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ニセモノのシルバーキャット  作者: ビーデシオン
第四話 信頼の条件
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45 信頼の条件

「じゃあ……明日は朝一番でギルドに行きましょう。えっと……」

「……ああ」


 寝室の出入口の前に立ったカヤさんが、言葉に詰まった様にうつむく。

 本当は言いたいことがあるのに、上手く言葉にできないときのような……そんな様子だ。

 理由はわかっている。それも、彼女のせいではない。


「じゃあ……おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 ぎこちないやり取りの後、閉じられる寝室の扉。

 今日の俺のふるまいが、この気まずさを生み出していることは、わかっている。それでも、隣の部屋へ向かっていく彼女の足音を追うことは、今の俺にはできそうにない。


「……あぁ」


 身体を背後に投げ出して、毛布の上に腕を広げる。

 その上で言葉にならないうめき声を漏らす。

 身体的には十分休めているはずなのに、何故か随分と疲れてしまった。

 いや……そんな曖昧な言葉で濁す必要もなく、今の俺は少しおかしい。


「別に……分かっていた……」


 そう思えているはずなのに、昼間の言葉がフラッシュバックする。

 マスターからの情報を受けて嬉しそうに笑う彼女の表情が、頭の中に繰り返される。


――実は私、マスターから仲間を2、3人見つけてこいって言われてたんです。それも丁度……あなたと会った日に!――


 その言葉を聞いた途端、心に棘が刺さったような感覚を覚えた。

 もちろん、悪気はないのは分かっている。加えて言うなら、カヤさんが俺のことを尊重してくれているのも分かっている。俺のことを信じて……頼ろうとしてくれていることも、わかっているはずだ。


 それなのに……別に、カヤさんからの信頼が揺らいだわけではないはずなのに、この気持ちは一体なんなのだろう。


「ああ……いや……」


 少し考えればわかることだ。

 彼女は「仲間」を求めていて、俺はそこに収まったわけで。

 それが心地いいと、わかっているはずなのに……

 今はまだ顔も見えない「新しい仲間」に俺は意地汚い激情を抱いているんだ。


「なるほど……な」


 ぐちゃぐちゃな感情の正体を、今、理解した。

 この状態を言い表すのに、最もふさわしい言葉は……嫉妬だ。


「よし……謝ろう」


 感情の正体を言葉にして、やっと自分の気持ちに整理が付いた。

 今なら彼女にしっかりと向き合って話せる気がする。

 彼女が、寝室の扉を閉めてから、そう時間は経っていないはずだ。

 今から急いで部屋に向かえば、寝る前に声を掛けられるかもしれない。

 思い至った心のままに、ベッドから立ち上がって扉へ向かう。

 ドアを開いて居間に出て、隣の部屋の前に立つ。


「カヤさん……まだ、起きているだろうか」


 声をかけても返事はない。

 ひょっとしてもう……寝てしまっただろうか。

 そう思って、部屋の扉に手をついて……気付いた。


「? ……開いたままなのか」


 その上、まだ明かりが灯っているらしい。

 無意識に触れた指先に押されて、音もたてずに扉が開いていく。

 驚いて立ち止まっているうちに、部屋の内装を視界に入れてしまう。


「……いないのか?」


 ほのかに灯るランプの根元、右手側の角に置かれたベッドの上に、カヤさんの姿はない。

 それ以外は暗くて良く見えないが……

 部屋の中は、随分と物が多く、ごちゃついているように見える。


「……カヤさん?」


 彼女の姿を探して、部屋の中へ踏み入る。

 一瞬、私室を覗き見るのも悪いような気がして……思い出す。

 そういえば、ここは本来仕事部屋だという話だった。

 私室ではなく、仕事部屋なら……

 と、筋が通っているのかわからない言い訳を胸に歩みを進めていると、ベッドの傍とはまた別の、明かりのようなものが目に入る。


「……階段?」


 床板の一部をくりぬいて作られたような、両開きのハッチ。

 そこから覗く光の先には、段になって続く石畳が見えた。

 敷石の大きさは不揃いで、そのせいで階段も不格好になっているようだが……


「地下室が……?」


 視界の先、光の元になった空間の床は、一枚岩のように滑らかだった。


「カヤさん……?」


 気付けば俺は彼女の名を唱えて、階段を下り始めていた。

 素足にひんやりとした石の感触が伝わって、全身の感覚が研ぎ澄まされる。

 いつか抱いた疲れですら、今は忘れて緊張を抱く。


「――――――――」


 彼女の声だ。誰かと話しているような声色ではない。

 例えるなら、何か呪文を唱え続けているような、そんな呟き。

 あと数段歩みを進めれば、その光景が明らかになるだろう。

 何か確証があるわけではないが。

 この先を知れば、何らかの前提が大きく揺らぐかもしれないと思う。


――本当に、このまま歩みを進めて良いのだろうか?


          ◆◇◆◇◆

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