↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニセモノのシルバーキャット  作者: ビーデシオン
第四話 信頼の条件
PR
43/52

42 お届けもの

 昨日随分と動き回ったおかげか、予定通りに起きられた朝のこと。

 珍しく玄関のドアがノックされたことに驚きつつ応対してみると、そこには二人の人影がありました。


「ごきげんよう、我らが素晴らしき友よ!」

「……え?」


 そう、玄関。目の前に白衣の男性と何やら疲れた様子のキジトラさんが、待ち構えていたこの場所は、紛れもなく私の家の玄関です。一体なぜ、彼らがこの場所を知っているのか。存在し得る可能性は一つしか思い当たりません。


「まさかとは思いますが、師匠から聞きました?」

「その通り。明日は朝から遺跡群の方へ出向く用事があると言ったら、道中寄っていけるようにと快く教えてくれたのさ」

「あー……」


 なるほど。うっかり入れ違いにならないように、師匠なりに配慮してくれたことは嬉しいのですが、やり方がちょっと強引だったわけですね。もちろんありがたくはあるのですが、もう少しなんとかならなかったんでしょうか。


「ちなみにこれは迷惑料らしい。強引なやり方でごめんなさい。とのことだ」


 私の思考に割りいるように、アーフルさんの手元には大きな編み籠が携えられていました。中を覗いてみるとそこには、いつか見た柔らかいはちみつパンと、数日保存がききそうな硬めの黒パンが。


「配慮の仕方がおかしいです……」

「ははは、私もそう思う」


 流石にアーフルさんも乗り気ではなかったようで、はつらつでありながらも乾いた笑いで答えてくれました。奥に見えるシャラさんが共鳴している辺り、二人にとっても微妙な申し出であったようです。


「カヤさん? なにかあったのか?」


 そんなやり取りを交わしていたら、家の中の方から足音が響きます。振り返って見てみれば、当然ながらそこには、私より少し高い背丈で、黒髪の男の子の姿がありました。


「ああ、ヨウハさん。実は……」


 私が説明しようとしたところで、アーフルさんの咳払い。見てみると、ジェスチャーで後ろのキジトラさんに合図している様子。合図を受けたシャラさんはといえば、アーフルさんからさらに後ろ、大量の積み荷を積んだ荷車の上から、いくつか荷物を取り出し終えたところでした。

 あの荷車……見覚えがあるということは海岸での依頼の時に貸し出された物と同じでしょうか。

 ともあれ本題は、なぜ彼らがここまで来てくれたのかということ。心当たりはありますが、説明は任せて良さそうです。


「おっ、少年。今日ももじゃもじゃだね!」

「もじゃ……」

「名前も決まったようでなにより。そんな君にいくつかプレゼントがあるよ!」


 そう言って、シャラさんは、両手で抱えていた荷物を一旦床に降ろし、麻袋の中を漁り始めます。麻袋の中はところどころ出っ張っており、袋の口からは、何やら木製の柄のようなものが突き出ている様子。心当たりがあるのは紹介状くらいですが、明らかにそれだけでは済まなさそうです。


「まずこれ。約束の紹介状ね」

「ああ……」

「それとこれは借りてた衣類。心配しなくても、院長の手垢は全部洗い流しておいたから」


 彼女は相変わらず重要度の低い情報を伝える人であるようですが、アーフルさんが横から「非常に興味深い素材だったよ」何て言っている辺り、そこまで冗談でもないのかもしれません。

 アーフルさんには失礼かもしれませんが、なんというかこの人は、文字通り手垢が付くまで調べ尽くしていそうな気がしてしまうのです。


 さておき、これでヨウハさんの手元には、木の棒に巻かれた羊皮紙の巻物と、浜辺で見た諸々の衣類が行き渡りました。微かに石鹸の匂いが漂う毛皮のマントは暖かそうでもありますから、今すぐにでも身につけてもらって良いかもしれません。


「それと、最後にこれを……って重いねこれ。袋のままでいい?」

「なんですか、それ……?」


 シャラさんが袋から取り出そうとして諦めたのは、先ほどから気になっていた木の柄の物体であるようです。

 言う通り、すごく重そうですが、私はパンの籠を持ってしまっています。一度中に置いてこようかと思ったところで、ヨウハさんが自分で袋を受け取りにいってくれました。


「これは、剣だな?」

「ご名答。ついでに中を覗いてみて」


 なるほど、確かに師匠は衣類だけでなく、剣も預けたと言っていた気がします。しかし、あの剣は重さこそ十分にあれ、随分と錆びついてしまっていたような気がしますが……


「これは……すごいな」

「錆一つない、でしょ?」


 言う通り、ヨウハさんが口紐をほどくと、そこには鈍く輝く刀身がありました。幅広で先の丸まった、片刃の剣。紛れもなく、あの浜辺で見たものですが、その漆黒の刃には錆一つありません。一体どういうことなのでしょうか。


「武器屋のおじさんも驚いてたよ。ここまで錆が取れるとは思わなかったってさ」

「手入れ不足による経年劣化ではなく、海を渡って一時的に付いたものであるなら、そうおかしな話ではないよ」


 二人に言わせれば、そう言うことであるようです。私はそこまで武器に詳しいわけではありませんが、改めて見てみればかなりの業物にも見えます。何より、記憶を失う前のヨウハさんが扱っていた武器であるなら、これ以上に適した武器はそうそう見つからないかもしれません。


「なんだか、今日の予定が二つも減っちゃいましたね」

「ああ。だが、俺としては少し嬉しくもあるな」


 そう言って、両手に剣を握り直したヨウハさんは、少し誇らしげな表情をしていました。やっぱり彼も一度、魔物を倒した武器には、思い入れがあるのかもしれません。


          ◆◇◆◇◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。