44 どこかぎこちない
「そういえば、お前ら向けの耳寄り情報があるぞ」
「ほう、なんですか?」
マスターから耳より情報なんて珍しい……なんて思いましたが、よくよく考えるとそうでもないかもしれません。
彼もかなり面倒見のいい人ですから、こうして時々声をかけてくれるおかげで、私のような駆け出し冒険者が助かっているのは紛れもない事実です。
「丁度昨日か一昨日だったか、新しい冒険者がギルドに来てな」
「駆け出しですか!?」
「……まあ、おそらくそんなところだろう。二人組で……登録証を見せてもらったが、年もお前らと同じくらいだったはずだ。」
「ほほう……?」
登録証をもっているということは、よその街から来た冒険者さんなんでしょうか。
そんな人たちが、わざわざエイビルムの冒険者ギルドを訪れるなんて、珍しいような気もしますが……
「確か、東の遺跡群に行くために、下積みがしたいと言っていたな」
「ああ、なるほど!」
そういうことなら納得です。確か、エイビルムからずっと東の遺跡群は、いずれかのギルドのマスターに認められなければ、立ち入ることすらできないという話だった気がします。
裏を返せばそれは、マスターから見て件の冒険者さんたちが、まだまだ駆け出しの段階であるという証明でもある……のかもしれません。
「ただまあ、彼らも今朝依頼に出たばかりだからな。帰ってくるのは今日の夜か……明日の朝ってところだろう」
「なるほどなるほど……だったら、明日は絶対早起きしないとですね!」
「毎日しろよ」
「あ、あはは……」
そうズバッと言われてしまうと弱いですが……なんにせよ、とてもありがたい情報であることには間違いありません。
そんな風に、私がマスターに「ありがとうございます」とだけ伝えて頭を下げると、横からヨウハさんが顔を覗き込んだのが見えました。
「あの……いまいち話が見えなくて……すまない」
「ああ! 確かに説明不足でしたね」
そういえば、ヨウハさんには私の立場や現状についてあまり話していませんでした。そうですね……一から説明すると時間を食いますし、ここはマスターの言葉を借りてしまいましょうか。
「実は私、マスターから仲間を2、3人見つけてこいって言われてたんです。それも丁度……あなたと会った日に!」
思い返してみると、丁度その日にヨウハさんと出会ったなんて随分な偶然ですが、これこそ巡り合わせというものなのかもしれませんね。
「……そうなのか」
「ええ、だから今聞いた二人も、仲間になってくれるかもしれないなって……あれ、どうしました?」
私が感慨に浸りながら言葉を続けていると、何やらヨウハさんがその小さな口を横に結んで、眉を垂れ下げていることに気が付きました。
「いや……それで結局、今日はどうするんだ?」
「あ……そうでした。……うーん、とりあえず買い出しには行かないといけないので、今から依頼を受けるのは……難しいですね」
「それなら、重いものは俺に任せてくれ」
「おや、随分やる気ですね?」
ふむ……? もちろん嬉しいことでしかないのですが、なんというか今のヨウハさんは……かなり張り切っているように見えます。
一体どうしてしまったのでしょう? そう思って、マスターの方を見てみると、彼には何故か深いため息を吐かれてしまいました。
「さて、もう仕事の邪魔だ。用が済んだら買い出しなりなんなり行ってくるといい」
「あ、はいすいません……でも、ありがとうございました!」
私が頭を下げ終えると、マスターはこちらにひらひらと手を振りつつ、カウンターの奥の方へと消えていきました。彼もこう言っていることですし、早速買い出しに向かってしまいましょう。
◆◇◆◇◆
時刻は夕暮れ、買い出しを終えてエイビルム東の街道を進んでいるころ。
私とヨウハさんは横並びで、ずっと歩き続けているのですが……
なんというか少しばかり、奇妙な状況になってしまっています。
「ほ、本当に重くないですか……?」
「大丈夫……だ」
「私もバックパックがありますから、いくらか持って行けますよ……?」
「問題……ない」
というのも、今私の隣を歩くヨウハさんは何故か……巨大な麻袋を荒縄で背中に括り付け、全ての荷物を背負ってくれていました。
中身は主に食料品や薬の調合に使う材料なのですが……これまたヨウハさんの提案で十日分を一気に仕入れてしまったせいで、かなりの重量になってしまっています。
ヨウハさんはそんな大荷物を自分一人で(まとめ買いのおまけに貰った麻袋と荒縄を用いつつ)一度に運ぼうとしてくれているのです。
「本当にどうしちゃったんですか……?」
「どう、というと」
「いや……もちろん張り切ってくれるのは嬉しいんですけど……なんというか……」
「おかしい」という言葉が喉元まで出かかって、なんとか飲み込みます。
これだけの大荷物を頑張って運んでくれているというのに、その善意を無下にするような言葉をかけたくはありません。
何より、私がそうであるように、ヨウハさんが私を信頼してくれているのは……確かなはずですから……
「……なにか、言いたいことがあったら、遠慮なく言ってくださいね」
「……わかった」
それっきり、夕暮れの街道に訪れる沈黙。
もちろん、以降全く何も話さなかったわけではありませんが、帰路に着く私たちの足取りはどこかぎこちなく……
次第に、交わす言葉も少なくなってしまっていました。
◆◇◆◇◆




