した。
「大丈夫かマリア?すまない 俺が目を離したばかりに 怖い思いをさせて」
「大丈夫です。ずっと 意識がありませんでしたし 例え 意識があったとしても
必ずナオキ様が 助けに来てくれると信じていますので」
「何だ!今のは?」
リーダーは 頭を振り 剣を構えなおし まだ、健在な残り二人もそれに倣った。
「もう いいでしょう?諦めてくれませんか?」
「ダメだ!我等は 諦めるわけには いかないのだ」
そこへマリアが 口を挟んできた。
「あなた達、このお方を誰だとお思いなのですか?」
襲撃者たちは 皆 「?」といった 感じだ。
マリアは畳み掛けるように
「このお方は 魔王討伐の英雄、勇者ナオキ様です!あなた達が 何人 束で
かかってこようとも 敵う相手ではございません!」
ああ なんか 水戸にいる 副将軍が 印籠を出した感じだな。
きっとマリアの脳内では 盛大な効果音が流れていそうだ・・・。
その言葉を聞いた 襲撃者たちは 力なくその場に座り込んでしまった。
しかし 一人が 呟く。
「勇者・・・勇者だと・・・。なんでだ、なんで もっと早く 魔王を倒してくれなかったんだ。そうすれば 国がなくなることも 我々がこんな真似をしなくても済んだものを!」
俺が答えようとするよりも早く マリアが叫んだ。
「あなたは・・・あなた方は!」
一転、今度は諭すように 語りかける。
「あなた方は 勇者様が どこから来られたかご存知ですか?」
「知っているとも!違う世界から来たのだろう」
「その通りです。勇者様は 平穏な日常の中 ある日突然 誰一人 知る人も居ない
この世界に召還され 孤独や不安を抱えた上 命を掛けて 魔王と戦えと言われたのですよ?
そして 苦労の末 魔王を倒したのです。見ず知らずの世界のため 命を掛けて戦われたのです。
それでも勇者様を責めるのですか?恥を知りなさい!」
「・・・・・」
襲撃者は 返す言葉も思い浮かばず 再びうな垂れた。
「・・・いえ・・・恥知らずは 私ですね。その者達と私の行い 何も違わないのに・・・
先ほどの言葉 そっくり、そのまま 私への言葉なのでしょう・・・
ナオキ様・・・・ごめんなさい・・・・」
俯いてしまったマリアを そっと抱き寄せ
「辛く思った時期もあったけど それでも 俺はマリアに出会えた。それだけで
幸せに思ってるんだ。そんな顔をしないでくれ」
歯の浮く台詞に少し照れるが 仕方がない。本当の気持ちなのだから。
とは言え 今は二人の世界に浸っている場合でもない。俺は襲撃者達に語りかけた。
「俺は世界を救ったなんて 思ってはいません。現にあなた達もそうであるように
未だに 大人も子供も皆 等しく苦しんでいます。俺は 魔王を倒しただけで
何も救ってはいいないんですよ。あなた達が言うように もっと、もっと早く
魔王を倒せていれば 苦しむ人を 少なくできたのですが・・・」
気が付けば 手を強く、強く握り締めていた。その手をマリアは優しく包み込む。
マリアの手は とても 暖かく 俺は 握りこぶしを緩めることができた。
「勇者様は そこまで この世界のことを考えてくれていたとは・・・。本当に申し訳ないことをした。どうか許してもらいたい」
立ち上がった リーダーは 俺に 頭を下げてくる。
「顔を上げてください。ところで あなた達は 何者ですか?ただの盗賊や人攫いとは 思えない動きでしたし
国が 滅んだとは?何か 事情がありそうですが 聞かせてもらえませんか?」
「我等は 西の大陸 ワーレン国の近衛兵団の生き残りで、私は団長のカインズと申します」
「ワーレンといえば 魔王軍に滅ぼされたと言う・・・」
マリアの声は尻すぼみに小さくなる。
「国軍も奮闘したのですが 魔王軍の侵攻は苛烈を極め国民を国外に脱出させるのが やっとでした。残された僅かな兵で 国民のためできるだけ時間を稼ぐと 決戦に挑むつもりでした。決戦直前 王は我等 近衛兵団を呼び アンナ姫だけでも助けてやりたいと 頭を下げられたのです。
何とか 国を脱出し こちらの大陸に渡ってきたのですが 数日前 奴隷商に姫を攫われ
返して欲しくば、姫と同等以上の女を連れて来いと・・・それで そちらの女性を・・・」
マリアを指定して狙ってきたわけではないようなので 何かの陰謀ではないようだ。
「違法な奴隷商か。急いだほうがいいですね。この国では 違法な奴隷商には
厳罰が下ります。手元に証拠となる奴隷をいつまでも置いておくと リスクが高くなるので 早々に 売り払うはずです。」
俺の言葉に カインズはやはりと言った顔をする。
「やはり 裏切るつもりだったのか」
「確証はないですが 可能性は高いと思います。どちらにしても 急いだほうがいい。
憲兵隊を紹介しましょう。今回のことは・・・」
そこで マリアの顔を見ると 頷き返してくれたので
「今回のことは 事情もあったようなので・・・ただ、以後 このようなことがないよう
反省はしてください」
「ありがとうございます。そちらの女性も 手荒な真似をして 申し訳なかった」
「では、憲兵隊の詰め所に行きましょう」
頭を下げる カインズを促し 詰め所に向かう。他のものは 意識を失ったものの介抱に
残った。
詰め所には タイミングよく 3番隊の隊長がいたので事情を説明。勇者たる俺と
マリア姫の依頼ということもあり すぐに 憲兵隊総監に話が通り その日のうちに
奴隷商の捜査を始めることとなる。そして ワーレンの近衛兵団の面々も協力することに
なった。
詰め所で マリアがこの国の姫だと言うことがばれたので カインズは蒼白になり
頭が地面に付くのではないかという勢いで 謝罪してきたのを
必死に宥め これ以上この場にいると カインズが どうにかなりそうなので
城に戻ることにした。
帰りの道すがら
「マリア 今日はすまなかったな」
「何を言いますか。スリルがあって 楽しかったですわ」
「おいおい。一国の王女なんだ そのあたり ちゃんと自覚してもらわなきゃ」
「そうですね。私は 王女です。そして ナオキ様は 勇者です」
「ん?」
「ナオキ様、あまりご自身を責めるのはおやめください。ナオキ様は勇者です。
ですが 勇者が世界の全てを救えると思うのは 少々 傲慢と言うものです」
マリアは立ち止まり じっと俺を見つめながら続けた。
「王女には王女の役目 侍女には侍女の役目 兵士には兵士の役目 そして 勇者の
役目とは 魔王を倒すこと ナオキ様は役目を果たされたのです。
もし 魔王が健在であれば 人類が滅んでいたのですから やはり ナオキ様は
この世界を 人類を救われたのです。
私は この世界の復興は この世界に住む全てのものの役目だと思うのです。
ですから、後は私達にお任せになって ご自身のため 帰還のため
そのことだけを お考えになってください」
「マリア・・・」
俺もマリアを見つめ返し
「マリア ありがとう。ただね、今は 俺もこの世界の人間なんだ。そう思っている。
だから 俺もこの世界のため何かしたいんだよ」
「ナオキ様に そう言っていただけると とても嬉しく思います。でしたら この世界のため 何ができるか 考える。それを 私達 2人の宿題にすると言うのは いかがでしょう?」
「そうだね。それがいい。俺も何ができるか 考えてみるよ」
西日を背に受け マリアは俺の腕にしがみつきながら というか 極めながら
城に戻った。
時間はさかのぼり ナオキとマリアが 王城を出ようとしていた頃
王城内では 新たな 企みが進もうとしていた。




